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早稲田大学・坪内博士演劇博物館〜會津八一記念館(東京都新宿区・早稲田駅)

・坪内博士演劇博物館

早稲田大学の構内にある「坪内博士演劇博物館」と「會津八一記念館」を見学。
アジアで唯一という演劇専門の博物館。日本に演劇の文化をもたらした坪内逍遥が早稲田で教鞭を取っていた記念に建てられたもの。
坪内逍遥といえば『小説神髄』がパッと出てくるくらい有名ですね。そう有名です。誰でも知ってる。うん。誰でも。
日本近代文学においては二葉亭四迷と肩を張る最重要人物です。信じるか信じないかは以下略

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館内は基本的に撮影不可の箇所が多かったのだけれど1階は大丈夫だということで、館のデザインモデルとなったイギリスの劇場「フォーチューン座」の模型がある。
昔の劇場って仕切られた客席から舞台を見下ろす型でワクワクしますね。
パリのオペラ座に訪れたことがあるのですが、ああいう型の劇場って自分が貴族になったような気がしてテンションが上がります。

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模型を通り過ぎた所にはシアター形式の京マチ子記念特別展示室。
戦後日本の映画・テレビに貢献した女優として当時の資料が展示されている。黒澤明『羅生門』や溝口健二『雨月物語』での怪演が有名です。ちょうど『雨月物語』を観たタイミングだったのでテンションが上がってしまう。

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階段を上がって2階は坪内逍遥記念室。坪内逍遥の著作や原稿、愛蔵品などが展示されている。シェイクスピアの翻訳で業績を残している坪内逍遥。お手元にあるシェイクスピアの本を手に取ってみれば意外と坪内逍遥が訳している作品もあるかもしれない。
隣には企画展としてパンデミック禍における演劇の在り方がテーマの展示。
ここ近年でガラッと変わってしまった環境下でどう向き合っていたのか、といったことが展示されている。
会議どころか練習もリモートだったり、そもそも演劇の見せ方をどうするのか、みたいな点に踏み込んでいる。
また、疫病と演劇という観点から、かつて猛威を振るってきた疫病を題材とした演劇をいくつか紹介していた。寺山修司の天井桟敷のポスターとか久々に見た気がする。

3階に上がると常設展示として、日本古代(田楽や猿楽など)から中世(能や狂言)、近世・近代(歌舞伎や文楽、新派、新国劇)また世界の演劇などが取り上げられてて見所がたっぷり。
現代に至ればそれら古典芸能や新劇、アングラ演劇などに広がっている、という大系もわかるようになっている。

1階にはもう一つ企画展として昨年に亡くなった劇作家の別役実に絞った特集。
『そよそよ族』という戯曲における架空の国「おおうみの図」が興味深い。オリジナルの地図。たまに「ぼくのかんがえた路線」みたいなのを作る人がいますが、作ってる時ってめちゃくちゃ楽しいんだろうな。
図書館もありますが予約制。トイレは洋式。余裕で2時間は居られる。

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ちなみに館の外に坪内博士の銅像があり、握手すると受験に合格するらしい。手がツヤッツヤしてそこだけ変色して極上の味がしましたぜ、主人。

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・會津八一記念館

會津八一記念館の方は美術史家の會津八一によるコレクションを中心に展示している。
そうですあの會津八一。美術史における重鎮である會津八一。みなさんご存知の八一。
坪内逍遥や小泉八雲に学び、自身も早稲田で教鞭を取った八一。誰でも知っている八一。うん。
コレクションとして東洋・西洋の美術や陶磁器などが展示されている。先の演劇博物館と同じく設計者は今井兼次。むかし住んでいた家の近くにある陸橋がこの人の設計だったらしくて、妙に親近感がわいてしまう。

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ちなみに建立の支援者として早稲田の創設者である大隈重信をはじめ、伊藤博文、渋沢栄一やらビッグネームが。何気にユニクロの柳井正とかも名前を連ねている。柳井氏は同じく構内に開設の村上春樹ライブラリーにも出資しているそうで。

さて八一。なんといっても圧巻なのは1階ホールから見上げると階段の壁に展示されるめちゃくちゃ巨大な『明暗』という絵。横山大観と下村観山の合作だそうで、大観が明、観山が暗を描いたらしい。ずっと観ていられる。基本的に撮影できないので目に焼き付ける。
日本画の巨人二人による合作。喧嘩しなかったのかな。他にも巨大な塑像がいくつか。

1階には展示室が3つ。18000点もある収蔵品を入れ替えて展示しているらしい。
近代美術展示室では今期は川村清雄を中心とした有島生馬や藤島武二らの作品が展示してある。写実的でテーマがわかりやすい。
隣接する富岡コレクション展示室では陶磁器(宋代〜清代)が展示されている。何のために付けているのかわからないちっちゃい取っ手とか、陶磁器とは思えない色合いとかが拝める。
残る1つの展示室は八一のコレクション。今期の展示は考古学に近いのかも。兵馬俑みたいな祭祀用の土器が多くあり、郷土博物館のような感覚。

八一が最も熱心にコレクションしていたのは屋根の瓦。
美術史において重要なポイントである、と確信して集めた古代の瓦は3000個以上。
瓦だよ、瓦なんだよ、わかるかね君、と八一が弟子たちに熱く語ったのかは定かではありませんが、その飽くなき瓦愛は弟子たちにも受け継がれていることでしょう。

2階にも塑像などが展示されているが、1階ホールから見上げた『明暗』が今度は2階から見下ろせるという、格別なビューイングが何よりも息を呑みます。記念にクリアーファイルを購入してしまった。
こんな大作を無料で見られるなんて八一に感謝しかない。

2階グランドギャラリーでは寺田小太郎氏のコレクションを今期は展示。
相笠正義や難波田龍起を中心とした多くの作品を展示。
個人的にはその息子である難波田史男の作品が好み。30歳を過ぎて小学生のような作品を書けるというその感性にやられてしまう。親より先に急逝してしまったのがまた切ない。
絵画以外では大平弘の木彫と小椋範彦の蒔絵箱に見とれる。トイレはウォシュレット式。
こちらも2時間は観られる格別な空間。学生はほとんど訪れず、贅沢な時間を味わうことができる二つの館。
ちなみに分館として構内にあるタワーに考古学コレクション展示室があるそうなので、八一の考古学愛に興味を持った人はそちらもぜひ。

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