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ちょっとだけ

何をやっても、うまくいかない、最近ずっと眠れない。
同じところを堂々めぐりしているようにも思える、そんな日々。

いつも通り、6号車4番ドアから乗車する帰り道。
疲れに身を任せながら壁に背中を預け、目を閉じる。

目を閉じると、少しだけ、呼吸が整うような気がする。

それでもやっぱり落ち着かないから、仕方なく、
「ちょっとだけ…」
そうやって目を開けた時、飛び込んできた、新しいクラフトビール車内広告キャストさんの、爽やかな笑顔。

眩しすぎて目を逸らし、逸らした先の窓に映る、自分の疲れきった顔。

それもまた見ていられなくて、目を閉じようと思うのに、なぜかまた、涼やかなほほえみを、ぼんやり眺めてしまう。

何かを語りかけてくれそうで、でも、当たり前だけど、何も話しかけてはくれない。

言うまでもなく、私のために、笑ってくれている訳じゃない。
そして、たぶん、話しかけてくれたとしても、
「このビールおいしいよ、買ってね」
以外に、伝えたいことはないでしょう。

それでも。

「ちょっとだけ…」、そうやって、試しに、心做しか重い表情筋を動かして、口角をあげてみた。

にぃ…

違う、そうじゃない。
もっと軽やかに。

に!ににぃ…

まあ、いいか。
目も笑って。

あれ、目ってどうやったら、にっこり、になるんだっけ、、、

そうやって、ひとり、苦戦しているうちに、自分なにしてんのよ、なにを張り合おうとしてんのよって、おもしろくなっちゃって、あんなにぎこちなかった表情筋が、一瞬でほぐれた。

私も、笑えた。

笑えたよ。

キャストさんの、風鈴の音が聞こえてきそうな、さっぱりした笑顔には程遠いけれど。

それで、いい。
それが、いい。

「The next stop is 〜」

もうすぐ降りるんだ

そうやって、寄りかかっていた壁から、背中を離す。

いつもより、身体が、軽い気が、した。

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