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別所沼公園(埼玉県さいたま市・中浦和駅 ヒアシンスハウス)

せっかく埼玉まで来たのだからと、そぼ降る雨の中、傘をさすほどではないので面倒だしやや濡れながら歩く。MOMASから南下すること30分ほど。はじめての土地で全く土地勘がないのでスマートフォン片手にウロウロと歩く。

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かつてはこの公園にMOMASの前身があったらしい、という理由ではないのだけれど、この一見すると何もない別所沼公園になぜわざわざ足を運んだのか雨の中で。

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というと、この公園に建てられた「ヒアシンスハウス」を見にくるためである。生活圏から程遠く、ずっと憧れながらも来ることができなかったこの場所。敬愛する詩人である建築家でもある立原道造が生前に設計していた図面を頼りに、2004年に建てられたヒアシンスハウス。この周辺に多数の友人が住んでいたことから、この別所沼湖畔に建てようと計画をしていた立原は、けれどその願いを叶えることなく亡くなってしまった。その意思を受け継いで、多くの市民や企業、行政の協力のもとに(クラウドファンディングなどない時代に)寄付によって建てられた。

開館日が決まっておりその日は基本的にスタッフが常駐している。訪ねると丁寧に経緯を解説してくれて心穏やかな時間を過ごす。優れた建築家に贈られる辰野金吾賞を3度も受賞した立原の建築作品ということもあって、訪れる人は文学好きよりもむしろ建築関係が多いらしい。

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1日に訪れる人の数を集計している。開館日にはほぼ必ず人が訪れているそうだけれど、この時は誰もいなかった。それもあって色々な話をしてくれた。このコロナ禍ではじめて0人という日もあったらしいけれど、建築から15年以上が経った今でも連日のように人が訪れるというのは彼の根強い人気の証左でもある。

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東京の弥生にあった記念館は残念ながら閉館してしまい、資料は信濃デッサン館へと移管したもののその信濃デッサン館も縮小、これからどうなるかわからない。どうにかして語り継ぐことはできないだろうか。仮にも色々な出版社から文庫本が出ているほどの詩人ではあるのだから、どうにか。

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本当に小さな住宅。ベッドと机と本棚。それくらいしかないようなところである。だがそれがいい。素晴らしい。本棚に飾られている本は生前に読んでいたと推定されている本の復刻版で、自由に読むことができる。

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またランプが置かれているのも特徴的。明り取りの窓を開放していてまるで山荘のよう。それは彼が親しんだ追分の地に通ずるところがあるのかもしれない。きっと5月に訪れれば、そのそよ風はゼリーのような鮮やかさと色彩を届けてくれることだろう。何より椅子や扉に誂えてある十字。これはかの水晶の十字架を想起させずにはいられない。

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室内に居て、夕暮れまで一日ずっと、何もしないでここにいたいと、思った。

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