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植村冒険館(東京都板橋区・板橋区役所前駅)

五大陸における最高峰を知っているだろうか。もしかしたら名前くらいは知っているかもしれない。いずれも当然ながら富士山よりもはるかに高い山々である。

ヨーロッパ:モンブラン 4807m
アフリカ:キリマンジャロ 5895m
南アメリカ:アコンカグア 6960m
北アメリカ:デナリ(マッキンリー) 6194m
アジア:チョモランマ(エベレスト) 8848m

この五つの最高峰を全て登頂した世界初の人物が日本にいる。植村直己、その功績から国民栄誉賞まで受賞した人物である。彼の偉業を顕彰し後世に伝えるために建てられたのが植村冒険館である。近年になってリニューアルし、彼のスピリットを受け継ぐ未来を担う人材を育てる加賀スポーツセンターの中に移転している。

3階にある展示室に入るといきなり正面では彼の業績を紹介した巨大な映像が流れている。五大陸を股にかけた冒険家・植村直己。その人物像は彼の著書『青春を山に賭けて』などに詳しい。明治大学で山岳部へ入ってから山の魅力に取り憑かれ、とにかく身一つで国を飛び出してアメリカへ渡ったというチャレンジ精神の持ち主。ある意味で無謀ともとれるその行動はその人柄から良縁に恵まれ、紆余曲折あってたどり着いたスイスでスキー場に就職してそこで資金を稼ぎながら登山家として本格的に生きることになる。

エレベータホール でかい植村

板橋区は彼が生前に10年ほど住んでいた町で、三畳一間の住まいに夫人と暮らした。とはいえ年がら年中どこか世界中の山を登っている植村が自宅で正月を迎えたのはたったの三回だけだったという。夫人もさぞかし大変だったに違いない。

五大陸最高峰の他にもアマゾン川下り北極点到達グリーンランド縦断など数々の大記録を単独で打ち立てた植村直己。展示室の中には彼が登山で背負っていたのと同じ重さのザックがあり、実際に担ぐことができる。非常に重い。10キロはまだ軽い方で、多い時には50キロのザックを担いでいたという。なにが彼を掻き立てるのか。「そこに山があるから」である。彼の精神をそのままに自身も「そこにミュージアムがあるから」ミュージアム巡りを敢行したいと思ったのであった。嘘。

世界にはもう一つの大陸がある。南極大陸の最高峰はビンソン・マシフという当時4897mの山である。もちろん植村はこの山も目標にし、南極大陸横断と共に実行に移そうと南極まで行った矢先、フォークランド紛争が発生して断念したというエピソードがある。憎むべきは戦争。結果的にその後に訪れた冬のマッキンリー単独登頂で下山途中に消息を絶ったことから、彼の夢は半ばにして途絶えることになった。

企画展では北極点到達の際の映像が紹介されている。グリーンランドで共同生活をして犬ぞり旅の訓練をし、カナダ最北端のコロンビア岬から雪原を出発したこと(雪原とはいえ山のようにそびえている)、ホッキョクグマに来襲されたこと(食料だけ奪っていった)、出発から56日目で北極点に到達、その帰路にグリーンランドへ行き北端から南端まで縦断したことなど、まあ桁外れである。冒険家ってやっぱり変態である。なんだその「ついでに寄ってみた」みたいなのは。

トイレはウォシュレット式。隣接する資料室は「どんぐり文庫」という名前で冒険等を中心とした専門的図書を中心に誰でも気軽にみられる部屋になっている。なお1階にはシンボル展示として彼が北極圏で使用した犬ぞりの複製展示、2階には写真のパネル展示のほか、階段は彼の著書から「ウエムラ・スピリット」を感じとれる言葉を集めた「言葉の回廊」となっている。

言葉の回廊


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