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心の中で猫を飼う

私の家には猫がいる。いや、いないんだけど。仕事をしていると膝の上に乗ってきたり、朝早くから「みゃー」と鳴いて私を起こしたりする。まぁ、嘘なんだけど。そこまで人懐っこくなくて、でも人見知りはしなくて、鰹節と鳥の羽根がついた猫じゃらしが好きで、よく眠る猫。見たことはないんだけど。

猫という生き物のことは、長らく好きでも嫌いでもなかった。そんな私が猫を愛するようになったのは、6年前の数ヶ月間の島暮らしから。当時、島には猫が本当にたくさんいて、しかもその多くが人に対する警戒心をほとんど持っていない。港で、山道で、庭先で、たくさんの猫と触れ合う毎日。職場に毎日やってくる猫もいて、膝に乗って眠るその猫を撫でながら休憩時間を過ごすこともあった。そんな日々を過ごすうち気がつけば、気ままで、優雅で、おちゃめで、ワイルドな、猫という生き物のことが大好きになっていた。

島を離れてから、保護猫カフェに通うようになった。何回か通っていろんな猫のいろんな性格が少しだけわかってくると、こんなことを思うようになった。「一匹の猫と一対一で、特別な関係を築けたらどんなに素敵だろう」。

私の家に猫がやってきたのは去年の秋。きっかけは、GoogleのAR機能で家のリビングに猫を出現させてみたことだった。

家の中での猫のサイズ感を把握すると、「うちに猫がいたら……」というぼんやりとした妄想がしっかりと肉付けされて、スマホの画面を通さなくても猫を見ることができるようになった。念のために言っておくが、本当に見えているわけではないので安心してほしい。たまにその「イマジナリー猫」を目で追いながら「あっ猫が……」とか言ってしまって、同居しているパートナーに心配されたりすることはあるけれど。

私は、本当には猫を飼うことができない。今の私には、猫が幸せに暮らせる環境を用意することができない。まず、お金が足りない。餌代や医療費など、猫を飼うのにはお金がかかる。次に、家が狭いし散らかりすぎている。ほぼ家の中だけで暮らす猫には、十分なスペースを確保してあげたい。そして、持病がある。生活リズムがめちゃくちゃだったり、体調の浮き沈みが激しかったりするので、毎日安定して世話をすることができない。

だから、心の中で猫を飼っている。今も、ふとパソコンから目を離して振り返ると、眠そうに丸まっている猫と目が合った。いつか、いろんな状況が整ったら、本当に猫を飼いたい。実在の。その猫はきっと、どんな猫であれ、私の想像をはるかに超えてすばらしい猫であることだろう。

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