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福祉業界の連携について

前回の記事では業態によっての働き方の違いについてまとめました。

相談員以外の情報は見聞きしたものになるのでふわっとしていたかもしれませんね。
少しでも現場感が伝わればと思っているのですが難しい限りです。

さて、今回は福祉業界の特色について私が感じているところを書いていこうと思います。
福祉は現在「サービス」として提供されています。つまり、利用者が選ぶ側であり、福祉は選ばれる側なのです。なので、同業他社とは競争が生じます。これは、様々な業界でも同様だと思います。
ですが一方で、福祉は同業他社とノウハウを共有するという視点があるなと感じます。これは、他の業界ではあまりないことなのではないでしょうか。

福祉における「サービス」とは、支援技法や作業やレクリエーションのプログラムのことです。
授産品の質におけるノウハウの共有(例えばクッキーの美味しい作り方など)は企業秘密になると思います。
ですが、支援技法やその根幹にある考え方、国から得られる報酬の根拠となる支援件数の計上方法については、割と情報交換をしているのです。

これは福祉の独特の文化なのではないかなと考えています。
その点についてまとめてみます。

支援技法の共有

ひとつは研修会などでの場面です。
福祉業界ではよく、行政機関や広域の支援センターが主催で研修会を開くことがあります。例えば虐待研修や重度の行動障害を伴う知的障害者の支援について、行動観察でおこなうアセスメント研修など、内容は様々です。
講義形式だけでなく、グループワークや意見交換をおこなうことも少なくありません。いわゆる同業他社、同じ分野の支援をしている他法人の支援者と顔を合わせ、日々の支援について情報交換をおこないます。

最近、重度障害のあるAさんにこのような支援を展開した。しかし、こういったところで躓きや難しさを感じた。他の法人では似たようなケースはあるか、と問うと、うちではこうしている、こういったことを聞いたことがある、この制度をこのように読み解いて適用した、など、様々な意見をもらうことができます。

もうひとつは日々の支援場面での情報交換です。
例えば、私が支援している対象者のBさんから、家族が認知症かもしれないと話を聞くことがあります。Bさんがそういった家族への対応を迷っており、仕事に影響が出てきそうだとなった際には、地域の支援者に意見を求めることがあります。実際に住んでいる地区の地域包括に事情を伝え、改めてBさんから連絡を取ってもらいます。
地域包括から「それならまずこっちに相談した方がいいよ」と言われることもあります。
逆もまた然りで、介護サービスにはまだ早いと感じている、と地域包括の支援者から就労支援の可能性を確認されたこともあります。

また同じ就労支援の立場にいても、私のいるセンターは視覚障害や聴覚障害の方への支援は事例が少ない傾向にあります。そういった障害の方から相談を受けた時には、以前研修を主催されていた日本視覚障害者職能開発センターに問い合わせて、視覚障害の方の就労支援の視点を共有することもありました。
直接そちらに繋ぐ、というだけでなく、視覚障害の人の特徴や、特有の支援メニューの有無などを確認し、その上で自分に何ができるかを考える、という情報提供をいただいたことがあります。

さらに他の圏域のナカポツから連絡をいただき、「うちの圏域に雇用率ビジネスのコンサルが事業展開始めたみたいで・・・。そっちも同じコンサルが会社作ってたよね。そっちはどんな感じ?」みたいな情報交換をおこなうこともあります。

このように、直接利害関係が生じることはない中で、他分野・同一分野支援者に意見を伺うことは少なくありません。
この電話が報酬に繋がるわけではないのですが、いわゆる「多職種連携」の意識の下地があるから自然とこのようなやり取りが生じているように思います。

勉強会や飲み会

コロナ以前については、集合の勉強会やその後の飲み会は割と当たり前にありました。
例えば虐待に関する研修として、県内市内の支援者が分野関係なく集まって研修を受けます。そこで自法人の虐待に関する取り組みや、自身の支援を振り返って考える機会を作っています。
また、新たに行政から通知のあった制度改定について地域で共通理解をつくり、連携の在り方を検討する会議をおこなうこともあります。

最近では、就労定着支援事業が始まった際、圏域の就労相談分野で集まって会議をし、その後に行政と打合せ、最後に地域の就労移行を中心に事業所に集まってもらい、行政から制度の説明と就労相談からの連携案を提示し、各事業所に理解をいただく場を設定しました。
その中で文言の読み解き方や、地域での具体的な運用を決めていきます。

そして飲み会。ここではもっとざっくばらんな話が出てきます。
職員配置が厳しくて本当に対応が難しくなっていて悩んでいる、とか、法人の考えはこうで・・・といった食い込んだ話から、プライベートな話題まで様々です。
私は立場もありますし、上司の隣で頷いていることが中心でしたが、そういう下地があると現場で会った時にも話しやすく、電話でケースの相談をする、情報収集するハードルが下がるように思います。


まとめ

お互いに利用者獲得を競う中、という視点はもちろんあるでしょうが、それにしても福祉には「地域の社会資源の質の向上」という視点が欠かせません。
自法人の施設の利用を促す、という視点は基本的にはなく、何が本人にとって必要か、という視点でサービスとの紐づけを考えていきます(その先に自法人のサービスがあれば、相性も考えてお連れするわけですが)。この公共性だの公益性だのが福祉の視点にはあるはずです。

これは法人の理念や思想にも触れるものです。うちのような古くからある社会福祉法人だと、「とりあえず本人に必要なことはやるか繋げる」という考えだと理解しているので、中立の立場で素直に福祉を考えることができます。
一方で株式系が母体の場合、やはり営利という視点は外せなくなるでしょう。これは悪いと言っているわけではなく、そもそも営利目的なのだから当たり前という話。ただ、その中で働く職員の中には、「福祉」という視点から考えて「ずれ」を感じることもあるかもしれません。感じろと言っているわけではないです。感じる人もいますよ、という話。

福祉業界に限らず営利企業で競争に疲れた方はいませんか。
自分だけでノウハウを磨かなければいけなくて苦しかった方はいませんか。
こちらはもう少し周りと視点を共有する機会が多いですよ。

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