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問題集ではありません『みんなの日本語』

その昔、日本語学校の専任をしていたころ、ある新人講師の方が講師室で「練習Bを解くときには~」と言ったのを聞いたとき、教務主任と目があいました。そして、大きく深呼吸をしたので、二人とも声を荒げずにすみましたが、そうでなかったら「練習B解いてどうすんねん!」と詰め寄ってしまっていたかもしれません。

『みんなの日本語』は日本語を使えるようになるためのテキストです。Next Stageなどの問題集で受験勉強をした人には、(1)(2)と文が並んでいれば、正しい形にして(  )の中に入れればOKという癖がついているかもしれませんが、似ているように見えて全然違うものだと肝に銘じる必要があります。例えば、問題集なら、試験のときに正しい答えが選べるようになるために勉強しているわけですから

"What did you do last night?"
"I watched TV,practiced the piano,and (       )my homework."
 1  did    2  have done   3  would do   4  do

『Next Stage 英文法・語法問題 4th edition』瓜生豊 篠田重晃 桐原書店2014 

という問題に1番と答えられればOK,なぜ1番になるかわかっていればいいわけです。
ところが、『みんなの日本語』の

例)今晩→今晩 何を しますか。・・・うちで 宿題を します。それから CDを 聞きます。

2)来週の土曜日

6課 練習B6(2)

これに絵を見て、「来週の土曜日、IMCで働きます。そして、日本語を勉強します。」と答えられたとしても、それが始まりです。

ある人が、今週の土曜日は休日出勤した。自分は来週の土曜日はゆっくり休むつもり。一緒に休日出勤した同僚に「来週の土曜日、何をしますか」と聞いた。
そして、それを聞かれたときに学習者さんが上記のように答えられるようになるのが目標です。

ですから、絵はあくまでサンプルで、「何をしますか」という質問に、その学習者さんが言う可能性がある答えができるようにならなければ意味がありません。「朝から晩まで勉強します」でもいいし、「友達と買い物します」でもいいです。正解にしばられる必要はありません。

じゃあ、サンプルはいらないのでは?
言葉は自分のことを話すだけではありません。周りの人のことを話すこともあるし、聞くこともあります。今、仕事はしていないけど、「働く」という単語は覚えたほうがいいし、覚えるには使った方がいいです。ですから、教科書は自分の身の回りだけでは狭くなってしまう世界を広くしたり、覚える手助けになっていると思います。

ポイントは3つ。
1.問題集ではないので、正解がだせるだけでは意味がない。
2.問題集ではないので、答えを絞らなくてもいい。
3.問題集ではないので、唐突な質問は要注意。

3について補足すると、先ほど言ったように、「来週の土曜日 何をしますか」と聞くということは、今週かなわなかったから来週のことを聞くとか、 土曜日に頼みごとがあるとか、土曜日に誘いたいことがあるとか、何か理由があるはずです。何もないのに聞くのは、尋問かストーカー?ですから、その質問をするシチュエーションを例示したほうがいいです。1度例示しておけば、教科書の無味乾燥に見える字面も、なんとなくそれが発せられる場面をイメージしながら読むことができます。

ちなみに、上記の会話を再現するとしたら、

(今日は土曜日です。AさんとBさんは一緒に7:00から13:00まで働きました。)
A:ああ、終わりましたね。来週の土曜日、私は昼まで寝ます。Bさんは来週の土曜日、何をしますか。
B:私はIMCで働きます。それから、日本語を勉強します。
A:ええ!来週も?大変ですね。

こんな感じになるといいのではないでしょうか。

とにかく、「練習」を解いたり、「練習」を解説したりするのは違うと思います。もちろん、海外には試験のために日本語を勉強する方もいらっしゃいますから、その方がそういう使い方をするのは問題ありません。ただ困るのは、『みんなの日本語』を問題集のように使って勉強してきた方がそのまま続きを日本の日本語学校でやるとなると、どうしても教科書から外れた会話は脇道にそれたととらえられがちです。学習者さんが勉強していない気分になってしまうので、話しながら学ぶ学習スタイルに変えるのはちょっと苦労します。その苦労をするくらいなら、テキストを変えたほうが簡単かもしれません。同じようにチームで教える場合、問題集方式で教える方がいらっしゃると学習者の口が重くなってしまうときがありますから、どんな風に教えるかはチームで話し合ってから進めたほうがいいと思います。

練習の文の1つ1つにシチュエーションがあり、それを発するに一番いい時が来たときに、ちゃんとそれが言えるように。
それを念頭において授業を組み立てるよう考えるといいと思います。

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