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#0 カオスマップの向こう側(D2C導入編)

本note概要
・カオスマップでは何も分からないので、各社を解説する連載をしたい。
・まずは、日本D2C編を解説。
・その前に、今回は「D2C」とは何かを解説するnoteを書きました。
・次回note以降、スタートアップ攻略に突入。

D2Cとは何かをご一緒に考えていただける方は是非、下記note詳細をご一読ください。

1.はじめに

業界のプレイヤーを俯瞰できる「カオスマップ」。市場調査のための資料に引用する人も多いでしょう。ただ、自身の経験からすると、カオスマップを眺めても企業のことは何も分からないですし、文字通りカオスなままです。せいぜい、「このロゴデザイン可愛い」と感じるか、「ここ知ってるー」と妙に安心するくらいでしょう。

スタートアップであれば、各社のコンセプト・強みが差別化要素になるため、それを大括りにセグメントして並べられた状態のままでは勿体無い。よくよく調べると、結構怪しい企業も紛れており、カオスマップの穴埋めに使われているような場合もあるものです。

そこで、様々なカオスマップを攻略し、「カオスマップに掲載されるほどのブランドの成長ドライバーは何なのか」の理解を深めていくnoteを連載したいと思います。

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2.カオスマップ

まずはリテール業界の「D2C」から攻略します。
※リテールに身を置いているため、完全に個人的興味による選択です。

引用:Media Innovation「日本のD2Cブランドカオスマップを大公開!アパレル、ファッション、フードなど幅が広がる

早速出ました、日本のD2Cカオスマップ。ロゴが多様で可愛いですね。ここからは、女性アパレル、ファッション関連が多いのかな、くらいしか読み取れません。

そもそもD2Cとは何なのか、カオスマップの沼に飛び込む前に導入編を解説した上で攻略に入りたいと思います。

※本noteは、D2Cとは何か?の解説編なので、各社分析は別noteで掲載します。

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3.D2Cとは何か

D2Cは「Direct-to-Consumer」の略で、近年、リテール業界において最も注目されている流通モデルです。

日本語にすれば「直接販売」になりますが、単なる直販であれば、農家が軒先で自分で売る。職人がプロダクトを自分の商店で売る。となり、いずれも直接顧客に販売するという意味では「直販」であり、何も新しい概念ではありません。顧客の声や販売量を分析して次に作るものを変えるなど、寧ろ、流通業の原点と言えます。

この、流通の原点である顧客と直接コミュニケーションを取る直販モデルに「テクノロジー」の要素が組み合わさたものが「D2C」モデルです。テクノロジーの発展とともに様々なモデルに昇華させてきた流通モデルの現在形と言えます。

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4.D2Cが現れた背景

D2Cが流通モデルの現在形ということは、過去のモデルがあり、そこからの繋がりがあるはずです。その変化を紐解いてみたいと思います。

流通モデルの変化は「情報と人が集まる場所(メディア)」の変化に合わせて起きる
と思っています。以下の表を参照ください。

流通モデルの変化のポイントは3つです。
1.メディアが、店舗を持たない行商から店舗を構える商店へ移行する変化。
2.メディアが「Offline」から「Online」へ移行する変化。
3.Onlineのアクセス手段が「PC」から「スマホ」へ移行する変化。

1.メディアが店舗を持たない行商から店舗を構える商店へ移行する変化。

古くは、自身で商品を生産して家に直接訪ねて売り歩く「行商」という直販の流通モデルがありました。

次第に、人が集まり町ができると、人を呼び込む方が販売効率が上がるため、商店を構えるようになります。また、自身で生産するだけでは顧客ニーズに対応できないので、多品種を仕入れるようになり、さらに販売効率を上げる努力をします。

一部、百貨店に外商制度が残ってはいますが、この変化は現代までずっと受け継がれ、「商店を構えて商材を仕入れ、店で顧客を待つ商店モデル」になりました。顧客に積極的に商品を売りに行かなくなった、とも言えます。

これが1つ目の変化。

2.メディアが「Offline」から「Online」へ移行する変化。

これはもう周知の事実ですが、1990年代にインターネットが一般に普及したことで、これまで新しいものを生活圏内の百貨店や商店で探していたものが、世界中の情報をインターネットで検索して探せるようになります。

ここで情報と人が集まる場所が「Offlineの商店からOnlineのWEB」に移行します。結果、流通モデルも「店を構えずに商材を仕入れ、WEBで顧客を待つECモデル」へと変化しました。

