見出し画像

【ショートショート】『ドキッ!男だらけの紅茶のある風景/ある日の鬼軍曹』

【紅茶のある風景/コンテスト投稿作品】

..................................................

俺が所属する、選りすぐりの猛者が集う特殊部隊、その名は

【【【  D  R  F  】】】

今日も俺達は、あらゆる社会の敵から市民の安全を守る為、鬼軍曹の指導の下、厳しい訓練に励んでいた!

.............................................................................................................

この日の正午近く、我が部隊の鬼軍曹、碇屋の怒りが爆発した!
きっかけは休憩中、俺の同期である志村隊員が軍曹に対して放った一言だった。

「あのぉ、軍曹殿。そろそろいいんじゃないでしょうか?」
ご機嫌を伺う様に、そう訊ねた志村に碇屋軍曹は突如、烈火の如く怒りだした!
「なにぃ!馬鹿野郎!志村!お前誰に向かって、そんな口聞いてんだ!まだ2分前だぞ、おい!」
鬼軍曹の怒号をまともに浴びた志村は、文字通り震え上がり、身体を硬くして裏声になりながら謝罪した。
「すみませんでした!軍曹殿!」
だが碇屋軍曹の怒りは収まらず、俺まで飛び火した!
「おい!加藤!お前、まだ手を付けてないよな!」
俺は姿勢を正し、直立不動で答えた!
「はい!軍曹殿!まだ手は付けておりません!」
碇屋軍曹は怒りの形相のまま、他の2人の隊員に聞いた!
「おい!仲本、高木!お前らもまだ手を付けてないよな!」
仲本と高木は声を揃えて答えた!
「はい!軍曹殿!まだであります!」
2人の声を聞いた碇屋軍曹は厳しい表情を保ったまま、俺達、隊員全員に向けて言った。
「お前らなぁ、一人がちょっと決まりを破っただけで、仲間の命が奪われる事があるんだよ!よく覚えとけ!」
そして軍曹は志村に顔を向けて吠えた!
「『たかが2分位』なんて思ってたら大きな間違いだぞ!俺は、決まりを守らない奴には容赦しないからな!覚えとけ!」
志村は涙声になりながら答えた!
「申し訳ありませんでした、軍曹殿!」
碇屋軍曹は、表情をほんの少しだけ緩めて自分の腕時計を見た。
「よし!10秒前だ!準備しろ!」
俺達は、軍曹の声に煽られて身構えた!

9、8、7、6、5、4、

3秒前になり、軍曹は声に出してカウントダウンを始めた!

「さん!」

「に!」

「いち!」

時計の針が丁度、正午を差したのを見て、

碇屋軍曹が叫んだ!

「よし!飲んでいいぞ!!」

俺は手に持っていたペットボトルの蓋を開けて、カラカラの喉によく冷えた
【午後の紅茶/レモンティー】
を一気に流しこんだ!

美味い!

ハードな訓練で乾ききった身体にレモンティーが染み渡った!

他の3人の隊員も各々、美味しそうにペットボトルの【午後の紅茶】を飲んでいる。

その様子を見た碇屋軍曹は頷きながら俺達に向かって言った。

「お前ら、特殊部隊【DRF】の一員としての誇りを忘れるなよ!」

俺達は碇屋軍曹に敬礼で答えた!

「はい!軍曹殿!」

碇屋軍曹は頷いて、【午後の紅茶/ミルクティー】を片手に、俺達から少し離れ所に腰を下ろした。

それを見た志村が俺に近寄ってきて、小声で聞いてきた。

「ねえ、カトさん、カトさん、【午後の紅茶】って、午前中に飲んだら駄目なの?」

俺も声を潜めて答えた。

「いや…別にいいんじゃないの?多分、【午後の紅茶】って、そういう事じゃないと思うけど」

「なんか碇屋のオヤジ、本気で怒ってたよ」

「確かに超本気で怒ってたな。まあ、人それぞれの決め事があるからな…これから、あのオヤジの前で【午後の紅茶】を午前中に飲むのは辞めた方がいいかもな。又、怒りだしそうだからさ。意味解んないけど」

俺の言葉を聞いた志村は納得したように頷いて、元の位置に戻った。

俺は横目でこっそりと、その碇屋軍曹の様子を確かめてみた。

すると軍曹はしかめっ面のまま【午後の紅茶/ミルクティー】を一口飲んで、『おっ!』と驚いた表情を見せた。

えっ?あのオヤジ、俺達に散々厳しい事言ってたのに【午後の紅茶】飲んだ事無かったの?さっきあんなにキレてたのに。

そして鬼軍曹は、『ほう、やるじゃないか』という様に頷き、手に持ったペットボトルをしげしげと見つめながら、ほんの一瞬だけ笑顔を見せた!

えっ?あのオヤジ、笑うんだ!

それは、俺が入隊して3年で初めて見た鬼軍曹の笑顔だった!

【終】


サポートされたいなぁ..