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夏の夜の奇妙なお話 ~お前は、お前はいったい誰なんだ……?~
それは昨年の、蒸し暑い夜のこと。
私は軽い気持ちで買い物にでかけた。
その日、午前中に接種したコロナワクチンの副反応のせいだろうか、どうも体は熱っぽい気がする。
スーパーに入ると、流れ出てきた店内の冷気が心地いい。
「そうだ、こんなときは冷たいものでも買おう」
熱っぽい体を少しでも冷ましたくて、少しでも楽になりたくて、店内の奥にあるアイスコーナーへと足を向ける。
そして、迷うことなくお気に入りの ”いつものこいつ” をカゴに入れる。
そう、それでいい。
”いつものこいつ” なら、この体の火照りを鎮めてくれるだろう。
”いつものこいつ”、すなわち、みんな大好きあずきバーだ。
個人的な統計によると、日本人の8割があずきバーに好意的であるという。
さらに、自分へのご褒美、仕事で疲れたとき、大好きなあの子にフラれたときだけでなく、保冷材や緩衝材としても使うことができる。
まさに、アイス界の王。
これまで、われわれ人類の進化に多大なる影響をもたらしたことが安易に想像できる。
そんなアイスの鑑とも言えるあずきバーを買い物カゴに納め、ふらつく体を奮い立たせてレジに向かった。
レジのおばちゃんと目が合う。
その目は少しだけ艶を含んでいたが、おそらく、あずきバーを会計に持ち込んだ私に敬意を表していたのだろう。
あずきバー、なんて罪なアイスであろうか。
そんなことを考えながら、袋詰めへ。
異変に気づいたのは、その時だった!
「こ、こ、こいつはあずきバーじゃない……」
あのとき、確かにいつもどおり、あずきバーを手にしたはずだ!
熱っぽいからと言って、そんなミスを犯すはずがない。(たぶん)
そう、あずきバーを取り違えることなんて、あるはずがないのだ。
あずきバーを取り違えるなんて……いい大人が情けない。
しかし、そこに得意げな顔で居るのは、誰だ?
緑色の箱をしている、お前はいったい誰なんだ!?
……お前は宇治金時!
いつの間に。
レジのおばちゃんは、なぜあのとき、言ってくれなかったのだろう。
「それ、宇治金時ですよ。正気ですか?」と。
いや、レジのおばちゃん、共犯かもしれない。
もしかしたら、会計時にすり替えられたのかもしれない。
返品するにも、もう体力が残っていない……無念。
悔しいが、ここは
あずきバーへの未練を断ち切りつつ、私は平静を装いながら帰宅した。
その後の事はほとんど覚えていない。
どこをどう通って帰り着いたのか、宇治金時を冷凍庫に入れたのか、何一つ当時のことを記すものもない。
確かなことは、宇治金時バーはそんなに美味しくなかったということだけである……(完食したけど)
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