液状化対策の難しさ

一年前くらいから、訳あって戸建て住宅の事前液状化対策に関する施策について検討を開始した。

まず、液状化という事象について
液状化とはその名の通り、液状になることであるから、広範な影響範囲を連想する

この液状化というものを戸建て住宅単位で事前対策する、そんなことは可能なのだろうか。
検討の話をもらった最初からその違和感は感じていた。

国土交通省では東日本大震災以降、市街地単位の液状化対策の運用を推進している。
街区単位、戸建ての土地も道路も丸っと対策してしまおうという考えである。
これは液状で広範に及ぶと想定される地盤の問題を根絶やしにするには効果的と考えられられる。

実際、東日本大震災以降液状化した土地でこのスキームを利用した対策が実施された区市町村もある。しかし、こうした対策は全戸の同意を踏む必要があるので、想定よりも合意形成が困難であるという回答を学識者から得られる。

さて、そんな背景の下、戸建て単位の事前液状化対策の推進を始めようという計画だ。
いつだって行政の施策というのは気まぐれな感じで始まる。そこで技術的検討を担ってほしい、民間の技術というのはいつも受動的である。
しかし、この検討は液状化の事前対策の成果を占うものであるから、「誰が最初に言った」とかはなし。常に問題提起はなる早で、解決する人は別の人でもいいのだから。

わたし自身、地盤の問題はいつも答えが一つでないことから、慎重に検討する必要があると思ってる。その中でも液状化はどの程度被害が生じるか、想像しづらいため、そのリスクを適切にコミュニケーションしながら伝える、ある種コミュニケーションの問題である、最初からそう思っていた、節がある。

地盤の問題には、「この荷重ならこの地盤で耐えられます」といえるものもある。そのために地盤調査をやるのである。液状化についても幸い「液状化しやすい地盤」ということは調査をすればわかるまで技術は発展してきた。こう考えるとものすごいことである。一見地中で目に見えない事象が、地中の土を採取して試験をすれば液状化するかどうか判定できる、実はこの手法にも工学的割り切りが介入している。
しかしこの工学的割り切りはこれまで東日本大震災などでも一定の再現性を有していることから、実務の世界では存在感を放っている。

問題はそうした工学的手法も存分に利用しながら、最終的に建築主にどうコミュニケーションしていく、やはり、コミュニケーションの問題、といえる。

これは医師が患者を治すインフォームドコンセントの概念と類似して業界では示されることがある。医師は患者を治したい、患者も当然病を治したい、双方は同じ目標を共有している。が、医師の目標を達成する方法と患者の目標を達成する方法は、手を取るまでは一致しているとは限らない。
ここで患者は医師に身体を預けて医師が全面的に方法を選択する、という構図になる。そのことから、医師は患者に対して戦略を100%説明するのである。患者がその戦略に頷くことができればペア結成、ということになる。

戸建て住宅の液状化対策に置き換えてみると、
医師は建築士・地盤技術者、患者は建築主・工務店(建売の場合)、などということになる。
医師が患者の腹を切るのと同様に、我々は地盤の中を視る必要がある。切る場合もあれば切らないで判断することもある。切ったからわかることがある。
腹を切ったらガンの巣が見つかれば、それを根絶やしにするだろう。同じように地盤でも悪性の地盤が見つかれば、それを処置する。
地盤の場合は、それらの場所を選ばない、という選択肢も時にはある。ここが人間を相手にした医者が尊敬される職業である理由の一つでもあるだろう。逃げようがないのに答えを出すのが医師、そこには絶対的な尊厳を求める。

一方地盤技術者の場合はそこまでしなくても良い。どうしても対策する道が見つからないのなら避けてしまえばいい。しかし、一般に地盤であっても、回避できない背景がある場合もある。すでに工事計画が決まっている、土地を購入してしまっている、等である。やっぱり、地盤もその中で正常に還元することが求められる。

戸建て住宅の地盤調査をやって悪性の地盤と筆者が考えるのは以下である。
・自沈地盤
・固化しない有機質土など
・緩い砂地盤(液状化層)
・複雑な埋土地盤(埋め立て)

これら以外であれば、おおよそ設計への流れは容易だろう。
他にも支持地盤の傾斜など、工学的な配慮が必要な場合もあるが、一般にそれらは地盤調査を精度良く実施すれば顕在化し、対策も立てやすい。

しかし、上記4つの場合は、建築物の重量によって、改変が必要になる場合がある。
日本のローカルソイル、微地形(地形的要因により堆積した表層地盤の違い)などはやはり前提としてよく確認しておく必要がある。
皆さんは、東京低地(東京東部)の由来をご存知だろうか。

今日はこのくらいにしておくこととする。

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