スーパーマーケットのテロリスト
食料品とのソーシャルディスタンス
数年前、世田谷区内のあるスーパー。
N氏は50歳前後に見えるオジサンが、自分の鼻をいじりながらどこかソワソワと歩いているのを目撃した。
遠慮せずにはっきり書けば、鼻クソをほじりながら歩いていたのだ。
彼はふと、自分の買い物カゴの中の食パンに目をやる。そして、何を思ったのか、急にUターンして食パン売り場へもどった。
イヤな予感はすぐに的中。オジサンは鼻クソをほじった右手で一度カゴに入れた食パンをもどし、別のメーカーの食パンを入れ直したのだ。
さっき買った食パンが気に入らないのか。それとも、賞味期限が気になったのか。ともかく、もとのパンはゾッとする状態で何事もなかったかのようにもどされたのであった。
汚ねっ!今日はパン買わないぞ。そう思ったとたん、N氏に10年以上前のあるシーンが蘇った。
このタイミングでやる?
その日、N氏は取引先において4人で打ち合わせをしていた。今後の広告展開の相談の前に、これから工事が始まるというある店舗の図面を見せられた。
全員が図面を見ているので、自然とテーブルに前のめりになる。例えれば、子供が全員で珍しいカブトムシに見入っている体勢だ。
N氏は子供の頃から妙なクセがある。みんなで同じことをしていると、すぐに飽きてしまい、その空間から一歩外に出たいと強烈に思う。とはいえ、それを常識的にできない状況が多いので、意識だけを外に出す。みんなが同じことをしている姿を俯瞰で見て、これはなんだろうと観察するのだ。
この日もそんなクセからか、全員が同じ恰好で話し込んでいるのが奇妙に思えて、N氏はなにげなく顔をあげてみた。
すると、もうひとり、向かいで顔をあげている男がいた。取引先のサブスタッフであった。
自分の上司が熱心に図面を指して説明しているというのに、彼はなんと右手の人差し指を右の鼻の穴に深く突っ込み、ちょっと上目づかいで目を白黒させていたのである。指センサーで固形物を探索中だったのだ。
「!」
ふたりの目が合った。あっ!えっ、なにしてるの?いや、えっ?これはその・・・。揺れ動く瞳孔。
しばらくして冷静になるN氏。汚ねっ!打ち合わせの最中になにやってんだよ、まったく。
ところが、男の態度は奇妙だった。犯罪者がまさに犯罪を行おうとしたそのとき、警察に踏み込まれるとびっくりするように、彼は鼻の穴に指を突っ込んだまま、身動きがとれなくなってしまったのだ。
止まった時間。N氏を見つめるだけのバイキンマン。
N氏は無言で訴える。その体勢でオレを見るな。早く指抜いとけ、早く!みんなが顔あげるぞ!なんでいつまでもオレを見てる?なにしてるんだ、お前!
いくら目で訴えても、金縛りにあったままの男。
結局、そのまま全員が顔をあげても、彼は鼻に指を突っ込んだまま、全員から白目を向けられることになった。
だが、社会人というものはへんなものだ。みんな汚いものを見せられてモヤモヤしているのに、まるで何事もなかったかのようにそれには誰も触れず、打ち合わせは進んだのであった。
急に不安がこみあげてきた
話を戻そう。イヤなものを見てしまったN氏。生鮮食品を買いに来たのに、さっきのオジサンを見てしまったために、いろいろ考え始めた。
このとき、ネギはすでに買い物カゴに入れてしまっていた。
スーパーの野菜は無防備だ。ナス、にんじんはビニール入りだが、むきだしのキャベツ、ネギはどうだ。
客が何人も品定めしたうえでもどしてる可能性は大きい。あのオジサン、ネギにも目をつけてさわっただろうか?
イヤな感じがこみあげてくる。さて、このネギ、どうしよう。このあと、作戦を練ったはずのN氏に悲劇は訪れる。
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