僕と拠り所⑥〜淡い〜


さっきから妙な男に追い回されてる…
頭はボサボサ…地味なスーツ姿の痩せ細った男…
試しに立ち止まってみるとそいつは俺の背中に顔をぶつけた…

解離「おっと失礼…どうやら君から何か匂うようだ。何かこう…美しい鱗粉に惑わされるような………でも君じゃない男には興味がなくてね、失礼。」

こいつを千秋から聞いた解離だと理解するのに数秒もかからなかった。

本当に怖いのは怪異や神ではなく人間かもしれない。






千鶴「はっ、ちょうちょ」

千秋「千鶴待ってってば」

河川敷で俺たちは帰り道に少し遠回りをしてのんびりと時間を過ごしていた。

中学3年の夏の出来事。

同学年のみんなからとうとう話もかけられなくなった俺だが、こいつらだけは違う。

木こり「千鶴…そっち川だからあぶな…」

水面に波一つなく立つ千鶴の姿を見て感心する。それと同時に一瞬の悲鳴が聞こえたのちに大きく水面が波を打った。

千秋「ばかぁ〜助けてよ!早く!」

木こり「おい千鶴…運天使えよ。」

千鶴「兄貴から授かったこの命。忘れないぞ!大切にしないと」

ミチオ「仕方ないな…ほら千秋手を」

うわっとミチオまで水面に引きずられた。
忘れてた、千秋は水泳部だった。

木こり「なんでミチオはずぶ濡れるのに千鶴は水の上歩けるんだ?」

千鶴「ミチオは狐、わしは蛇、蛇が故、毛がないし、泳ぎも得意。」

神にも得意不得意ってあるんだなと
2人の笑い声を聞きながら空を見上げると雲ひとつないこの空に幸せを感じた。




木こり「で…なんで俺の部屋に…」

千秋「仕方ないでしょ私の家の方があんたんちより遠いんだから。」

そう手を差し伸べる


千秋「ん。ん。」

木こり「何…」

千秋「ん!ってば」

木こり「はい?」

千秋「着替えだってば!」

木こり「ねぇよ」

千秋「あるでしょ!」

ブラウスから透き通る肌を前に目の行き場を無くして押し問答を続けているとガチャリとドアが開く

ミチオ「いやーやっぱりお風呂は最高だよね。千秋も入ればよかったのに…」

俺はその姿に頭を抱え、千秋は一点を凝視したまま固まっている。
千鶴は連れて帰ってきた蝶を鼻の上に乗せほのぼのと戯れている。

木こり「あのなミチオ…頼むから俺以外の人がいる時は服…身につけてください…」

千秋「2人でいる時は常に裸なの?」

まだ乾ききってない長い髪を振り乱しずいぶん食い気味で来たこの態度にはイラッとする。

木こり「いや…違うんだよこれは…」

ミチオ「お風呂も一緒、上がってから寝るまでは服着ないよね」

木こり「アホなのお前…」

千秋「クッ…………」

木こり「何笑ってんだ気持ち悪い」

千鶴「ほーーー。ちょうちょ」

ミチオ「僕たちのこともっと知って欲しくて…ごめんよ木こり」

千秋「クックク…………」

木こり「ミチオ…誤解を招くからもう話さないでくれ恥ずかしい…」

木こり「お前も隣の部屋に服あるから適当に着ていけよ…」

千秋「ぶっ…わかった…」

木こり「だから笑うなって…」

どんどん普段のミチオとの生活が他人にバレていくことが恥ずかしくなる。
見られたくないというのが本心だ。

千秋「あのね…ミチオ…」

ミチオ「はい?」

千秋「ううん!なんでもない!それじゃまた来るわ!ほら千鶴行くよ!」

そうそそくさと俺の部屋を後にした千秋の顔はなんだか嬉しそうで苦しそうな表情をしていた。

ミチオ「千秋…木こりのお気に入りのパーカー着ていっちゃった。」

木こり「別に良いよ…」

この時青春の甘酸っぱさを覚えた。



次の日、学校でクラスの仲間内同士で肝試しをした話題で話が盛り上がっていた。
あまり興味はないが側で話されると勝手に耳が反応してしまう。
どうやら白百合と友樹だけが最後まで戻らなかったみたいだった。