これが2つ目の変化。

3.Onlineのアクセス手段がPCからスマホに移行する変化。

そして、近年の最大の変化が「スマホ」の出現と「SNS」の普及です。これまで家に帰ってPCを使ってWEBにアクセスしていた行動が、スマホの出現により、いつでもどこでもWEBにアクセスできるようになりECも爆発的に伸び始めます。
また、SNSの普及により、テキストベースの情報交流から、画像や動画をベースのリッチな情報をベースにした交流が、無料でできるようになりました。

ECの発展により、Offlineの店を構えずに商品販売できるようになり商品販売のハードルが大幅に下がり、SNSを通じて、直接、顧客と交流できるようになったことで、顧客の声をプロダクトに反映することが容易になりました。

これが3つ目の変化。

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このように、情報と人が集まる場所の変化に販売の場所と顧客との交流方法を対応させるために、流通業は直販→商店→ECと流通モデルを変化させてきたのです。

そして、とくに、3つ目の変化によって現代に出てきた流通モデルが「D2C」です。

店舗を持たずに、直接、顧客個々人と積極的にコミュニケーションを取る流通モデルは、実は「行商」と同じです。私は「D2Cは行商が現代版にアップデートされたもの」と認識しています。

顧客の声に耳を傾けながら、顧客が寄って来るのを待つのではなく、積極的に寄って行く姿勢も通じる部分があります。BtoCというよりは、BwithCといった感覚です。

行商と大きく異なるのは、テクノロジーを活用し、場所と時間を選ばずに販売できること。また、多くの顧客と同時にコミュニケーションを取ることができ、1対多にも関わらずパーソナライズした商売を可能にしていることでしょう。流通モデルの進化の末、テクノロジーを活用して現代の提供価値に合わせて流通の原点である行商モデルに帰結したのが、D2Cモデルなのです。

余談ですが、次のメディアの変化として「自動運転」が大きなポイントになると思っています。自家用車の普及以来の移動手段のイノベーションですが、すでに海外のライドシェア普及で起きているように、現在地から目的地までを大型の駅を経由して行く必要がなくなり、ハブ&スポーク型で人を集め、運ぶ場所が減ると予測されます。

すなわち、自動運転の普及により、情報と人が集まる場所が分散化する可能性が高くなります。自動運転車が最大のメディアになれば、移動中の車内が広告の場となり、販売の場となるかもしれません。移動販売やデリバリーの自動化が普及すると、固定の店を構えていることがリスクになる可能性もあります。

この辺り、まだどうなるかは分かりませんが、このメディアの変化に合わせて、流通モデルも大きく変わるはずです。

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5.D2Cのアイデンティティ。SPAとの違いは?

ここまで、D2Cが現れた背景について、流通モデル全体の変化を元にnoteしましたが、ここで、もう少しD2C自体のアイデンティティ紐解いていきたいと思います。

D2Cを考える上で、よく、D2CはSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel・製造小売業)と同じではないのか?というのがあります。

確かに、企画から製造、販売、ブランディングまで垂直統合するサプライチェーンは上は、D2CとSPAは大別すれば同じ構造と言えます。ただし、流通モデルの現在形であるD2Cは、以下の表のように、マーケティングの4Pにおいて大きく捉え方が異なっていると考えています。

<D2Cの"はじまり"の4P>
Promotion:共感されるブランドストーリーでSNSを用いてコミュニティを形成。Place:スマホファーストで、WEBを主戦場としている。Price:絶対値の低価格ではなく、相対値の「コスパ」価格を追う。Product:テクノロジーを活用したユーザードリブンによるプロダクト開発。

1.Promotion

SPAが大量生産・大量消費の最適モデルとして台頭した結果、ファッションは「誰でも買えて、誰でも着れるシンプルな服に収斂」されました。これはこれで非常に有意義なことで、私が子供時代にキャラクター物ばかりを着ていたことを思うと、今の子供がどれだけオシャレにユニクロを着こなしているかは目を見張るものがあります。

一方で、販売効率化のために、販売量と流行のパターンに最大公約数化されるSPAモデルは「ファッションのコモディティ化」を招きます。
これは、もっと良いものが欲しい、他の人と違うものが良い、自分に合うサイズが無い。といった「外れ値」も同時に生み出します。その外れ値を「課題」に設定し、ニーズを汲み取ったのが「D2C」です。そのため、D2Cはターゲットと商品カテゴリーを絞ったものが多くなっています。

