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精神保健福祉士を目指すあなたへ⑥~未経験だからこその強み~

経験がない職域に飛び込む、または初めて働く。
その時に福祉業界が選択肢に入る方もいらっしゃるでしょうか。
「未経験歓迎」とよく求人情報に記載されています。その意味はいろいろとあるのだと思います。
私が今回書いていこうと思うのは、「未経験の方に仕事の上で何を求めるか」という点です。これは個人的な意見になりますが、未経験の人にこそ求めたい、期待したいことがあるのです。
これは福祉分野に就職を希望している学生さんにも言えること。私は未経験の方、大歓迎です。

ちなみに「福祉」とひとまとめに言ってもいろいろな福祉があります。私が携わるのは障害者の就労支援の分野であるので、一般的にイメージされる「福祉」とは視点がずれるかもしれません。その点についてはあしからず。


前提として

まず心構え的なものは各人しているものだと考えたい。考えさせてください。してきてくれるとありがたい。
福祉にありがちな「未経験歓迎!」に踊らされないでください。確かに歓迎しますが、それはお客様としてではなく、専門職として成長しようとする心構えあってのものだと考えています(考えたい。管理側も共通認識があると思いたい)。
「未経験歓迎」は「何も知らなくてもできる」ではないと改めて言いたい。「プロ」と名乗るのは大変恐縮な想いもするし、こそばゆいです。口にしなくてもいい、と私は思っていますが、しかし私は自分の仕事に矜持を持っています。矜持がなければ仕事がおざなりになる。仕事がおざなりになると世間からの評価が下がる。評価が下がると報酬が上がらない。そうすると支援者側の資質も上がっていかない・・・と悪循環になると考えます。
なので、名乗らなくてもいいので仕事にプロ意識を持っていただける方が来てくれるとありがたい。熱心にやってくれ、とは言わないが、言ったことをする・しないでくれ。と思う今日この頃。
最初から上手くやってほしい、とは思いません。ただ当たり前に相談していただき、一緒にやっていてくれる人だとありがたいというお話。偉そうにも、それを前提とさせていただきたい。

未経験だからこそ求めること

では未経験の人だからこそ求めたいこととは。
ずばり、「世間の当たり前の感覚」です。「当たり前」というと難しい。いわゆる常識というものはその人それぞれの主観であって、育ってきた環境や経験によるものです。でも、それでもいいのです。
「これっておかしくない?」という感覚。「いやいや、これが福祉なんだ」と最初から自分のその「おかしくない?」を封じ込めないでほしい。言い方はともあれ、どこかのタイミングで先輩や上司に聞いてほしい。
「なんでこんなまどろっこしいの?」、「こっちの方が早いですよ」、「自分ならそうは思いません」とかとか。福祉と関係ないところから福祉を見てもらって、感じることを教えてほしい。

偉そうに言っていますが私も就労支援の現場を9年ほど経験しただけです。それでも「9年なりの福祉の視点」になってしまっているのだと考えています。就労支援はまだ「福祉」に染まらない部分との接点が多分にあるのですが、それでもベースには福祉の視点があるもので。
それこそ実習生の時、新卒で仕事を始めた当初は「なんで?」が多発しました。一方で「いやいや、これが福祉なんだ」と自分の疑問を止めている自分もいたわけで。しかし、その疑問をずっと抱えて自己解決していくのは至難の業。素直に先輩上司に聞いたものです。
中には「それが決まりだから」とか、あまつさえ「自閉症だから」と言われたこともあります。直属の身内ではなかったのですが、これはショックでした。決まりごとならなぜそう決まっているのかを知りたかった。「自閉症だから」は今でも論外だと思います。その人の背景、障害も一因だけど、どの環境に起因する事象なのかを考えなければ支援できません。
と言いながらも、今は「まあそうだよね」と自然に受け止めている自分を感じることもあるのです。これは結構危ないと思っています。

