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(1)道について-竹簡孫子 計篇第一

孫子における「道」をどう解釈するか

「孫子」に限らず、「論語」や「老子」といった中国古典を読んでいると「道タオ」という言葉が出てきます。

この「道タオ」という概念は、日本人には非常わかりにくい。日本に例えると、お天道様とか八百万の神様、すべてのものに神が宿る、また見えない世界で繋がっていて虫の知らせなどと一ったりする。そういうように容易に掴めない、定義化できない概念に「道」があります。

日本人が「道」を訳すると、「あるべき理想の姿」というニュアンスになることが多い。孫子においてもこのニュアンスで訳されており、政治のあり方、ビジョンと解釈するものが多い。

しかし中国古典における「道」は、人間が作ったあるべき姿を超えたもっと深淵なものである。

四書五経の「易経」では「一陰一陽、これを道と謂う(繫辞上伝)」といい、老子では「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生じる。 万物は陰を背に負い陽を胸に抱いて、その中間のゆらぎをもって和を為す」(道化第四十二)と言ってます。

この両方で述べられる「道」は、この世界を作り生成発展させる「万物の根源」と訳され、それが何なのか、西洋の論理的な学問では説明することができません。東洋思想の「易」や「老子」の世界では、この世界は陰と陽の二つの相反するものが、対立し、また混じり合って合体することで生成発展すると理解されます。

「孫子」の特徴は、「易」や「老子」の思想が色濃く反映されていることです。この宇宙観、自然観が根底にあります。それゆえに「孫子」においても「原理原則」、「万物の根源」「自然の摂理」と解釈する方が、より深い解釈ができます。
自然の摂理と合致した原理原則、天の法則に合致した原理原則、だから国民と君主が心を合わせることができる(計篇)訳です。

「道」に関連する言葉
存亡の道  …〈意味〉存亡の原理原則       〈記載〉計
詭道    …〈意味〉目に見えない不思議な要素 〈記載〉計
      ※一般的には「騙し合い」を訳する  (詳細は後述)
官道    …〈意味〉管理者の職権や原理原則  〈記載〉計編
勝ちを知る道…〈意味〉勝利の原則        〈記載〉謀攻
地の道   …〈意味〉地形判断の原理原則    〈記載〉地形
敗の道   …〈意味〉必ず敗北に陥る原理原則  〈記載〉地形
上将の道  …〈意味〉上将軍の抑えるべき原理原則〈記載〉地形
戦道    …〈意味〉戦いの原理原則      〈記載〉地形
不虞の道  …〈意味〉準備不足を作り出す原理原則〈記載〉九地
客為る道  …〈意味〉敵地に侵攻する原理原則  〈記載〉九地
政の道   …〈意味〉兵を一つに纏める原理原則 〈記載〉九地
全うするの道…〈意味〉彼我を保全する原理原則  〈記載〉火攻


しかし、だからといってすべての解釈がそうであるわけではなく、「通路」「移動距離」「補給路」としても使われている箇所もあるため、解釈が難しくさせています。

最後に、「孫子」の中に出てくる「道」を「自然の摂理」「原理原則」であると解釈するとともに、「孫子」そのものが」「自然の摂理」「原理原則」であり他の中国古典の理解、東洋思想の理解の助けになると述べ、「道」の解説を終わりにしたいと思います。


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