クラス「あいつら逃げたんじゃね?」
クラス「えーってか2人仲良さそうだったしもしかしたら〜もしかし〜」
クラス「うぇ?そっち系?」

そんな話が上がる中、どうやらその場所は俺の家から1キロほど山へいった溜池だとわかった。

ミチオ「どうする木こり…」

木こり「知らん…」

ミチオ「でも…」

木こり「助ける筋合いはない!」

俺は両手を机に叩きつけ立ち上がると一瞬の静寂が訪れた。

クラス「えっ、何?何?急に叫んだりして、うっわやば、あいつじゃん。まじうざー」

千秋「どうしたの木こり?」

クラス「ちょ千秋…辞めなってば…」

千秋「木こりは2人のこと心配してるんだよ?あんたらと違って。」

俺はその優しさも分からずただ教室から逃げることだけを考えていた。
どうでもいい…あんな奴ら死ぬなら死ねばいいんだ。
たかが2人いなくなったところで、
元からいなかったかのように時間が経てばみんなは元通りになるさ…どうせ悲しむのなんて最初だけだろ。
心からそうであって欲しい、そうなって欲しいと望んでいる自分がいた。

パチン

その音で俺は頬の痛みと共に苛立った心が一気に冷まされた。

ミチオ「そろそろ向き合おうよ。」

信じられない一言に腰を抜かしそうになった。
その彼の態度に反発という言葉で頭の中がいっぱいになる。

木こり「とっくに向き合ってるよ。」

ミチオ「僕がいればそれでいい…確かに…僕も君がいればそれでいいさ…でも…木こりほど優しい人間が…どうでもいいだなんて思うなよ。」

木こり「ミチオ…」

ミチオ「助けに…」

パチン…

差し伸べたミチオの腕を出会ってから初めて弾いた。

ミチオ「え…」


木こり「最近浮かれすぎ…千秋とでも遊んでろよ…もういいよ…分からないなら」

千秋と千鶴も廊下に駆け出し俺らの様子を見て固まった。

木こり「何が…何が拠り所だよ…結局他人の味方かよ…」

ミチオの驚いた表情を背に俺は走ってその場から逃げた。



全力疾走したのちに住宅街の公園のブランコに座って空を見上げる。
そう言えば最近1人になったのっていつだっただろうかと、考えていると、そこには苛立ちや怒りが薄れていることに気づく。

木こり「別に…寂しくなんかない…」

ちっと舌打ちをしながら少し雲のかかった空を見上げて反省する。

千鶴「よっ、主…」

その言葉に驚き隣を見ると千鶴がブランコの手すりをつかみ俺の方を見ながら座っていた。

木こり「なんでお前が…」

千鶴「阿呆…契約したじゃろうに…意識の半分は主の元にある。」

そうだったなと、今まで空を見上げていた頭を重力に身を任せがくりと俯いたのち、両手で抱えた。

千鶴「千秋には場所は伝えてない…安心せい…」

木こり「ああ…」

千鶴「不思議なものだ…昨日まではあんなに熱く抱きしめ合っていたのに、まるで恋人のようじゃ、やきもち…」

木こり「ちげーよ…ってか覗き見するなって。」

千鶴「阿呆、契約したじゃろうに、意識の半分は…」

木こり「わかったって…」

その言葉を聞いて胸が熱くなる。
俺たちはずっと一緒だった。朝起きた時から夜寝る時まで、いじめられて押し倒された時も、先生に名前を呼ばれなかった時も、母親が仕事で帰ってこなかった時も…隣にはあいつがいた…いつも笑って、俺が悲しい表情をする前に抱きしめてくれた。