未経験だからこそ、多発する「なぜ?」があるはず(なくてもいいのですが、気付かないと逆に大変かもしれない)。それを聞いてもらうことで、私の「福祉の視点」が揺らぐのです。それが揺らいだ時、どう説明するのか。今一度、今持っている視点が正しいのかを確認できる機会にできると考えています。だからこそ、未経験者の「なぜ?」はありがたい。たまーに来る実習生から言われるととてもうれしい。臆せずに「なぜ?」をぶつけてほしい。

もう一つは「その人なりの人生の引き出し」を使ってほしいという点です。
福祉の経験がなくても、いわゆる「生活者の視点」は持っている。それまでの人生経験というやつです。「私は人生経験が薄いので」という謙遜もあるでしょう。でもその、「自称薄い人生経験」がもう武器になり得ると思っています。

対象者の人は多種多様です。どこで自分の人生経験が、どのように役立つかわかりません。たとえばずっとひきこもってきたことがある支援者は、そのひきこもりの経験から得た学びや体験や、後悔や気付き、苦しみ、楽しみなどなどその時々の感情があったと思います。それと対象者の体験を照らし合わせて、重なるところ、重ならないところを確認していく。重なるところは共感として、重ならないところは疑問として、相手に伝えることができるし、気付くこともあると思うのです。
「(ひきこもり経験のある)私はこう考えるけど、どうなの?」とか「(同じ事象に対して)私はこう感じるけど、あなたは?」みたいな。この例だって、一側面は「ひきこもり経験のある支援者」だけど、また違う側面では「今母親である」とか「兄がいる」とかとかあるわけで。
自分自身の側面をいろんな角度から見つけておくと、そこにある引き出しに気付けると思います。そしてそれは、福祉の経験があるからとか、福祉の勉強をしていたからとかに関係なく、あらゆる人が持っていることだと考えています。
そういう意味で私は、福祉の仕事は門戸が広いと思っている。自分のそれまでの経験から言えることがあるはず。そして経験やその感じ方は千差万別。つまり、あなただからこそ言えることがあるはずなのです。

専門職としての成長

とまあ、その人なりの「当たり前」と「人生経験の引き出し」を自覚し、その上で「福祉の視点」を養っていってほしい。自分はそうありたいと考えています。
福祉の視点、専門職としての考え方や倫理観というものですね。これはどう成長していくのか。それは知識と経験だと思います。お、当たり前。

知識はいろいろなつけ方があります。私の場合はまずネットで調べる。
たとえば「障害者就業・生活支援センター(ナカポツ)」について知りたいのであれば、ナカポツの根拠法である障害者雇用促進法を調べ、目的の項目を見てその理念を知る。所管する労働局のホームページからリンクを飛んでいき、ナカポツの事業内容を知る。
しかし「ナカポツって行政の支援に入れるかな?」という疑問には、根拠法にも制度概要にも載っていないわけで。
ここまでピンポイントな疑問になると、ネットから探し出すのは至難かもしれません。であれば上司先輩同僚に聞く。過去に同じようなケースがあったか確認する。で、答えは「できない」にたどり着くわけですが、「なんで?」という疑問は解消されないかもしれない。
そうしたら次は所管する労働局に聞く、直接ナカポツに問い合わせる。そうするとようやく、それはナカポツが雇用保険を財源にした事業で~・・・と説明があり、「基本的にはできないが、やりようはある」という回答になるわけです。その「やりよう」や根拠を知ることで、他の疑問も紐づいて解決に至るかもしれません。
こうして知識を深めて、他の知識と紐づけていくと、他の事業との連携の質も上がるというもの。特に事業所ごとに対応が変わるのは常なので、制度上の理解をした上で地域の事業所に問い合わせると、さらに理解が深まると思われます。