また、InstagramをはじめとするSNSを活用した顧客との交流もD2Cの特徴です。ここで、「ユニクロもSNSを活用しているし、むしろSNSを使っていない方が珍しいのでは?」という疑問が出ます。しかし、

・SPAが広告の意味合いで一方通行の情報発信をするためにSNSを使うのに対し、
・D2Cは顧客との情報交換、交流のためにSNSを活用します。

外れ値に対する強い課題認識は、同じ想いを持つ人の共感を集め、スマホとともに普及してきたSNSによる交流を通じて「結びつきの強いコミュニティ」を形成します。このコミュニティに対して、商品を届けるのがD2CのPromotionです。

一例として、COHINAさんの「小柄な女性に似合う服が無い」という課題認識の元、155cm以下の女性創業者とスタッフが創り上げる、小柄な女性のためのファッションが共感を生み出し、instagramだけでも105千人のフォロワー(2019.11月時点)を持つコミュニティを形成しています。毎日instagramをアップし、インスタライブで配信することで、コミュニティにPromotionを行なっています。

ただし、基本的に、シード段階ではマス広告を打たないという意味では、そのブランドのコミュニティに近づかなければ、消費者は「全く知らない」ということもあり得るということです。大規模SPAがCMや新聞で告知していることを思えば、認知度の差はあるでしょう。

2.Place

SPAがリアルでの出店をベースにした店づくりをするのに対し、D2CはWEBを主戦場とした流通モデルです。店を構えることよりも初期コストをおさえられるということもありますが、顧客がスマホを駆使してECによる購入を好むデジタルネイティブ世代だということも大きなポイントです。

そして、自社ECによる流通も1つの特徴です。amazonや楽天などのプラットフォーマーを活用する方が広く商品を届けることができるかもしれませんが、顧客との距離が離れる。ストーリーが直接伝えられない。ビジネス的には粗利を下げる。という課題もあり、自社ECで流通させることが通常です。

ここで、「D2Cもリアル進出しているし、SPAも自社ECが無い方が珍しいのでは?」という声も上がるわけですが、リアル店舗とECの位置付けがSPAとD2Cでは大きく異なっていると思います。

・SPAがリアルを販売主戦場、ECを販売のサブ、と位置付けるのに対し、
・D2Cはリアルを体験の場所、ECを販売の主戦場と位置付けます。

これ分かりやすく体現しているのがFabricTokyoさんです。リアルの場をブランド体験の場と位置付け、店舗を持ちながらもEC販売に特化することで「店頭で販売しなくても良い」という発想が生まれました。販売員が顧客ファーストのサービスを実施することができ、顧客とのコミュニケーションを優先することで、顧客からフィードバックをもらえるような仕組みを構築しています。

D2Cがリアル店舗をコミュニティ形成、顧客調査のためのPromotionの場と捉えるのに対し、既存アパレル店舗ごとに売上予算をつけて、ビジネスの基礎となる売上原価とも言える場と捉えます。

既存アパレルがD2Cモデルに移行できないのも、このPlaceの捉え方の違いが大きいと思います。

店頭を「売らない店舗」と規定にすると、既存の「販売員の評価制度」を全て組み替えなくてはいけません。他のブランドの販売員とどう優劣をつければ良いのか。販売しなくて給与はこれで良いのか、キャリアルートをどう設計するのか。この制度設計は容易ではありません。

ここが大手アパレルがD2Cのように、店頭を「体験の場」に振り切れないポイントと言えます。

3.Price

D2CやSPAのような直販ビジネスは、自社企画と自社製造により中間流通を省けるので、価格を安くできる。と言われています。実際、SPAはデフレの申し子と思われるほどに、低価格帯の商材を販売しているのが主流です。しかし、価格の捉え方には違いがあり、

・SPAが自社企画、大量生産により低価格で流通させるのに対して、
・D2Cは「高コスパ」とも言える、品質に対して適正な価格で流通させます。

「100年誇れる1本を」をステートメントに掲げる、日本酒D2CのSAKE100さんは、16,000円以上の日本酒を全国の酒蔵と共同で企画製造販売しています。絶対額だけ見れば、日本酒で1万円超えは非常に高額に感じられますが、選び抜かれた最高峰の酒造技術をもつ酒蔵と商材を創りあげ、「この価格でもまだ安い」と言えるほどの高品質商材を自社ECで流通させています。

