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一緒におじいさんを助けた「同志」

2011年12月26日(月)。
年末年始に大規模なシステム移行を控え、毎日毎日遅くまで残業する日々が続いていた。

その日も遅くまで仕事に追われ、なんとか終電に間に合いそうな時間に、職場を出た。

外に出ると、しんしんと雪が降っている。大粒の雪が上から下へまっすぐと。「積もりそうだな」と思いながら、駅までの雪道を急いでいた。すると前方に、道をふさぐ大きなかたまりが見えてきた。

近づいてみると、酔っ払ったおじいさんが一人。歩けなくなって、しゃがみこんでいる。私は、声をかけ、おじいさんに肩を貸して、家の方向を聞きながら、なんとか大雪の中をおじいさんを抱え、家まで連れていった。気づくと、とっくに終電の時間は過ぎていた。

あ、少し、書き漏れていた。

前方に見えたかたまりに近づくと、酔いつぶれたおじいさんに、声を掛ける若い女性。「歩けなくなっちゃったようなんです。」二人でおじいさんに声を掛けながら、二人で肩を貸しながら、立ち上がらせた。家の方向を聞くが、なかなか上手く説明ができない。少し進みながら、真っ直ぐか、右か左か聞きながら、なんとか大雪の中をおじいさんを抱え、家まで連れていくことができた。ひとまず玄関の中におじいさんを入れて、私たちは退散することにした。「これで凍え死ぬことはないでしょう」気づくと、終電の時間はとっくに過ぎていた。

その女性と二人、「無事、家まで連れて行けて良かったですね」と話しながら、来た道を戻っていく。彼女の家は、この近所のようだ。「こんなことってなかなか無いですよね。良かったら、連絡先交換しませんか」、その女性からそう言われ、携帯電話のメールアドレスを教えた。雪が降る夜。素早く、手帳に書いて、その紙をちぎって渡した。

「お疲れ様でした」そう言って、私たちは別れた。

私は、タクシーがつかまりそうな通りまで歩いていた。なかなかタクシーがつかまらない。私は、歩きながら、すぐにメールが来るものだと思っていた。

しかし、その夜、メールが来ることはなかった。「こんなことなら、こちらも聞いておけば良かった」そう思いながら、年を越した。

システム移行を終え、年が明けてからは新センターへの勤務となり、あの付近を通ることは、ほとんど無くなった。

上の子は六歳。下の子は二歳。休みの日は、子どもたちと一緒にスキーをしたり、雪遊びをしたり。楽しく過ごしながらも、たまに、その女性のことを思い出してメールを確認した。手書きのメールアドレスは、正しく読み取れただろうか。「a」の字が、雪ににじんで「d」になったり、していなかっただろうか。

1月の終わり。私は子どもたちの寝かしつけをしていた。寝かしつけは、だいたい自分が先に眠ってしまうことが多い。ちょっと眠ったかもしれない。子どもたちも眠っている。暗闇で、携帯電話が光っていた。



「おぼえていますか?一緒におじいさんを家まで送った者です」





あ、来た。

お互い、メールで、自己紹介をした。彼女は26歳だという。

二月に、二人で食事に行くことになった。


つづく。

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