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三鷹市美術ギャラリー(東京都三鷹市・三鷹駅 収蔵展・太宰治資料室)〜太宰治文学サロン(同上)

JR三鷹駅の南口から歩いてすぐ、歩道橋から繋がっているという好アクセス の場所にある商業施設コラル、三鷹市美術ギャラリーはその5階にある。エスカレーターでは行けず、階段かエレベータで向かう形になる。

アールのかかった壁が迎えるフロント部分を進めばギャラリー受付がある。ギャラリー内は大きく分けて3つの展示室に分かれており、その内の1つは文豪の太宰治がかつて住んでいた三鷹の家を再現した展示室「三鷹の此の小さい家」となっている。その他の展示室では企画展が主に行われているが、企画展の状況によっては太宰治の展示室が閉館していることもあるので注意が必要。

今回の企画展はギャラリーの所蔵品展示で、太宰治の展示室も開館していた。休日の昼間という時間帯だったものの他に来客はほとんどなく、どちらの展示も比較的ゆっくりと見ることができる。

まず太宰治展示室。著作では至るところで貧乏暮らしだったとあり、実際に金策に走るエピソードもあったものの、中に入ってみると三畳、四畳半、六畳(仕事部屋)に縁側まである。現代の感覚からすれば東京都下でそれだけの広さの戸建てなら悪くない。ちなみに撮影は基本的に不可で、外側からと仕事部屋のみ撮影可能。

入り口には『HUMAN LOST』の原稿が掲げられている。これは生前より残っていたもの。原稿が手元にあったのは非常に珍しいことだったらしく、その中でもこの作品を選んでいたというのは太宰のデカダンス具合(道化であることを知りながらも頽廃を演じる)を彷彿とさせる。

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三鷹に住んでいた頃に執筆された作品や記事などが紹介されている。『ヴィヨンの妻』は1ページ目が少し見られるようになっている。表紙の装幀が林芙美子だったらしいのだけれど、1ページ目は鉛筆で女性のスケッチがされており、表紙の筆致とは違う様子。後から描かれたようなデッサンなので作者が気になるところ。

ヴィヨンの妻はすなわちヴィヨン=太宰治、妻=美知子夫人の可能性が高い。夫人の写真が掲げられており、デッサンの女性と似ている気がするので、デッサンの作者も太宰本人なのでは? と個人的には思っている。スタッフの方にたずねてみると学芸員に確認してもらえることになったので回答を待ちたい。

※後日、学芸員の方より回答があり、こちらも林芙美子によるものと判明。新宿中井にある林芙美子の邸宅まで太宰本人が弟子の堤重久を伴い依頼を直接したそう。当時の文壇では新聞連載を持つ林芙美子の地位の方が格段に高かったらしい。

隣の四畳半では当時の三鷹での生活や表札、印鑑などの現物、住民票や納税命令書などの記録が展示されている。奔放な太宰に対してそれでも幼い子供たちを抱えて生きる美知子夫人の強さにひたすら畏れ入る。

縁側を模した展示室では絵画の展示。太宰治は知り合いの桜井浜江という画家(『餮応夫人』のモデル)に教わって油絵を描くことがあったらしく、ゴッホを思わせる人物像(タイトルは「クラサキサン」)が展示されている。ただサインがどう読んでも<max>としか読めない。津島や太宰の片鱗すらない。ペンネームか何か使っていたのだろうか。

※こちらも学芸員の方より回答あり。「クラサキサン」なる人物がそもそも何者なのかが現時点では全くわかっていないそうで、太宰との関係も明らかでなくサインがなんと書かれているかはこれからの研究によるとされている。

最後は仕事部屋を再現した和室。部屋の中央には机(関連するチラシや太宰の写真集などが閲覧自由)、襖には外套が掛けてある。この部屋によく友人を読んで文学談義をしていたらしい。隅には文机もあり、抽斗の中にある原稿用紙を使って執筆体験なんかもできる。床の間には掛け軸(義兄の遺品)と花器(悪人こと井伏鱒二から送られた古備前花入)があり、生意気にも文豪の風情がある。仕事部屋が最も広いというのも鬼畜ポイントが高い。

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隣接する三鷹ギャラリーでは収蔵作品展ということで、作者名をひたすら五十音字の順番に並べて展示している。印象的だったのが赤瀬川原平による写真(トマソンシリーズと似たような視点なのはさすが。面白い)や池田満寿夫によるジャパネスク・ランドスケープという往来の画家へのリスペクト作品。個人的には尾形光琳と俵屋宗達は逆な気もする。収蔵作品展は何回かに分けて行われる様子。トイレはウォシュレット式。

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三鷹駅から徒歩5分ほどの場所に太宰治文学サロンという別の展示室もある。こちらは1室だけで広くはないのだけれど、周辺に点在する太宰治に関連する場所をめぐる際の拠点にするのは良いかもしれない。トイレは男女共用のウォシュレット式。三鷹の周辺には入水した玉川上水や、写真を撮った歩道橋、墓所である禅林寺などがある。


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