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僕と拠り所〜百折不撓〜
今まではあんなに賑わっていた部室も口数が減ってしまった。
順先生と周健先輩が亡くなって1週間が経った。
同じ階の廊下をバタバタと走る音がだんだんと近づいていることがわかった。
高嶺「はぁ、はぁ、はぁ…ごめんなさい…遅刻しちゃいました…」
息を切らしながら部室のドアを勢いよく開けた高嶺が俺たちとは違う制服で現れた。
高嶺は俺たちの高校とは別なのでそちらは学生服のデザインが違うものだった。。
直人「あっ高嶺……先輩…」
姫花「お疲れ様でございます。皆、お待ちしておりましたよ。」
姫乃「恭子ちゃん!まじ?めっさ可愛い!」
姫花「皆様方も個人の思い思いでこちらに集まっておりますので、汚い部室ではございますが、そちらにお掛けになってください。」
出流「あの…その節はありがとうございました。」
俺のその言葉に高嶺が肩を振るわせどこか寂しそうな顔をしている。
直人「おい…出流…まだ…駄目だって…」
彼女にありがとうと言う言葉はとても重くのしかかったのであろうと、その時は考えもせず言葉を選ぶことはできなかった。
その時、俺の横にいたミチオが後ろから優しく抱きしめてくれた。
ミチオ「大丈夫。今はこれでいいんだ…大丈夫」
相変わらずの暖かさに、俺はいつも通り甘えてしまう。
茂庭「恭子。いらっしゃい。あったかいお茶でも飲むかい?」
そう言いながら茶葉が入った急須の蓋を開けてポットの方へ向かう。
高嶺「良いの…も…一葉…気にしないで…」
また高嶺は顔をすくめる。そしてまた、部室に沈黙が走る。
茂庭「そっか…それじゃ…お墓参りに行こう…」
俺含めて全員がその場を立ち上がり、一斉に部屋から出る。その時、千秋が俺の腕を掴んだまま並走する。
千秋「あれからね…私も考えてみたの…」
出流「何を?」
千秋「いや…結局…私たちなんか手も足も出なかったでしょ?出流とミチオがこの世界を作ったんだよね?だったら、2人がこんな目に合わなくても良いように変えられたんじゃないかなと思って…」
ミチオ「そんな…これは茂庭一葉が改変に関わっているから、僕たちだけの問題じゃないさ。」
千秋「分かってる…分かってるけどさ…」
千秋が木漏れ日から照らされた校舎の窓の影に入った時に眉を顰めた。
千秋「これって私たちの存在は意味がないってこと?」
出流「千秋?」
千秋が立ち止まり声を上げるとみんながその声に振り向いた。
千秋「だってそうでしょ!みんな自分の想いがあって生きてるんだよ?嬉しかったり、悲しかったり、それを箱から溢れるゴミのように私たちの世界は沢山あって、そこに同じ私たちがいて…だったら今、笑ってる私たちもいるんだよね?何で?分からない…私…もう頭の中がぐちゃぐちゃで…だったらまた、変えれば良いじゃん!みんなが傷つかない世界に…」
ミチオ「もうやめよう…」
出流「ミチオ…」
直人「確かに、千秋の言ってること間違ってないな」
姫乃「私もそう思うかも…」
姫花「でも今、現実が変わっていないということは、何か複雑なことがあるのでしょう。」
出流「ミチオ?どうなの?」
ミチオが少し悲しそうな顔をして俺から目を背けた。
ミチオ「僕にだって代償はあるさ…とにかく、この世界は変えられない…この時を進めるのが、僕たちの生き方だと僕は思う。」
茂庭「ミチオ…本当にすまない…僕のせいで、みんなを傷つけてしまって…」
ミチオ「良いんだ…早く2人の元に行ってあげよう。」
茂庭はどこか遠い瞳で俺たちを見つめた。
大きなお寺の門を潜り、2人が眠る場所に辿り着く。
茂庭が指を刺す前には石碑の前に無縁仏と書かれている。
直人、姫花、千秋はその場で倒れ込み嗚咽を吐きながら大粒の涙を溢した。
