私を中心にあの世は回る9

エピローグ

「ばあちゃんてどんな人だった?」
マリサは実家で料理をする母に尋ねた。
マリサが10歳の時に死んだ祖母のことは覚えていたが、どんな人格かまでは知らなかった。
「うーん、優しくて綺麗で苦労人で、でもいつも笑ってて…今考えると毒舌かな?」
母は少しづつ思い出を掘り起こす。ばあちゃんが亡くなってから20年以上経つ。
「どんなところが?」
「滅多にお酒呑まないんだけど、お正月とかに呑むと昔の事とかおじいちゃんの愚痴とか凄く言うのよね」
「じいちゃんの事?酔っていつも歌ってたのなんか覚えてる」
マリサにとって祖父は酔っている印象しかない。祖母が死んだ後は母が面倒を見ていたが苦労していた。そんな祖父も15年前に亡くなった。
「あの酒飲み!ごく潰し!昔はいい男だったのに!騙された!ってね」
母はきゅうりを切っている包丁をとめて言った。ばあちゃんの真似のようだ。
それを神が知ったら怒るんだろうなとマリサは思った。
「でもね、惚れたからにはしょうがないって笑ってた」
マリサは祖母の人柄を分かってきたような気持ちになっていた。
「あとは変わった友達がいたこともよく言ってた」
「派手な友達がいたとか?」
「そうそう、化け物みたいに派手で横暴な友達がいたとか。って覚えてるの?」
なんとなくね、とマリサは誤魔化した。
「その人のことを話してる時は楽しそうなの。すごくけなすのに、最後には『慈悲深い人だけど』って言うの。慈悲深いってどういうことかしらね?未だに分からないわ」
「それはきっと菩薩みたいな人なんだね」
いいにおいが立ち込める。
「今日はいっぱい食べていいからね!2人分でも3人分でも」
今日はやけに料理が多い。
「いやいや、普通でいいって」
「何言ってるの!今のうちに体力つけておかないと」
大げさなんだからとマリサは笑う。
マリサは結婚した。
そしてマリサはもうすぐ母になる。

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