見出し画像

松濤美術館(東京都渋谷区・神泉駅/エドワード・ゴーリー展)

松濤美術館は毎回なかなかチャレンジブルな企画展を打ち出すことが多く、今までに訪れてきた企画展のほとんどが注目されて入場制限がかけられるような展示だった記憶がある。今回のエドワード・ゴーリーの企画展もまた注目度が高く、入場するのには時間指定制を取り入れている曜日もあるほどの人気企画である。

不思議な世界観、モノクロで描かれた緻密な線とで世界中にファンを持つエドワード・ゴーリー、そのうろんな絵本世界を、自身がテキストとイラストの両方を手がけた作品の他に、挿絵や舞台などのデザイン、ポスターなどと共に紹介している。会場はゴーリーの作品が好きなファンが多く来場しており結構な混雑。作品自体がちいさく、キャプションもそれに合わせているので結構つまってしまったりする。

この美術館は実に格好いい

第1会場となる地下1階では子供の頃のドローイング作品から始まり、代表作の一つである『不幸な子供』を紹介している。裕福な家庭に生まれた子供シャーロットだったが、父親が海外で死んだと知らされるとその生活が一変、母はやつれて死に、唯一の親族だった叔父も事故死、寄宿学校に入れられることになるもいじめに遭い、逃亡したら誘拐されて売り飛ばされ、暗い部屋に閉じ込められて視力を失って行く、という非常に不幸なストーリー展開となっており、その結末も合わせて非常に衝撃的な作品である。

可愛らしい中に残酷

絵本でありながら常にブラックユーモア、不条理にあふれた話が多く、最初期の『魔の手』や『恐るべき赤ん坊』、アルファベット順に子供たちが死ぬ『ギャシュリークラムのちびっ子たち』、初期作であり代表作の一つである『うろんな客』など、とにかく読むものにザラザラとした不安を投げつけてくる。謎の生物が家庭を侵食して行くという奇妙な物語感もさることながら、最後の結びに至るまで素晴らしい展開。

なぜこれをチョイスした

会場ではこれらの作品を手に取って読めるスペースを確保しているため、原画に興味を持って実際にストーリーを追ってみる、という楽しみ方もできる。第2会場である地上2階にも同じようにスペースを確保しており、ソファで寛ぎながらゴーリーを読む、という格別な楽しみ方もまた良い。第2会場では主に舞台芸術に焦点を当て、エドワード・リアの詩に挿絵をつけた『ジャンブリーズ』や、バレエ好きなゴーリーが描く『金箔のコウモリ』、ニューヨーク・シティ・バレエや映像作品のデザイン提供など、絵本を飛び越えてさまざまな分野で活躍したことがわかる。

不穏の塊は大好物

トイレはウォシュレット式。今回は会場内は撮影できないが、階段や回廊、ブリッジは撮影できる。建築家である白井晟一の代表作として名高い松濤美術館の造形を楽しむのも一つの味わい方である。曜日によっては館内の建築解説ツアーも無料で組まれているので狙って行くのも良いかもしれない。

いい…実にいい建築…


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?