直人「周健…ちくしょう…」
姫花「何で…どうしてですの…あんなに元気で幸せそうだったのに」
千秋「順先生…何で…」
タバコをふかしながらいつからいたであろうかみつきが言った。
みつき「こうやって、過去問未来も紡がれてきた。世の中にある神隠しで起こる消息不明…または蒸発…多元宇宙において彼らは別次元の彼らに吸収された。行方不明者の遺体がなぜ見つからないのか…疑問に思ったことはある?今まで数十万、いや…数百万にも及ぶ……通常の人間が誤って新域に足を踏み入れた時、意図してそこに行った時…または神と契約していた時…理由は様々だがな…今回この2人は護神会で厳重なる保護の上、丁重につかみたてもうしまつりあげた。2度とこんなことは起こさないでほしい。でも…私からも礼を言うよ…ありがとう。出流、ミチオ。」
俺はことの重大さと言うものに気付けず、ただただ周健先輩と順先生とはもう会えないんだと言う思いで泣いた。
茂庭「みつき…ありがとう…」
みつきがもにわの方へと歩き出し、涙を溢しながら彼の頬に力一杯の平手打ちをした。
みつき「なぜあの時…私を呼ばなかった!」
その頬を抑えることなく、茂庭はみつきから目を逸らした。
茂庭「ごめん…僕なら…」
もう一度、みつきは同じ側の茂庭頬を平手打ちする。
みつき「お前は弱い…神でもない人間が自惚れるな!彼の能力…全適応…青天の霹靂の力の意味はわかっているよなぁ!」
茂庭「もちろん…僕だって……僕だって」
千秋「もうやめてよ!!!」
胸ぐらを掴みまた殴ろうとするみつきの腕は止まり茂庭も涙を溢して閉じた目を見開いた。
千秋「いい加減にしてよ…茂庭先輩はあの2人を助けたくてこの世界を望んだんでしょ?まさか、こんなことになるなんて何て、言わせないんだから…出流!ミチオ!あんたたちもそう…この時間を変えられないのなら………………変えられないのなら……みんなでお供えしたり、拝もうよ……ねぇ…私の言ってること…何かおかしいかな……2人が1番辛い中で、私たちがこうやって1番辛いフリして泣くの…おかしいかな…」
これまでにはないほど千秋は涙を流しながら本当は1番何もできないことを知っていながらも、茂庭とみつきを静止する。
姫乃「同感…ねぇあんたらさぁ…あっちの世界ではどうだったのかしらねぇけど…こっちの世界では責任ってのが発生してんだよ。分かる?責任!出流っちとミッチーも一緒な?分かる?」
出流「俺は記憶がない…正直、俺は千秋や姫乃さん側の人間だ…でもミチオが関わっている以上…俺も悪いと思ってる。なぁミチオ…帰ったらその話、詳しく聞かせてよ…」
ミチオはギリっと歯軋りをしながら、金色の耳や尻尾を出し、俺を睨んだ。
出流「ミチオ…?」
ミチオ「話を聞いてれば、全部自分自分自分自分。だから人間は嫌いなんだ…出流だけ…出流だけが僕にとっては大切な存在なのに………悲しいのは全部自分の感情だろうが…」
その時…ミチオの頭にバジャーっと大量の水がかけられた。
八咫「そんな熱くなるなよ…王位…」
一同は騒然した。
目の前に現れたのは八咫上だった。
ミチオ「冷た…」
八咫「まず最初に言っておく…俺は戦う気がない…そして、彼らが納棺されたその直後から俺は墓参りに来ている…カミツカミとしてあり得ないことをしてしまった…本当に申し訳ないと思っている。」
そう言いながら無縁仏の前で膝をつき頭を地面につけて悲しげな表情を浮かべている。
直人「おい…お前…」
姫子「姫花様!離れて!」
八咫は頭を地面につけたまま微動だにしない。
八咫「俺は今、拝みにに来ているんだ…そう歯を立てるな人神よ…」
無縁仏に刻まれた文字がかすかに震えながら細い光を放ちそれが天へと昇っていく。
茂庭「上…」
八咫「時間くらいずらしてこいよ…会いたくなかったのに…」
