群馬弁だったことに気付く
「卵、かんましとくよ」
オムレツを作るのを手伝おうと、奥さんにそう声をかけたところ、何だかけげんそうな顔をされた。
何か変なこと言ったかなと心配になったが、よく考えてみたら「かんます」は群馬弁だ。東京生まれ東京育ちの奥さんには馴染みのない言い方である。
「かんます」とは「かき混ぜる」のことだ。
群馬の人はなまじ東京が近いせいか、一部の言い回しを方言ではなく標準語だと思い込んでいるフシがある。
そのせいか奥さんと話していると「何それ?」という顔をされることがある。その都度、「そう言わない?」と確認するのだが、答えは「言わない」。
「おっかく」は間違いなく標準語だと思っていたのだが、やはり喫水の東京人である奥さんには通じなかった。
ちなみに「おっかく」は「折る」のこと。
19歳のときに上京し、それからずっと東京で暮らしていたというおごりから、私はすっかり調子に乗っていたようだ。
「~するん?」とか「~だがね」といった語尾のなまりこそ抜けてはいるものの、まだまだ群馬弁が抜けきっていたわけではなかったのである。
もののついでに色々と聞いてみることにする。
「よいじゃあねえ」(大変だ)、「ちっとんべえ」(ちょっと)、「ぶちゃる」(捨てる)あたりは全く通じなかった。
「くっちゃべる」(しゃべる)、「ひっぺがす」(はがす)、「おっことす」(落とす)は語感で意味が通じたようだ。そのためか、このあたりの言い回しについて、私はずっと標準語だと思い込んできた。
実家に帰ると両親や弟が話すのを聞いて、ああ、お国言葉だなと思うくらいにはなっているが、芯からの標準語ネイティブにはなかなかなれない。
生まれついたところで染み付いたものは抜けないもののようである。
それはそれで悪くはない。