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評価制度無くしました(ノーレイティングが意味をなすのか)

ノーレイティングという言葉をご存知でしょうか。カタカナで書かれており、よくわからないという方も多いと思います。私は英語が全然できないので意味がわかりませんでした。ただググると以下出てきます。

ノーレイティングとは:「S評価、A評価、B評価、C評価」といったレイティングによる人事評価制度を見直し、数値や記号による評価を行わない評価のこと

を言います。つまり従来の評価制度をなくすと言ってもいいかもしれません。数値化して管理していた評価制度をなくす、なんて時代に逆行しているんじゃないかと思う方もいると思います。むしろ今から評価制度をしっかり作ろうと思われていた会社もあるくらいだと思います。実際に今から作りたいという企業様からたくさんお問い合わせを今年も頂きました。

ただ今は逆に数値評価することをやめる企業が増えています。特に外資系企業など進んで数年前からやめています。

「え???どうやって評価してんの?」ってなると思います。

どのようになるのでしょうか。「もはや評価とかできなくね?」ってなります。


まずノーレイティングを導入している企業例でいうと以下が有名です。

GE・アドビ・マイクロソフト・P&G・アクセンチュアなどなどです。主に外資企業です。かなり前から入れている企業が多いので、有名と言えば有名です。本も出ており、

人事評価はもういらない 成果主義人事の限界(著者:松丘 啓司)

このような本もあるくらいです。ただ本当にうまくいっているのでしょうか。実際に箱を開けてみないとわからないと思います。私個人としては、「新しい!さすが外資系企業は違うな〜」と思っていました。評価制度は確かにモチベーション下がること多いし、そんなにいい制度ではないと感じていましたが、なくすという発想はありませんでした。


<人事評価制度をなくす理由>

まず評価制度をなぜ無くしたかという部分からお伝えします。理由としては以下があります。

①環境変化(景気変動や技術改革)が激しいので、目標設定したものが1年後も正しい目標である保証がない。つまり、目標設定してもあまり意味がない。
②評価制度を運用する工数が半端じゃない。評価制度を運用するためにかなりの時間を消費します。「時間をかけて作る目標設定(1〜2時間)・時間をかけて作る自己評価(1〜2時間)・管理職の評価結果の記入(部下数×1時間)・複数回の面談(30分×面談数)」などです。半期に1度目標設定と評価をしている企業で考えると1人あたり10時間くらいかかっています。面談が多いところだと、20時間くらいかかっているところもあるかもしれません。
③その割に効果が薄い。時間かけてやっているものの大半のケースはモチベーションダウンに繋がっている傾向があります。私も過去に評価を受けてきましたが、あの評価が今の自分を支えていると思ったことは少ないです。

他にも理由はあると思いますが、「時間がかかって」「効果が薄く」「設定した目標自体信じれない」状態であれば別の方法を考えた方がいいように思えます。

<人事評価制度を無くすことのメリット>

人事評価を無くした結果、企業はどうなったのでしょうか。上記紹介した企業は決算を見ても業績はかなり好調です。IT企業などはSaaSビジネスがかなり好調に思えます。

もはや正式な予定評価だけに頼っている組織はほとんどありません。現在多くの企業では、従業員の業績を向上させるために示されているパフォーマンス管理戦略として、将来を見据えた継続的なフィードバックを提供しています。制度を無くした企業は、半期に1度評価の時期がきたら面談をするやり方ではなく、定期的に部下との時間を設け、フィードバックするようにしています。また部下同士で行うピアフィードバックも増えています。

つまり細かい1on1を重ねている状態です。何かあった際に即座にフィードバックを行うクイックフィードバックを意識して実施されています。

ノーレイティングを導入した企業から見ると、評価という格付けは、日々の仕事から切り離された時間のかかる管理コストのように見えるかもしれません。

導入した企業で人事の方から伺うことは以下があります。

① マネージャの会話が改善されました。管理者は、過去および将来のパフォーマンスについて議論するのに多くの時間を費やすことができ、評価制度を守る時間が少なくて済むようになりました。
② 非公式フィードバックのための追加時間が取れるようになりました。管理職は、適切な評価を決定する官僚主義が簡易になったため、非公式のフィードバックを提供するためにより多くの時間を持てるようになりました。
③より差別化された賃金決定ができるようになりました。ただこれはマネージャが割り当てられた評価に縛られずに、チームの給与を差別化する裁量権を持っている場合に限ります。
④従業員のエンゲージメントの強化に繋がる。評価プロセスに関する不安が解消されると、従業員はより仕事に向き合いエンゲージメント強化に繋がるようになりました。