恭子「上…」
八咫「よっ!元気か?」
茂庭はあの時にかけられた言葉を思い出して八咫に近づくとその姿は消えた。
茂庭「何やってんだよ…」
茂庭が地面に崩れ落ちる。
茂庭「せめて俺の嫌いなお前でいてくれよ…何やってるんだよ…」
千秋の後ろから千鶴が歩き出し茂庭の横にしゃがみ込みながら言った。
千鶴「あんずるな…我も彼に殺された…スサノオにな…それから崇められ神となったが、我が護るのは疫災…かつては振り撒く存在じゃったのじゃが…今ではそれを鎮める神になっておる。まぁ、信仰心は失われとるがな!其方も元気だせい!こうして良き友に囲まれてる。何も恐れることはない。安心してお前の仲間とやらを見届けるが良い!」
出流「千秋?千鶴の姿が!」
千鶴の頬についていた鱗が剥がれ、少し大きくなる。
ミチオ「え?お風呂じゃないの?」
千秋「千鶴?えっ?また大きくなってる?」
出流「いや、わかんねーの?あからさまだろ?」
ふくよかな身体に美しい顔立ち、白銀の髪を靡かせた千秋にそっくりな千鶴が茂庭を支えていた。
茂庭「君は……」
千鶴「安心せい…今はこの時でいいのじゃ…」
茂庭は想いに身を任せて泣き続けた。
千鶴「それでいいのじゃ…主らはまだ18…この時にこの時代に生まれてきたのだから気持ちが昂るのも無理はない…今までにない、辛い辛い青春もあると言うことじゃ…」
千鶴が茂庭を宥めながら頭を撫で、俺の方を見つめた。
千鶴「別に…こやつのことを好いているわけじゃないのじゃ。安心せい!」
出流「お前は何を…まぁ…ハァ〜…まぁ皆んなと出会えたんだ…俺はこの人生に後悔はしてない!ミチオがそばにいてくれるしそれに…この人も」
俺は胸元の暑く少し濡れた銀の首飾りを握りながら言った。
皆、思い思いにこの世を去った2人に想いを告げると、少しみんなに笑顔が戻った。
茂庭「ありがとう…元気で…」
恭子「お元気で…」
直人「〜〜〜っしゃ…辛いのはもう終わり!いや…本当はまだ浮く止めきれてないけど…俺らが前を向かなきゃ、こいつらが悲しんじまうからな!」
姫乃「や〜んなおたんかっこいい〜」
姫花「おやすみ下さい…お元気で…お過ごし下さい。」
姫子「お二人のことは忘れません。」
出流「俺たちがこれから歩んでく道は」
千秋「お二人も一緒です。」
ミチオ「どうか安らかに…」
千鶴「別の世界線とやらでまた会おう!」
たくさんの花束とお菓子や飲み物に囲まれていた地蔵がゆっくりと細めていた目を閉じた気がした。
一閃の風と友に俺たちは歩き出し、夕暮れ時の部室へと戻ることにした。
出流「おっととと…」
石段をつまずき転びそうになった俺をミチオが抑えてくれた。
ミチオ「大丈夫?ちょっと風が強くなってきたね!」
出流「大丈夫!ありがとう!ミチオ!」
直人「出流気をつけろよ!寺で転ぶと良くないことが起こるらしいぞ!」
姫花「えっ…そうなの!」
直人「そそ!だから気をつけな!」
その様子を遠巻きのはるか高い位置から見つめる2人の少年がいた。
?「フフフ…楽しいね!」
??「人をいきなり鉄塔の上に連れてきてお前は何を笑ってるんだよ…」
?「何って…あの2人さ!」
??「あん…?誰あれ…」
?「ミチオだよ!」
??「ミチオ?どっかで聞いたことあるような…ないような…誰?」
金色の髪を靡かせ送電線から彼らを見下ろしながら微笑む。
?「フフフ!僕の兄さんだよ!」
??「あっ!そういや前に言ってたよね!そうか!そう言うことか!」
?「フフフ…そうだよ…僕たちと同じ王位だ。」
??「なら…ぶっ殺さねぇとな!」
?「まぁ…後々に会うことになるさ。」
??「なーんだ…つまんねーの…」
次回、王位開戦編
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