そんなあいつに俺はなんてことを言ってしまったんだろうと心が痛くなる。

木こり「助けに行ったほうがいいかな…」

千鶴「おーーーー」

木こり「ミチオがいなくたって俺ならできるかな…」

千鶴「おーーーー」


木こり「2人を見つけたらあいつはどんな顔をして驚くだろう。」

そう思うと少しだけ気持ちが高まる。

千鶴「主…それは…恋じゃの…」

木こり「ちげーよ、ってかいつまでいるんだよ…」

ブランコから降りた千鶴が俺の膝の上に乗り視線を合わせてくる

千鶴「ずっと…ずーーーーー」

そう言ってどんどん顔を近づけてくる。
その顔は初めて会ったときの千秋にとても似ていた。

木こり「やめーい!」

千鶴「ちっ」

木こり「やめろ」

千鶴「千秋のこと好きじゃろ」

木こり「だからなんだよ…」

千鶴「千秋はミチオのこと…」

俯き左右に首を振りながら両手の人差し指を合わせたり離したりしている。

木こり「なんでそこでモジモジするんだよ。まぁ、そんなことだろうと思ってたよ。」

千鶴「いいのか。」

木こり「何が」

千鶴「最愛が最愛に取られるぞ」

こういうときの感情はなんと言ったらいいのかわからなくなる。
バケツの中の水が後一滴入ったらこぼれそうだけど、最後の一滴を落とすか落とさないかギリギリのところで止められている…そんなような感情になる。

千鶴「で、主はどっちを取るんじゃ?」

木こり「どっちって…あのな…そんな感情はあっても無駄なの…でもずっと一緒にいれるとしたら…」

千鶴「うんうん」

脳裏で千秋の笑顔が思い浮かぶ。

木こり「いや、そんなのどうでもいい。」

ミチオだミチオだと頭のなかで千秋を消そうとするがそうすればするほど彼女の笑顔が鮮明に浮き出てくる。

千鶴「恋じゃの」

木こり「うるさい…とにかく…とりあえず俺は溜池までいくから、ついてきたきゃそうすればいい。それじゃ…」


ありがとう。俺の気持ちを安堵させてくれた相手に対してのその言葉がどうしても発せなかった。




グオ、グオっとウシガエルが泣く中で笹藪を抜けて見えたのが例のため池だった。

以前ここでは草刈りをしていた町内の人が頭痛を訴えて倒れたり、煉炭自殺者が複数見つかったりと曰く付きの場所だ。
初めて来てみたけど特に何か、誰かがいるわけでもなくそこは静まり返っていた。