中には、D2Cモデルを採用するブランドで「低価格」を売りにした価格戦略を取るブランドもありますが、低価格商材を販売するだけでなく、中間流通を省いた結果、高品質な商材を比較的おさえた価格(高コスパ価格)で販売できるようになっています。

D2Cなのに価格が高い。という批判はあまり意味がなく、実際の品質と比べて価格設定はどうなのか、という視点が重要です。

4.Product

よく「D2Cはデータドリブン」なので、データ活用による商品開発に優れている。という声がありますが、SPA大手企業も馬鹿ではないですし、データの取得に力を入れ、その分析もスタートアップ以上のリソースをかけているので、データ活用の差は本質では無いと思っています。では、Productの捉え方で異なる点は何か。それは、

・SPAが効率的に商品売るために商品開発しているのに対し、
・D2Cは商品を中心とした周辺の顧客体験を開発しています。

商品を売るために商品開発しているのは当たり前なのですが、D2Cが商品だけではなく「顧客体験」の開発を重視している点は大きなポイントかと思います。

WEBでの販売を主戦場としており、商品が届くまでのタイムラグがあることや、商品の感想をその場で直接聞けないこともあり、顧客体験軸で言えば、購買前後の時間の価値向上をとくに重視している傾向にあります。

ギルトフリーのスナックをサブスクリプションモデルで届けるスナックミーさんは、顧客の好みにあったスナックをパックにして毎月届けるサービスを展開しています。パーソナライズすることで、顧客は、届く前に「今月は何が届くのか楽しみ」といった感情を持ち、パッケージを毎回変えて包装にもこだわることで、手に取った時、開封時の喜びや楽しみを感じる。商品開発のスーリーを添えたメッセージを添えることで顧客の共感を生み、SNSで拡散したくなる。そのSNSのフィードバックを元に商品の改善を行う。といった、商品購入だけでなく、待ってる時間や買った後の顧客体験もデザインしています。

商品を待ってる間も楽しみ。思わず拡散したくなる。という感情を引き出すのは、品質訴求だけでは難しく、ブランドに関わる顧客体験全体をマネジメントしなければいけません。結果、全てをマネジメントするためには中間企業を入れないことが最善、といった発想にも繋がります。

個人的には、ポップアップ自体も、百貨店や商業ビルのいちスペースを借りることで、周囲のブランドとのハレーションやポップアップにたどり着くまでの導線でノイズが入るので、路面店で展開するのが最善かと思っています。
コストの問題や、トラフィックの問題もあり、なかなか難しいとは思うのですが、appleストアが路面で展開するのも、そういう意図があってのことかと思います。

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以上のように、D2CとSPAはサプライチェーン上は大きく差異は無いとのですが、4Pにおけるそれぞれの機能の捉え方が異なっています。
ただし、対象とするターゲット顧客の数が圧倒的に違うので、捉え方が異なるのも当前なのですが、それぐらいにD2CとSPAは違うということです。また、どちらが良い。という話しでもありません。

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6.まとめ(次回予告)

ここまで、D2Cとは何か。D2Cが現れた背景や特徴について、リテール業界に身を置く経験を元にnoteしてきました。

メディアの変化とともに生まれた流通モデルは、現代の消費者のライフスタイルに対応しやすいこともあり、これまでのモデルと比較すると、比較的初期コストを抑えられることもあり、スタートアップの流通モデルとして採用されやすいモデルとなっています。

ただし、明確なのは、D2Cは「流通モデル」であり、モデルの定義を満たしたからと言って「社会に受け入れられるか」というのは別の問題だということです。

とくに、「D2Cは顧客体験開発をしている」というのは言葉にすると簡単ですが、どうやってコミュニティ化するのか、継続してもらうにはどうするのか。その一連の顧客体験をどのようにデザインしているのかについては、各社の企業戦略そのものであり、D2Cモデルが面白いのではなく、一連の顧客体験をどのようにデザインしているかが面白いと思っています。

「はじめに」にも書きましたが、カオスマップを眺めても何も分からないのと同様に、各社の動向を分析しなければ、D2Cの面白さの本質にはたどり着けないと思っています。

そのために、次回以降のnoteで、カオスマップに掲載されているD2Cスタートアップ各社の戦略を攻略していきたいと思います。
ぜ次回もお付き合いくださいませ。

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