浮かれてハマる落とし穴
続けて2日、お金を拾う
N氏はある真夏の土日に、続けて国民のピンチを救ったことがある。
土曜日は明治神宮の軽食コーナーだった。ニヤけた顔で恋人のためにソフトクリームを買っていた青年がいた。
浮ついた気持ちから重なった3千円ほどの紙幣をポケットから落としたのだ。N氏はネコババしたい衝動を抑えて、声をかけた。
「お金、落としましたよ」
「あ、ありがとうございます!すみません!」
青年は丁寧に頭を下げて、N氏に感謝していた。いいことをすると気持ちがいいものだ。
さらに翌日の日曜。蒲田温泉(大田区の銭湯)の更衣室でドサッと大きな音がした。なにやら小銭がたくさん入っているらしい財布だった。
持ち主の爺さんは耳が遠いらしく、気づかず出て行こうとする。とっさに声をかけた。
「財布、落としましたよ!」
「あ~ありがとね。まったく、歳とるとこれだからね、ハハハ。いや、どうもありがとう。いいお湯だった……」
N氏はほくそ笑んだ。「いいお湯だった」にはもちろん、N氏の善行への感謝も含まれていただろう。
「正確に言い換えれば、いい人(N氏)に助けられたのも含めて、今日はいいお湯だったってことなんだよな、フフフ」
いいことしたから、いいことが起きるわけじゃない
2日続きでこんなことがあるのも珍しい。なにか、自分にとてもいいことが起こりそうな予感がしてきた。
ほがらかな気分で温泉を出たN氏の脳裏に、突然、ある映像が浮かんだ。
昨夜作ったばかりのカレー。真夏なのに冷蔵庫にも入れず、今朝も火を入れて来なかったじゃないか!
時計を見ると、放置したまま10時間以上は経過していた。
N氏は大田区から自転車を飛ばして、世田谷区まで泣く泣く帰った。こんな時になぜ遠出してしまったのだろう。片道1時間30分もかけて。
「トマトも入れて、ちょっとおいしくなってたのにー!」
部屋に飛び込んで鍋の蓋をとると、酸っぱい臭いがした。中では白と青のカビの胞子が静かに産声をあげている。夏のカレーは足が早い。
完
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