そして「経験すること」。これはもう場数です。当たって砕けろ。
ただ経験するだけでは、利用者の不利益にもなる可能性がありますので、砕け方にも工夫が必要です。上司先輩に同席してもらい、フォローしてもらう。可能な限り展開を想定して、想定外も含めて事前に上司先輩に対応を確認しておく。「確認して折り返します」を活用するなどなど。
重要なのは利用者の不利益をどの程度見込めるか。最悪のパターン、これだけは避けるパターンをよく確認しておくことです。経験の浅い人の想定する最悪のパターンよりも、さらに深い最悪に陥る可能性もあります。そのケースの「最悪」は何なのか。これはよく上司に確認しておくことをおすすめします。
経験したら振り返ること。今回の対応でよかったのか、もっと別の支援はあったのか。先輩ならどうしたかを聞いてみるのもいいかもしれません。以前経験したことと同じ展開なのに、結果が違ったのはなぜかを比較するのもいいかもしれません。
経験しっぱなしにするのはもったいないのです。そして経験できる機会が来たらやってみること。段階に応じてフォローしてもらう体制を職場で調整することです。保身はマジで大事。


まとめ

福祉未経験者に求めること。新卒でも中途採用でも、まずとにかく、雇われたからには「プロ」として矜持を持っていただきたい。「未経験者歓迎=誰でもできる」ではないということを理解していただきたい。

未経験者だからこそ、凝り固まっていない「普通」の視点があると思っています。福祉の現場は手っ取り早く解決、という手段を取らないこともあるし、なんで放っておくんだ福祉だろうが、と思うこともあるかもしれません。そこで感じた「なぜ?」は現場でそのまま出すのはまずぐっとこらえていただき(現場が混乱する可能性があります。もちろん程度によりますが)、上司や先輩に確認しみてほしい。
そこで得られた回答は納得できないことかもしれません。そんな時はもう一歩踏み込むか、信頼できる支援者を見つけた時に改めて聞いてみてほしい。いろんな経験をして、自問自答してほしい。すぐに理解しなくていいのです。かといって現場の和を乱せとは言いません。現場が回る程度に表面をなぞり、残った疑問は腹に据えておくこともあるでしょう。

そして未経験と言えど人生のあらゆる経験は間違いなく武器になる。これは一見ネガティブな体験でもそう。あなたが失敗、間違いと思っている経験は、そこから言える言葉の重要なヒントです。一方で、あなたの成功体験はあなただけのもの。同じようにすれば目の前の対象者が同じように成功するものでもありません。自分は自分、他人は他人。それを自覚した上で、共感や疑問を感じほしい。

ずっと未経験者なりの視点でいるわけにはいきませんよ(脅迫)。専門職なりの知識と経験を身につけていただきたい。
知識は自分で調べ、過去のケースを知ることで深まります。疑問に関する根拠法を一度は読んでおいた方がいい。制度概要もぜひ目を通してほしい。最低限の知識を持った上で担当者に問い合わせる方が絶対知識が深まるし、応用した活用法にも気付くようになるからです。
まとめサイト的なものでなく、できれば所管する行政の公式な資料や通知を見た方がいい。

そして経験すること。利用者と一緒に見学するとか、行政窓口に行くと流れがわかります。
経験する際には絶対やってはいけないこと、いわゆるリスクの確認を上司としておくこと。保身は大事。上司が全うに応えてくれないくそ野郎でも、「話しておいた」という事実がいつかあなたを救います。実際は「聞いてない」と言われるくそ職場かもしれませんが、あなたの心は少なくとも多少なりとも、言わなかったよりは救われます(自己嫌悪ではなく、このくそ上司が、と思えるはず)。それは救いか?

とにかく「未経験者が思う疑問なんて」と思わなくていい。私は何聞かれても怒りません(おそらく、大抵は)。めちゃくちゃ基本的なことを聞かれた時こそ、「そういえばなんでだっけ」と振り返るきっかけになることが多いのです。日々の業務で流れていっていた疑問に気付かせてくれる、それまでの自分の視点が揺らぐ瞬間は貴重です。その上で考えが変わらないこともあるでしょう。変える必要に気付いたのならよかった。それはとてもありがたい。

だから臆せず聞いておくれ。疑問を持つのは大変。でもそれは、心のどこかで「いやこれ聞いてもしょうもないか」とか「こんな疑問は別に必要ないか」とストップをかけていることもあると思うので。
上司先輩の言う「なんでも聞いてね」を素直に受け止めてやりましょう。言質はとっているのですから。

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