以上のような話も出ています。内容だけを読んでいるととてもいい風に思います。「人事評価いらないやん!」「面談と権限委譲でうまくいくやん!」と関西弁でテンションが上がってしまいます。

ただ本当にそのようになるのでしょうか。そもそも面談うまくいってたらこれまでの評価面談でも成功していたのではないでしょうか。うまくいっていない事例もあると思います。それを今回紹介したいと思います。

<ノーレイティングの障害>

ただノーレイティングのうまくいっていない事例も、もちろんございます。以下調べたものです。

ガートナーのCEBによる2016年の調査によると、実際には、評価制度がなくなると従業員のパフォーマンスが約10%低下し、マネジメント層の5%未満が効果的に従業員を管理できないという結果がでました。

またHartfelder氏は次のように述べています。

「従業員のパフォーマンスは評価がなくなると低下する傾向があります。」
実際、この調査では、評価を排除すると4つの意図しない結果が生じることが示されました。

①経営層と管理職の会話の質が低下した。経営者は従業員に対して過去の実績と将来の業績を向上させるためにどのような策を講じるべきかについて語ることに苦労しています。結果としてマネージャーとの会話品質が 14%低下した。
②時間転移が起きなかった。 評価制度がなくなることでマネージャーが10時間余分に時間を取れるようになりました。しかし、その余った時間が非公式の会話に移行されることはなかった
③トップパフォーマーの満足度が低下した。従業員の給与がどのように決定され、個々の拠出につながっているかを説明することが困難になりました。結果として、給与の差別化に対する割合でトップパフォーマーの満足度が8%低下した。
④ 従業員エンゲージメントが6%低下した。マネージャーとの会話が適切な報酬評価に繋がっているかがわからなかったためである。

以上の4つのような事例もあります。つまり面談を重ねて、クイックフィードバックを心がけても、フィードバックの質がよくないとエンゲージメントが下がり、うまく運用できなくなるということです。

面談を重ねても不信感を助長するだけになってしまいます。とても難しい問題です。

特にフィードバックに関しては、以下のような話も出ています。

フィードバックに関しては、多面評価のフィードバックが個人や組織のパフォーマンス向上にプラスの効果があることや、それが従業員の能力の向上や、組織での知識共有に効果があることが過去の数多くの研究をまとめたメタ分析によって示されています。フィードバックの受け止め方には、年齢による違いがあることも報告されています。若い人はフィードバックの内容に着目しそれを自らの能力開発につなげようとしますが、高齢者はフィードバックの全体的なポジティブさと、フィードバック提供者との関係性に着目する傾向があるのです。また人はネガティブなフィードバックの提供者からは距離を置こうとする傾向があることなども報告されています。
これらの研究トレンドから見えてくるのは、フィードバックの効果的な活用は、それほどたやすくないということです。高齢者にも仕事の内容の見直しを求める必要はありますし、部下が自分を煙たがることを承知で上司が行うネガティブなフィードバックは、部下にとって貴重なものです。組織の文化や価値観、フィードバック提供者の特徴、仕事そのものの特徴、フィードバック受け取り手の特徴などを考慮しつつ、上手に活用することが必要だといえるでしょう。そして、フィードバックがどのようなプロセスでどのような影響を提供者や受容者に与えるのかに関する研究は蓄積されつつあります。

SIOP(米国産業・組織心理学会)2018 参加報告

フィードバックはとても難しいことがわかります。効果があることは実証されていますが、フィードバックスキルが低いと効果が薄く、悪影響を及ぼす可能性があるくらいです。私も過去に何度も1on1を行ってきましたが、正解がわからないことがたくさんありました。

部下の特徴に合わせて話すということが、どれだけハードルが高いことか痛感することが多かったです。厳しいフィードバックをした時は数週間距離を置かれ、心の壁ができた部下も過去にはいました。徐々に回復するものの、もっといい言い方があったんじゃないかと後悔したこともあります。


おそらく評価制度をなくすことで、効率的になってうまくいくケースもあると思いますが、本質的な部分はコミュニケーションの在り方や普段の信頼関係の構築なのかもしれません。

ノーレイティングの効果や評価のトレンドは今後とも追っていきたいと思います。以上です。


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