木こり「こんな笠藪を無理やり抜けてまでくるような場所かよ」

千鶴「主、頭に蜘蛛の巣ついてる」

木こり「うわ…取れない…」

蜘蛛や芋虫がそこらじゅうで動いているのがわかる。
しばらくその藪を進んでいくと溜池の目の前に出た。

木こり「本当にこんなとこにいるのかよ…蒸し蒸ししてて気持ち悪いな…」

侵入防止の高い柵に手をかけて辺りを見渡すが、大きな水面が空を写し、ところどころに茶色い苔のようなものが浮いていてなんだかとても気持ちが悪い。


木こり「少し周りを歩ってみようか…」

ツンツンと千鶴が俺のワイシャツを引っ張る。

千鶴「主…」

千鶴の指を刺した向こうには人が1人歩けるほどの索道があった。

木こり「もしかして入るとこ間違えた?」

千鶴「かもな…へっ」

木こり「そんなに勝ち誇るな…俺ら間違えてる側だぞ…」

千鶴「主の方が近道。こっちだと遠回り」

そんな話をしながら索道に向かうと、どうやらその道は溜池の横を通って山側に伸びているようだった。

木こり「こっち行ってみよう。」

千鶴「主…なんか変な感じ…」

木こり「どうした?大丈夫?」

大丈夫だけどと千鶴が頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

木こり「おい…どうしたんだよ…千鶴、戻っててもいいんだぞ?」

千鶴「大丈夫…ついていく…」

そのとき、黒板を引っ掻くような不快な音が森の中から聞こえた気がした。

木こり「無理はしない方がいい…お前だけでも…」

千鶴「今、主に何かあったら守れるのは私だけ…しかも…」

俺たちの周りの空気が一気に澱んだ気がした。
風で揺れる木々の音がなくなり、蒸し暑さで汗ばんだ体が震えるほど空気が凍りついた。

木こり「なんだこれ…」

千鶴「私も力が弱い…わからない。」

木こり「心霊スポット感出てきたな…ちょっと先進んでみるか。」


千秋の体を労わりながらも俺は先に進むことにした。
今までとは違う湿り気のある地面をぬかるみながらも進むと先ほどのキリキリと引っ掻くような音が鮮明に聞こえてくる。

木こり「この音…なんの音だろう。」

その音のする方に向かおうとしたとき、悲鳴とも取れる音が俺の左側の藪の中から聞こえた。

?「来るなーーー」

木こり「うわっーーーー」

?「こっちにくるな……」

その藪を恐る恐る手で退けるとブルブルと震えて縮こまる白百合と友樹の姿が見えた。

木こり「あっ、いた…」

友樹「き…木こり…お前の仕業だったか、ふざけるな…俺たちをこんなことに巻き込見やがって…」

俺は深くため息をついた。

木こり「あの…俺は助けにきたんだけど…」

白百合「そうやってまた嘘ついて、私たちのこと…いやーーー」

俺はここにきたことを後悔した。気になってきてみればこんなこと言われて、多分この状況、俺らまで変なことに巻き込まれてると理解できた。

木こり「はぁ…いいから早く帰るぞ…」

そう言って手を伸ばすと、目の前の2人が汚いものを見るかのように俺の腕をパンッと振り払った。

友樹「そんなの信じない…きっと殺す気なんだ」

その言葉と動作に俺の心が深く傷ついた。

ミチオごめんな…俺もこんな顔して言ってしまっただろうか…そう思うと、途端にあいつがそばにいないことに寂しさが込み上げてくる。

木こり「ミチオ…」

キリ、キリ、キリ
耳元でその音がして顔を上げる。



あ、終わったと小声で呟いてしまった。
俺たちの周りをたくさんの人の口のようなものが囲んでいた。
それは向こう側が見えなくなるくらい密集しており、ギリギリと歯軋りをしている。

木こり「なんだこれ…」

俺を敵視した2人は泡を吹いて失神している。
千鶴は頭を抱えながらその場にうずくまってしまった。

ゲラゲラゲラゲラと一斉に周りの異物は笑い出しどんどんこちらに近づいてくる。

心からミチオを望んで赤い球を使おうとしたが俺の左手から糸のようなものが出てこないことに気づく

後悔した。
なぜミチオと来なかったのか…なぜあのとき、素直にミチオの言葉を聞かなかったのか。
なぜ、謝れなかったのか…


怪異「死ね、死ね、死ね、死ね」

ゲラゲラと笑い声に混じって言葉が聞こえる。

俺も覚悟を決めて、千鶴の上に覆い被さった。

こいつだけは守る。


そう思ったとき後ろで何かが破裂する音が聞こえた。

解離「いけませんね…いやーここは酷く居心地が悪い。言霊の塊…むさ苦しくて鬱陶しい。」


そこには朝にぶつかった男が口の塊を両手でこじ開けて立っていた。

解離「ところで君、朝に会ったときの拠り所はどうした。そしてこの香り…君は一体…」

木こり「黙れ!お前は俺たちの友達を」

解離「その言葉はいけません!」

その時、左右の手足がゴリゴリと怪異に噛みつかれ激痛が走った。

解離「不遇…なんと不遇…怪異が蠢いていると来てみれば、貴様、取り殺されるぞ!言霊になんたる侮辱…そのまま払ってれば安易なものの、奴らの前で否定や失語をしてはいけない!」

木こり「えっ」

その時、その怪異の大群に両腕を解かれ千鶴の姿が解離に見えてしまった。
解離は首を傾げ右の瞼だけを開閉させながら叫んだ。


解離「千鶴………なぜ………その男とは契約をしていないはず…それなのに…はっ、力が……弱い?」

俺はグルグリと噛まれる痛みに耐えながら口を開く
木こり「さぁ、なぜだろうね…」

解離「貴様…何か知っているな…何か…千鶴」

解離の手のひらから赤い球が出てくるのがわかった。

木こり「千鶴は渡さない…意識を分割しているんだ…千秋と足立と俺でな…」

解離「小癪な…」

俺の周りに食らいついていた怪異が噛むのをやめ一斉に解離目掛けて飛んで行く。

解離「キリキリキリキリ…耳障りですね…この低俗どもが!」

解離が左胸のポケットから紙切れを出すと怪異は一斉に弾け飛んだ。

解離「んふふ……カハハハハハハ!無駄です…淘汰!これこそが淘汰です!」

その笑い声と共に一瞬の曇り空が見えた。
解離は赤い球を出している…これはと思い俺も出そうとするがその手のひらからは血が流れ出ているだけで何も変化は起こらなかった。
焦っていると、怪異が瞬く間に広がりその空間を埋め尽くそうとしていた。

