退職金という誰も幸せにしない制度
退職金があって嬉しい!という人はいても、あって悔しい!という人は今まで見たことがありません。
でも、退職金ってそんなにいいもんじゃないよ、ってことを伝えたくなりました。
本エントリでは、退職金の正体に迫ります。
退職金の正体
退職金を一言で表すと、対価支払いの留保です。
留保とは、本来履行すべきことを一時差し控えて手元に留めておくこと、です。
このことに気づいていない人が余りにも多いと感じたため、本エントリを書くに至りました。
ビジネスの世界では、支払いの留保をされるのは相手をよほど信用する、もしくは、踏み倒されないような保証がないと、絶対に回避したいものです。
例えば、プラント建設の世界では Retention Paymentと呼ばれる契約条項があります。
今月の工事出来高が100あったとして、本来ならば100の対価をもらうはずが95しかもらえない、つまり、5は留保される、という支払いの方法です。
工事業者が途中で逃げ出さないように、もしくは、逃げ出した時の後釜を探すための費用として、対価の一部を発注者が差し押さえているのです。
発注者は工事業者を信用していない訳ですね。
こうして積み上げられた留保分は、完工時にようやく支払われます。
工事業者側として辛いのは、
①工事を始めるために身銭を切らないといけないことと、
②発注者が完工直前になって留保分を持ち逃げされたり倒産して焦げ付いてしまうことです。
①に対しては前途金(着工時に支払われる前払金 Advance Payment)で、
②に対しては銀行や親会社の保証状(発注者が支払わない場合に肩代わりしてもらうための証明 Payment Bond)で対抗します。
前途金も工事業者に持ち逃げされないように、発注者は工事業者に保証状を出させます。
本来支払うべきタイミングを早く/遅くするときは、何かがあったときのためにそれを返す/払うことを保証しなければならない、ということですね。
で、退職金に話を戻すと、支払いは留保され、保証もされていないのです。そして、もちろん前途金もありません。
ちなみに、賞与にも同じことが言えますね。
退職金が保証されていないってどういうことか
つまるところ、持ち逃げされる可能性があるってことです。
では、退職金が満額もらえないケースにはどのようなものがあるのでしょうか。見ていきましょう。
ケースその①:会社が倒産した時
これは分かりやすいですよね。
実は会社が倒産しても、未払い分の給与や退職金をもらう権利は失われません。
会社の資産や債務を整理した後にそれらを支払うだけのお金が残っていたらちゃんと支払われます。
でも、ですよ。倒産した会社が果たして全従業員に給与と賞与と退職金を支払うだけの体力を残しているでしょうか。
まだ死に体ではない、必ず復活できる、と最後まで粘るのではないでしょうか。
もしくはそうなる前に給与や賞与や退職金の積立額が減らされていくのではないでしょうか。
あなたが勤める会社は大企業だから潰れるはずがないって?
私はそうは思いません。
これからも定年はどんどん延長され、時代の流れはどんどん早くなります。
50年以上もの間会社が倒産しない確率と、それにベットする額(満額の退職金)、再就職の難易度。
果たしてそのリスクをあなたは受け入れるべきでしょうか。
ケースその②:自己都合退職した時
会社都合ではなく自分の意思で退職したときには、退職金は大幅に減額されるのが普通です。
それだけではありません。
入社して間もない頃は積み立てられる退職金の額も少ないです。
手厚い退職金が支払われる大手企業でも、入社して10年も経たないうちに自己都合で退職する場合は、驚くほど退職金が少ないです。
ほんとに、目を疑うほどに。
自己都合、とは、希望あふれる転職だけではありません。
親の介護のため、ブラックな労働環境から逃れるため、体調を崩して療養するため、配偶者の転勤に帯同するため、など予期せぬ、希望しない退職ももちろん含まれます。
あなたが入社した会社はエクセレントカンパニーだから大丈夫だって?
私はそうは思いません。
どんな会社にもクソのような上司はいるし、フィーリングが合わない人もいるでしょう。
やりたくない仕事も、ゴミのような仕事も任されることがあります。
過労死ラインを超えて働かざるを得ないときもあるでしょう。
プライベートで辛いことが重なることもあります。
そして、体力/精神力をすり減らし、体調を崩して退職せざるを得ないことになったとしても、労災認定されない限り、自己都合退職なのです。
果たして、あなたは最初に入社した会社に、定年退職するまで勤め上げることが出来るでしょうか。
では、どうしたらよいか
うちの会社には退職金がありません。
支払いを留保しないよう、成果を給与に反映します。
そもそも、労働基準法(第24条)の中で、賃金は通貨で、本人に直接、全額を、月1回以上支払わなければならない、と定められています。
(同じ条項の中で臨時の賃金等はその限りではないと書かれていますが)
賞与や退職金は臨時のもの、という扱いなのでしょうけど、給与 vs賞与/退職金 の比率なんて、経営者の匙加減でどうとでもできます。
総賃金に対して、賞与/退職金の比率が高ければ高いほど、あなたの賃金は留保されている、ということです。
試しに計算してみてください。
プラント建設の場合だと、完工時にようやく支払われるような Retention Payment は高くても5%までしか受け入れられず、その場合も必ず保証状を出してもらいます。
あなたの退職金は生涯賃金の何%でしょうか。保証はあるのでしょうか。
中小企業なら退職金共済制度というものがあり、会社が加入している場合は倒産しても未払い退職金の8割が支払われるそうです。
でも自己都合退職の場合は保証なしです。
もし、あなたの会社に前払い退職金制度がある場合は必ず使いましょう。
これを使わない人は、リスクを把握していない情弱だと思っていいです。
退職金を設定しないことは、会社側にもメリットがあります。
正しく広報すれば、ここまで書いたことを正しく理解できる人には魅力的に、理解できない人には不親切に見えます。
つまり、採用時にスクリーニングが出来ます。
また、中途入社者、特に一度離職して再度戻ってくる出戻り社員にとって、大きな魅力になるため採用競争力につながります。
既存社員にとっても、若い時に可処分所得が増え、自己投資や資産形成に充てることが出来るため、育成効率を向上させたり、精神的なゆとりを生み出すことができます。
もちろん、離職のハードルを下げることになったり、離職者が出た際の補填(自己都合で減額した額)を失うことになるのでデメリットもあります。
しかし、不利益を作り出して離職を防ぐのは働く意欲を減退させるため悪手ではないでしょうか。
そこんとこ、間違えないようにしたいですね。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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