三の丸尚蔵館(東京都千代田区・大手町駅)
皇居の敷地において一般に見学することができる公園の一つである三の丸公園の中にある皇居三の丸尚蔵館。改修工事のため長いあいだ休館中となっていた三の丸尚蔵館が2023年末から再開館を始めている。開館記念展として11月より会期を4期にわけて収蔵品を公開している。日時指定予約によって人数制限をある程度しているもののかなりの人気の様子が窺える。三の丸公園は入館に荷物チェックがあり時間によっては公園に入園する時点で行列になるので注意が必要。
展示室は2つに分かれており今回の順路は2→1という順路で展示している。明治・大正・昭和それぞれの時代を通じて、この三代の天皇・皇后に関係する作品や資料を紹介。まずは第1章として天皇皇后ゆかりの品々(天皇の依頼で製作された作品や、実際に使用されたものなど)を展示している。
まずは森川杜園による能楽「熊坂」に登場する盗賊を木彫りで作った『熊坂長範』がお出迎え。明治維新の後に衰退しつつあった能楽の再興には宮家が関わっており、そのつながりを感じさせるようになっている。続いては彫塑家の大熊氏廣による明治天皇の愛馬「友鶴号」の置物。大熊氏廣というと川口市の郷土博物館でも特設コーナーがあった人物として個人的には有名。まさかのこんなところで再会するとは。
明治天皇をはじめとする宮家が愛用していた品々が顔を揃えている。明治工芸はそれだけで一つのジャンルとなるくらいに工芸作家が飛躍的に技術を競った時代。倒幕によって江戸幕府がなくなったことによりお抱えの工芸家たちが職を失った中で、精巧な技術を磨いて生き残ろうとしていた時代背景もそこには多分にあったりする。
絵画の中では瀧和亭が得意の風景画ではなく人物を描いた作品を提供していたり、かの川合玉堂が作品を提供していたりとする中で、皇室ゆかりの愛用品が置き時計やブローチ・指輪といったアクセサリーからブラシや鉛筆、日傘といった日用品に至るまでが紹介されているのも面白いところ。天皇家の肖像画や和歌を除けばほぼ全てが写真撮影することができるというのももしかしたら盛況な背景もあるのかもしれない。
つづいての展示室1では真正面に横山大観の大作が飛び込んでくる。第2章では皇室の慶祝と宮殿を彩った調度と題し、宮家に多く作品を提供することになる帝室技芸員たちによる調度品の紹介。重要文化財である海野勝珉『蘭陵王置物』から始まり、高村光雲『猿置物』や燭台に花瓶を展示しつつ、今は無き明治天皇の宮殿の写真と共にどのように配置されていたのかイメージできるようになっている。
どうやって作ったのか想像もできないほど細かすぎる工芸品の数々は世界からも注目され、当然ながら宮家をはじめ多く目に留まり現在もこうして展示されるように集められたことが窺える。並河靖之や濤川惣助、鈴木長吉といった超絶技巧の作家の作品を見られるという点で見どころがたくさん。トイレはウォシュレット式。せっかく三の丸公園まで入ったならついでに皇居三の丸公園も歩いてみる。江戸城天守台とか富士見多聞とか見どころが意外とあったりする。あと江戸城の模型も。