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大人買い、涙の後悔

夏服の大人買いをするために丸井のショップへ

N氏が今より10キロ以上太っていた頃。バーゲンで気が大きくなり、よせばいいのに夏服の「大人買い」を決行した日の話である。

N氏はその日、バーゲン中の丸井のショップで半袖シャツを買おうと決めて出かけた。

当時、N氏はポールスミスの色合いが好きで、この日はボタンのないシャツが気に入り、店員に試着を申し出たのだ。

そこまでは良かったのだが、首を通した瞬間、そのMサイズがパツンパツンだと気づいた。

慌てて試着室の外に飛び出し、叫ぶN氏。「Lにしてください!」

気を取り直してLサイズを試着。ところが、このLもぴっちりすぎて妙なのだ。

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店員によれば「これはこういうふうに着るものなんですよ」とのことらしい。この頃から細身の男性向けの、肌にフィットしたシャツが増えていた。

これじゃ、ペットが無理やり服を着せられているような感じじゃないか。

もう、自分の体型ではこういう服を着るのが無理だってことなのか。おじさんはこういうショップで買うなってことなのか。店員に聞くN氏。

「いや、でもやっぱりこれは、なんかヘンじゃないですかね」
「いいえ、今は下にTシャツを着てらっしゃるからじゃないですか?ぜんぜん大丈夫だと思いますよ」

流行ってなんだ?もうついていけないのか?

慰めの言葉が返ってくる。どうでもいいことまで聞いてしまった。

「これ、ボタンがないんですけど、ボクはちょっと胸毛があるんで、見えたりしないですかね?」
「ビミョーに胸元を閉じているので、たぶん見えないと思うんですけど……」

そう応えながら、店員が薄く、せせら笑ったように感じたのは気のせいか。

売りたいほうは、そう言うだろう。しかし、自分で着ていながら違和感がぬぐえない。

お似合いですよ

店員のダメ押し。N氏はその服を買い求めてしまった。それは1着目の悲劇にすぎなかった。

1着目を買い求めて満足するはずなのに、なんだかモヤモヤが止まらなくなってしまったN氏。

そのあとで、ちょっと先にあるショップに立ち寄ってしまった。なぜなのだろう。

まずいラーメン屋に入って失敗したあとに、どうしてもうまい店に入りなおしてしまう性分がそうさせるのか。とはいえ、ポールスミスにはなんの罪もない。

次の店は客層に20代のファンキーな若者が多い店だった。

よせばいいのに、その中に混じってかなりムリをして、派手目のシャツを買おうと企んだのである。

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ところが、そこはまたも肌密着系の服ばかり。もう、こういう服しかないのか?いや、そんなことはないはずだ。ゆったりめの服を選べばいいんだから。

今度はよく考えて買おう。そう思いながら、次の服を選び、試着室へ向かった。この時点でぼんやりと考える。

ほんとにこれはオレの求める服なのか。バーゲンだからどうしても買わなきゅいけないなんてことはないんだぞ。

明らかな違和感に抵抗してしまう脳

服を来て鏡の前に立つと、またも違和感。なんか違う。

今まで買っていたようなポロシャツはたっぷりしていたから、ごまかせたけれど、これでは確実に腹まわりのラインがはっきりわかる。

というより、そもそも体型を強調するデザインじゃないか。彼はにこやかに見ている店員に言った。

「なんだか、体の線が……」

店員が言った。

「いえ、お似合いですよ。今すごくいい感じで着てらっしゃると思います。肩なんかちょうど(肩に触れながら)ここですから、サイズ的にもぴったりですよ」

不安を解消して成約に結びつける、販売テクニック。わかっているはずなのに、N氏は「今すごくいい感じで着てらっしゃると思います」の言葉に酔った。

そして、本能で感じたはずの違和感を頭のなかから退けた。馬鹿げたことに、色違いで2着も買ってしまったのである。

買ってうれしいはずの帰り道。ほんとうにこれで大丈夫だったのだろうかと、不安がこみあげる。

子供のころはこういうのを「無駄遣い」と言われなかったか。

そう思ったN氏は先ほどのラーメン屋の心理のパターンで、またもほかの店でダブッとしたポロシャツを急いで買い求めた。

帰ってきて、それらを比べてみると、いちばん安かったそのポロシャツがいちばん自分に似合っていた。

20才の頃の「まるで栄養失調みたい」と言われた自分が、なつかしくも悲しい。

そもそも、大人買いをすると決めたのに、たった4着であれこれ後悔するN氏に服は必要だったのだろうか。


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