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サブスクリプションの見える化 (2/3) ―予測の変遷を捉え、現状を再評価する

全3回の連載予定の「サブスクリプションの見える化」シリーズ。
4日前(12/11)の記事では、おかげさまで、Twitter、はてぶ、NewsPicks などでたくさんの反響をいただいています。ありがとうござます。

また、noteのサポート機能からご入金もいただきました。※見慣れない通知だなーと思って調べて初めて知ったのですが、10月にも複数の方から、サポートをいただいていました。大変遅くなってしまいましたが、この場をお借りして、ありがとうございます。(営利目的ではありませんが、わたしの記事を通してサポートしようと思っていただけたということが何よりうれしいです。)

さて、今回は連載の第2回です。前回に引き続き、私自身がBtoBのサブスクリプションのビジネスでマーケティングやデータ分析を担当している経験をもとに、個別から全体、現在から未来に向けて、以下の3つの目的に合わせて考えていきます。


~ 過去の投稿 ~

■連載をはじめるきっかけになった記事
ネットフリックスの値上げから考えるサブスクリプションモデルの適切なKPI設定

■連載の第1弾
サブスクリプションの見える化 (1/3) ―長期契約は点でも線でもなく面で捉える

*  *  *



さっそく中身に入りましょう。


②過去の実績から算出した予測の変遷を捉え、現状を再評価する

過去の記事ではサブスクリプションの強みを以下のように書きました。

サブスクリプション企業の成長率は、従来のソフトウェア企業の3倍を超え(※1)、サブスクリプション企業が生み出す収益は、従来の先行投資方法で得ている収益より6倍価値がある(※2)といわれています。それは、未来の収益の予想ができることから複合的な効果が生まれるためです。

salesforce.com(BtoBのクラウド型業務システムの世界最大手)は、会計年度の初日に、四半期売上の95%を、年間売上の80%を予測することができるそうです。これは5年、10年と長い実績をもち十分に利益の積み上げをもつ企業であれば決して特別なことではないでしょう。

安定して経常収益を得られる基盤があると、目先の問題に捕らわれることなく、長期的視野に立ち、戦略を練られるようになります。



今回はそれを「スタッガー・チャート」で見える化します。



予測の変遷を捉えることの意味

売上予測を毎月アップデートし、推移を追うことにどのような意味があるのでしょうか。インテルの第1号社員で、その後約20年間社長を勤めたアンディ・グローブは、著書「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」(※3)で、このスタッガー・チャートを紹介し、以下のように語っています。

受注の仕事をこのように見るということは、誰が予測しても、自分の仕事を真剣に考えさせることになる。(中略)だが、もっとも大切なことは、予測した見通しがある月から翌月に向けて上がったにしろ下がったにしろそこでの趨勢(トレンド)が私がこれまで知る限りで最も貴重な事業のインディケーターになることである。(P67)※強調は筆者によるもの

当月の予実チェックしない組織はないでしょう。しかし、予測と予測の比較はしていますでしょうか。

「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」の初版が出版されたは1995年、2017年1月に改訂版が出るまではしばらく絶版になっていましたし、「スタッガー・チャート」とググってもほとんどHitしません。この分析を使っている人は案外少ないのではないでしょうか。


今回は、この「スタッガー・チャート」で具体的にどのような示唆が得られるのか考えてみます。


作り方・読み方

今回のスタッガー・チャートは、行の一番左の囲いの中に売上実績を、以降、同じ行の右側に翌月、翌々月、そのまたさらに翌月・・・の予測を記入しています。



これを続けていくと、表を縦に見比べることで、過去の予測が現実に近づくにつれてどのように変化しているかを捉えることができます


先ほどのヒートマップは9ヶ月経過後の最終型ですが、その過程でどのような示唆が得られるか見てみましょう。

※数値は仮定したもので実在するものではありません。
※スマホでご覧になっている方は数値が読めないほど小さいと思います。すみませんがセルの色でなんとなくつかんでいただければ十分です。
※ヒートマップの色付けの条件は、表の中の縦の列内で比較をして、最小のセルが白、それ以降順に色が濃くなるように設定しています。

■会計年度の終わり~翌会計年度初日

今回は分析の対象を17年1月からの累計とします。16年12月の実績(囲いの中)は対象外なので 0
会計年度の終わり(=翌会計年度初日)で立てた、1ヶ月後の売上予測は 721 、半年後の17/06(下半期終了時点)の売上予測は 5,424 です。これを基準にします。※予測は過去の実績から回帰分析をしています。


■1ヶ月経過

17/01の売上実績(囲いの中の)は 713 です。予測の 721 に対して、 8 のマイナスになっています。(このよう縦に比較します)