木こり「こんな時、ミチオがいてくれれば…俺は何もできないんだ…誰も救ったり、守ったりすることもできない…」

解離「わかりません…拠り所を守る理由など…無意味です。しかし、あなたがそうまでして拠り所を隠すなら………契約者に対して心があるということ。すなわち…好意」

木こり「ミチオがいてくれたから生きて来れた。そんな大切な彼を俺は」

気付くと涙がボロボロ溢れていた。

解離「若者の好意は素晴らしい…しかし…今の私からすれば鬱陶しい…千鶴は返してもらいます。それと、あなたはこの怪異と共に粉微塵になるのです…あぁそちらの初々しい2人も」

そういうと、俺の元へ白い紙を解離が投げると、カミソリのように鋭い歯のように真っ直ぐにこちらへ向かってきた。

木こり「ミチオ……ごめんなさい……」

一筋の光が俺の顔を照らした。
あたりの怪異が何かに食い尽くされて行く…
解離の飛ばした髪も一瞬で燃え上がり灰になり地へ落ちる。

?「もう…最初からそういえば良いのに…君のせいで助けにいけないじゃないか…頑固さんだなぁ」

木こり「うっ………ミチオ…ごめん…俺…一番大切なお前に…なんてことしてしまったんだ」

ミチオ「良いから…僕もずっと謝ってた。2人とも謝ったんだし仲直りだよ!」

そこには金の体毛を靡かせ俺を包むあいつの姿があった。

解離「可逆なしに…拠り所を呼びつけた?」

ミチオ「あぁ、ことの流れは全部見させてもらったよ!僕はいつでも木こりと繋がれる。目も鼻も、口も体も全て」

尻尾だけを残したミチオがウインクをしながら口に人差し指を立て解離に話しかける。

解離「王位………貴様一体…」

ミチオ「おっと…喋りすぎだよ!僕はただの狐の神様なのだから…」

その会話の中、ミチオの背中を見ながらふと空を見上げるとそこには雲ひとつない青空が広がっていた。


解離「こんな…おかしい…血筋でもない人間に王位が付く…ありえない…本来ならばあの人間はとっくに死んでるはず…なぜ…それが…現実に…ありえない。」

ミチオ「だーかーらー、あんまり喋らない!だめだよー!君は千鶴も千秋も傷つけたんだ、君が抱えてる50体の拠り所も祠も、そして今度は僕の祠に手を出すつもりかい?」

ミチオは金色の玉を右の手のひらから出す。

解離「天命…これほどまでに美しいとは……わかった…もう手だしはしないさ…君達にも、千鶴にも…」

ミチオ「いや…違うんだよなーーー」

そのミチオの背中を見て俺は解離の下に走った。

木こり「違う…確かにこいつは悪いことをしたのかもしれない。でも、こいつがいなかったら、多分俺は死んでた…でもそれも俺のせいだって思ってる。だからミチオ…殺めるだなんて…そんな酷いことだめだよ…」

俺の後ろで解離は崩れ落ち失禁していた。

木こり「あなたも間違っている。時間が経っている分その拠り所を返せとは言わない。でもその人たちに空いた心の穴をわかって欲しい。」

ミチオ「だめだよ木こり…それは優しすぎる…」

木こり「でも今ではそれを乗り越えて幸せに生きている人だっているかもしれない」

ミチオが手を下げその玉が消えて行くのが見えた。

ミチオ「君は本当に優しいんだね。その優しさに僕は惚れたんだ…大好きだよ木こり」

俺が今度は赤い玉を出し解離の方へと振り向いた。

木こり「あなたがいなければ俺も同級生の2人も助からなかった。本当にありがとう。あなたの拠り所にこの力を使います。」

この言葉を発した時、今までは見えなかった拠り所達が姿を現す。

木こり「もう千鶴や千秋には近寄らないでほしい…近寄らせないでほしい…それと、君たちの祠がまだ困っているのなら戻ってあげれば良い。今更ながら、それでもこの行動は間違ってないと思う。」


