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福祉で人間的な成長を

前回の記事では福祉業界で働くことをお金の面から整理してみました。


基本的には安定している業界であると私は考えています。
一方で平均年収は他の業界に比較してどうか、と考えてみました。
myナビ転職さんによると、110の業界に分けたところ、「医療・福祉・介護サービス」は106位(年収438万円)!なんとまあ。改めて見るとちょっと辛い。
これでも薦められるのか?なあ、どうなんだ?おい。

・・・正直悩ましくもある。これ、テーマとして頓挫してませんか。私自身が自信を失っております。

福祉業界で働くことを薦められるのか。
お金の面で言えばまだまだこんなものです。安定感にしか着目していなかった。正直すまんかった。

けれど。けれどね。
お金以外でも薦めたい部分があります。
それが今回のテーマ。
つまり「人間的な成長」です。おっ、大きく出たな。貴様やりがい搾取か?


人間的な成長とは

大きく出ましたが、そんな大それたことではないです。
ここでいう「人間的な成長」を分割すると、以下のようなものだと考えます。

①人とのやり取りにおける自己の感情コントロール力
②相手の希望を考察し、実践する親切力
③人間の尊厳や人権を考える倫理観の醸成

このようなところでしょうか。

福祉の業界では、日々このようなことが問われていると考えます。
もちろん、どのような業界でも人と人のやり取りがある中では、①~③の力を身に着けることが重要ではありますが、福祉ほど露骨で、仕事の質に直結するものはないと考えています。
それぞれをまとめてみます。

①人とのやり取りにおける自己の感情コントロール力

これは福祉業界全般が感情労働である点から重要な力です。
自身の感情をいち早く自覚し、適切な表現にコントロールする力。

これは人とのやり取りが生じる全ての仕事をおこなう上で重要な力ではありますが、この行為自体がサービスになっている業種は案外少ないのかも。

極論を言えば、相手の快・不快は置いておいて、営業職であれば、取引先との契約が成立すれば、仕事が成立していると言えます。その中で感情をコントロールすることはテクニックとしてあるでしょうが、いい条件を積めば不遜な態度でも契約が成立することがありますよね(ギリギリの条件で契約しないと利益は出ないわけで、そのために相手に感情的にも気に入られることを目指すのでしょうが)。

しかし、福祉業界はこの感情をコントロールすることがサービスの質に直結し、場合によってはサービスの成立を左右します。

例えばお風呂介助の目的としては身体を清潔にすることが挙げられます。では、清潔にできればサービスとして成立するかというと、そうではなく、その間に穏やかに声掛けをして本人に安心感を与えながら介助を進めるという、経過(手段)にこそサービスの質が問われるのです。もちろん結果清潔になっていない、ではいけませんが。
ただ湯船にぼちゃんと入れて、泡でごしごしやって終わり、ではサービスの質は担保されません。湯加減はちょうどいいか、洗い足りないところはないかなどを確認していく。次の利用者が待っているし、思う通りに動いてくれないイライラの中でも、それをぐっとこらえて(感情コントロール)、穏やかに声をかけていくところが重要なのです。

感情をコントロールする上で、自分の感情にいち早く気付くことが必要になります。
「自分は今イライラしているな」とか「勝手に動かれるのは不安だな」とか。
イライラしている自分を感じ、そのまま出すのではなく、穏やかに努める。不安だからとお節介をしてしまうのではなく、危険がない範囲で本人の行動を見守る。

なぜそう自分が行動したいのかを振り返り、それが自他の利益・不利益どの部分を優先しているのか、どのようなバランスが必要なのかを考え、行動に移していく。
まあ実際の介護の場面ひとつひとつでそのように行動できることはないですし、あくまで私の理想ではあるのですが。
しかしある時に立ち止まってその点について自問し、周囲に意見を求め、その後の対応を修正していく。福祉の本来の質の向上はこういったところにあると私は考えます。


②相手の希望を考察し、実践する親切力

これは相手が困っていることを分析し、相手が自覚していない部分を含めて希望(ニーズ)を把握し、可能な範囲で対応するという力です。
また、自分や自分の所属する事業所が対応できない時には、対応できるサービスを探す力でもあります。

福祉業界では、相手が全てのニーズを自覚し、表出することができない場合があります。また、そのニーズが本人の不利益に繋がっていることを自覚することができない場合もあります。

その時に支援者は中立の立場から相手のニーズを正確に把握し、助言や支援、連携をおこなうことが求められます。

たとえば知的障害があって発語に限界がある場合には、行動観察をおこないます。
第一には本人がわかりやすいように選択肢を整理し、理解できる言葉で説明をおこないますが、それでも伝わらなかったら、普段の様子から本人が好むであろう選択肢を促します。
また、言語化できていたとしても本質的でないと感じた時には、より詳しく聞き取って、根本にある問題は何のかを本人と一緒に確認していきます。

こちらが先回りして回答してはお節介、鬱陶しいとなるので、基本的には本人と足並みをそろえて理解を進めていきます。そして本人が納得するのであれば、場合によってはある程度の不利益には目を瞑り、一緒にコケる体験を踏むこともあります。

福祉は事業者の利益だけでなく、相手の利益を考えることを本質としていると思います。もちろん、事業が立ち行かなくなってはそれこそ相手の不利益になってしまうこともあるのでその限りではありませんが。しかし非営利だからこそ、中立の立場、または相手の立場に立って、相手の納得できる答えに一緒に辿り着き、それを実践することをよしとしているのです。

③人間の尊厳や人権を考える倫理観の醸成

これは福祉の業務に携わる以上、必ず問われる部分だと思いますし、そうあるべきだと考えています。
この点が欠けることで虐待、施設内での犯罪行為に至るのだと考えます。

「自分では動けない、話せない。だから価値がない」

福祉業界が強烈なショックを受けた事件の、極端な思想ですが、この言葉を思い浮かべてはいけない、というわけではなく、この言葉が浮かんだ時、本当にそうなのか、と自問できる力、自問し続ける力が倫理観なのだと考えています。

人間の尊厳とは何か。人権とは何か。「生きる」とは何か・・・。
など、人間の根幹を問われるシーンが、福祉の現場ではそこかしこにあります。
これも現場では毎日考えながら支援をおこなっているわけではないですが、ふとした時に話し合う場面があるのです。

このように、「人間」について考え「今の支援はこのままでいいのだろうか」と自問自答し、改めていく力が福祉では求められていきます。


まとめ

福祉の現場では上記の①~③の力を問われるシーンが少なくありません。
これらの力が成長することを私は「人間的な成長」と表現しましたが、やはり大それていたかもしれませんね。
でもさ、これらって結構、人間活動の根本だと思うのだよね。どう思われたでしょうか。

これらの力が延びていくと、福祉業界で辛くなって他の業界に転職したとしても、悪くない経験になるのではないかと思います(テーマからまた逸れる)。結構人当たりのいい人が生まれると思います。そんな人材って、意外と貴重では?
もちろん、これは福祉の根幹であって、専門的な介助技術とか相談技法なんかも身に付きますが、それはこの根幹あってのものじゃないかなと思うので、今回は挙げていません。


これらの力を高めていくことは、本当の意味で相手のことを慮ったバランスのよい行動に繋がっていくと思うのです。
そしてそれが、仕事だけでなく、普段の生活にも表れてくるのではないかな、とも。
完璧ではないけれど、そのようにありたいと思う姿勢は、「人間的な成長」を促していくのではないかと考えています。

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