同時に、17/06では、5,424 5,311 と、113 のマイナスになると予測されました。

のマイナスと 113 のマイナスでは大きな違いです。

このように、顧客の継続がものをいうサブスクリプションでは、初期の数値の変動やトレンドがバタフライ効果のように、後の大きな変化につながります。今回はそれを捉えることが目的です。


■2ヶ月~3ヶ月経過

17/02の売上実績は 1,414。依然マイナスですが少し持ち直しました。
しかし、17/03の売上実績はマイナスの幅はさらに広がり、第1四半期の実績は 2,274 と、年始に立てた予測 2,399 に対して 5%の未達。さらに悪いことは、この時点での17/06(上半期)実績は 5,049 と、年始の予測に対して、7%未達とその差が広がっています。

このように厳しい結果になっているのには何らかの原因があるはずです。前回の記事に書いたコホート分析など(それに限らず)、顧客情報・購買情報を分解して、どこが下がっているのかを把握する必要があります。


■4ヶ月~6ヶ月経過

17/04~17/05は、過去のマイナス分が大きく、年始の予測に比べれば若干マイナスが残っていますが、高い勢いでマイナスを取り戻しつつあることが、それ以降の予測数値の回復に現れています。そして、17/06(上半期)の実績で、ついに過去のマイナスを取り返してプラスに転じました。(5,424 → 5,557

さらに、今回の場合、上半期の終了と同時に、下半期(年度末)の予測が出ています。この時点で、年度末には 13,490 の予測が立っています。


■7ヶ月~9ヶ月経過

依然として高い勢いで成長を続けて、年度末の予測が、6月から9月にかけて、13,490 から 15,866 と、18%も成長するペースであることがわかります。


最後にこれまでの表を折れ線グラフで表したものが下の画像です。

今回の予測の期間は6ヶ月なので、各回帰直線の長さが6ヶ月(もちろんもっと長くてもよいです)。線の始点が実績で、伸びた先が予測。重なっていないところが予測との変動(ズレ)です。まるで鉛筆でスケッチをして輪郭を整えるように、最初に少しだけ下にふくらんだ後、後半から一気に上方修正されていることがわかります。

この折れ線グラフで視覚のイメージはしつつも、やはり、2軸のマトリクスで数値を面で捉えることが大切だと思います。


これまでも何度も述べてきたように、サブスクリプションは長期的な収益を予測できることが強みです。私がある条件で回帰分析で予測を行ったところ、四半期の売上が94%の精度、1年後の売上が78%の精度で予測できました。初期のズレがその後に大きな影響に発展するため、スタッガー・チャートは非常に有効なツールになるのではないかと思います。


終わりに

noteに記事を書き始めるようになって、うれしいことに事業の相談や情報交換の機会をいただくようになりました。そこでお会いしたある会社は、Netflixをある分野に特化させたような動画配信のプロダクトを作っているスタートアップで、今年の夏にシリーズシード(プロダクトのローンチ前のフェーズ)の資金調達をして、今は絶賛開発中。そして、その後すぐにシリーズA(プロダクトをローンチしてマーケティングを開始するフェーズ)の資金調達を狙っているのだとか。

Schoo や スタディサプリ が教育に特化しているように、何かに特化したサブスクリプションの新規プロダクトやスタートアップはこれからますます増えるんじゃないかと思っています。ですが、これも何度も述べているように、投資の回収に時間がかかるのがサブスクリプションなので、資金調達は非常に重要です。今回の記事はどちらかいうと、シリーズB(ビジネスがある程度定着して拡大を狙うフェーズ)以降の話かもしれませんが、予測と評価は資金調達のアカウンタビリティですごく大事だと思うので、今回の記事や連載が何かの役に立てたらうれしいです。


次回予告

次回は早くも最終回、「感応度分析」という分析手法を紹介しながら、

③予測した数値から、この先どのくらいを目指すべきか判断する

について、サブスクリプションのビジネスの特性にあわせて考えていきます。よろしければお付き合いください。


また、この連載は、noteのマガジンにまとめていきます。こちらのフォローをしていただけたらうれしいです。※記事はすべてフリーです。

サブスクリプションの分析note






== 2017/12/15 14:30 追記 ==
分析の意味を最初にお伝えしたほうがよいかと思い、「予測の変遷を捉えることの意味」と「つくり方・読み方」の順番を入れ替える改訂を行いました。



※出典

(※1)zuora.ウォールストリートがサブスクリプションを評価する3つの理由(2017/12/14アクセス)

(※2)salesforce.com.SaaS スタートアップ 創業者向けガイド Vol.2.2017

(※3)アンドリュー・S・グローブ.HIGH OUTPUT MANAGEMENT.日経BP社.2017.P67.



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林直幸です。BtoBのインターネットサービスでCRMを担当。Salesforce、Marketoのシステム管理者 兼 アナリスト 兼 マーケティングプランナー。身の回りの出来事を図解したり、フレームワークや原理原則に照らして、言語化していきたいと思います。
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