そういうと、そろそろとどこかへ去ってしまうものやそこに留まるもの、こちらに頭を下げたのちに消えるものが数多くいた。

解離「やめろ…私の愛が…やめろーーー」

木こり「お前のは愛じゃない…コレクションだよ」


解離「消えるな、いくな…ん?なぜ戻らない……なぜだ…一体何の力が働いている?可逆か?いや…それは違う…これじゃ私の存在意義とは何か…やめてくれ…」

木こり「あなたもその拠り所にありがとうやごめんなさいを伝えれば…そこに信頼があるのなら戻ってくるでしょう。」

解離がなん度も転びながら逃げ出して行く姿を見ながらその場に崩れ落ちた。

ミチオ「大丈夫かい?」

木こり「まずは千鶴を」

千鶴「よっ」

俺の目の前には涙目でグッドサインをしている千鶴がいると認識した途端に身体が暖かくなった。

ミチオ「彼にも木こりにも酷いことをしてしまったね…ごめん。」

そう抱きしめながら話す彼の、一度は弾いてしまった彼の腕をさらに自分の元へと手繰り寄せる。

木こり「悪いのは俺のほうだよ…ごめん」

いつもよりミチオとの距離が近く感じる。
そして彼もまた俺の腕を今まで以上に強く握りしめた。




そのあと俺たちは2人を警察の元へ預けた。




学校にもいつもと変わりない平穏があったが
いつも以上に絡まれる俺がいた。

クラスメイト「木こり、あいつら2人たすけたんだって?」

クラスメイト「やっば、あいつやるじゃん」

こんな会話で賑わっていた。
白百合と友樹が戻ってきてからはクラスのみんなは余計に俺に話しかけてくるようになった。

友樹「あの時はごめん、俺、焦ってて」

木こり「別に…」

白百合「木こり君もみんなと話そう」


木こり「は…い…?」

友樹「みんな木こりがすごい人だってさ本当に助けてくれてありがとう。」


木こり「今更かよ…」



こんな会話が続いたのちに家にあった新聞でとある記事を目撃したことを思い出す。

未成年の行方不明や母親に殺害されるという記事を………

ミチオ「どうしたんだい?そんなしけた顔して…」

木こり「朝見てた新聞って……」

ミチオ「気にすることはないさ。みんなが選んだことなんだから…」


千秋「木こりおはよう!千鶴のことありがとね!あとこれ」

そういうと、千秋が俺のお気に入りのパーカーを投げつけた。

クラスメイト「えっ?なになに千秋。あれ木こりの?」
千秋「そうだよ!」
クラスメイト「えー2人ってさーもしかしーーー」

千秋「違うってば」

その会話の最中の千秋の顔が赤くなりながらも反抗する姿に心を奪われる。

木こり「千秋は、好きなやついるんだよ。」

どうせ最後の中学の思い出だ。
ここは盛大に話してやろうと思った。

クラスメイト「えーまじ?誰誰?木こり教えてよー」

木こり「俺が一番愛している人…この世の誰よりもこいつは俺のそばにいてくれていつも笑ってくれる。」

クラスメイト「キャーーー」

千秋「あのね…木こり…」

さらに千秋の顔が赤くなる。

千秋「それだと勘違いされるでしょーが!」

木こり「やっぱりミチオか!」

クラスメイト「ミチオくん?」

ミチオ「はい?」

千秋「もうやめてってばー」

千鶴「おーーーーーー」

無論、ミチオや千鶴の声はクラスの彼女等には聞こえていない。
聞こえてはいないが、ちゃんとここに今こうして存在していることをわかって欲しいと思った。
誰しもみんな大切な人を胸に生きているのだから。
そして俺の初恋は中3の夏に儚く散ったのであった。

俺のお気に入りのパーカーからはほのかに甘い香りが鼻腔を刺激して切なく感じた。

結局のところ解離から離れた拠り所のその後は知る由もない。
ただ、同時多発的に行方不明が出たのは不思議に思う。
これは本当に拠り所の力なのだろうか。
あの時の自分の行動には賞賛しているが深く反省もしている。
なぜならミチオはみんなが選んだと言っていたから。

もしかしたら拠り所と祠の関係は俺が考えている以上にもっと恐ろしいことなのかもしれない。

次回僕と拠り所高校編

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?