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ノルウェー・スタバンゲルで23体のゴームリーを探せ

スタバンゲルの町を歩いていると時々出くわす赤錆びた人型彫刻。

やけにあちこちにあるぞと気づいてはいたのですが、最近になって、イギリスの著名な彫刻家であるアントニー・ゴームリーの作品だとわかりました。

ゴームリーは、自身の人型像を世界各地の空間に展示する、独創的な作品で知られる現代彫刻家。

スタバンゲルには、なんと23体もの彫像が街に点在しているのです。

出典: Broken Column, Stavanger Kunstmuseum, https://stavanger-guide.no/brokencolumn/map.pdf

アートプロジェクト「Broken Column」

一連の作品は「Broken Column」(壊れた柱)と呼ばれる2003年に作られたインスタレーションで、ある法則のもとに配置されました。

まず、彫刻はゴームリー自身の人型から作られているので、どれも同じ形、同じ鉄鋼素材、同じ大きさ。

次に、高さ195cmの彫刻は、0番目から22番目まで、順々に195cmずつ高くなっていくように配置されています。(0番目の頭頂の高さと1番目の足裏の高さが同じになる)。

そして、彫刻の向きも全て同じなので、23体をつなげると一本の柱になるというコンセプト。

出典: Broken Column, Stavanger Kunstmuseum, https://stavanger-guide.no/brokencolumn/map.pdf

計算された等高線上のどこに設置するか、そこには作者の深い意図が隠されているはずです。

それを探るべく、街に配置されたゴームリー探しをやってみることにしました。

「壊れた柱」散策マップ と丁寧な解説Webサイトがあるので、それらを見ながらウォーキングプランを立ててみたのですが、ひとつ問題が。

見ることのできない彫像がある。

いくつかの作品は、簡単にアクセスできない場所に配置されているのです。ひとまず、屋外散歩で探せる作品に狙いを定めて歩いてみました。

街の中心に立つゴームリー

彫像#01 スタバンゲルの表玄関 Vågen 湾の突端に立つ。クルーズ船が泊まる湾なので、観光客が最も通る場所。海を望むこの角度がすべての彫像の角度の基準に。
#1 を逆の角度から。彫像に注目する観光客は少ない。
彫像#05 カフェが集まるダウンタウンの広場。目の前の建物は映画館&図書館
彫像14 スタバンゲル博物館の前に立つ。街の歴史的博物館や劇場が立ち並ぶエリアに違和感なく佇む。

歴史に立つゴームリー

彫像#06 国の重要文化財、12世紀に建てられたスタバンゲル大聖堂前の広場に立つ。教会の敷地に建てる計画は遺産委員会より却下された。墓地跡だったらしく、彫刻設置のため掘られた地面から人骨が見つかったとか。(解説サイト参照
彫像#07 スタバンゲルの有名人が何人も埋葬される墓地を橋から望む。生と死をテーマとして配置したかったゴームリーは墓地内に設置を希望したが教会より却下される。長い議論の末に決まったのがこの位置だった。(解説サイト参照)

生活に溶け込むゴームリー

彫像#04 街中の地下駐車場の階段に突如現れる。暗く冷たい空間なので多くの人を驚かしてきた(解説サイト参照
#04 を正面から。壁にちゃんと解説がついている。彫像に一番落書きが多かったのもここ。
彫像#03 ダウンタウンの陶器屋さんの中に立つ。店内で陶器クラスも開催されるようで、ゴームリー像はまるでスタッフの一員。
彫像#16 交通量の多い交差点近く。電動スクーターや駐車する車に並んで立っている(少し埋もれている)。
彫像#20 住宅地の中にある幼稚園の園庭。砂場に立って子供たちを見守っている。
彫像#21 幹線道路と住宅地の間の散歩道に立つ。近所の人しか通らないマイナーな散歩道にひっそり立っている。
彫像#09 スイミングプールの観客席に立つ。ここは訪れていないので、写真は解説サイトより拝借。(https://www.brokencolumn.no/page/09-stavanger-sv%C3%B8mmehall)

プライベートに入り込むゴームリー

彫像#13 民家の居間の中に立つ。誰かの住まいで入れないので、写真は解説サイトより拝借。(https://www.brokencolumn.no/page/13-hetlandsgata-53)  
彫像#17 歴史ある中学校の図書館に立つ。以前は教室の中に立っており、生徒と一緒に授業を受けていた。学校は入れないので、写真は解説サイトより拝借。(https://www.brokencolumn.no/page/17-st-svithun-skole)
彫像#10 地方裁判所の階段に立つ。建物内は自由に入れないので、写真は解説サイトより拝借。(https://www.brokencolumn.no/page/10-stavanger-tinghus)

存在を消したゴームリー

彫像#15 幹線道路脇の狭い歩道の茂みに埋もれて立つ。見つけるのに一番苦労したのがこれ。気づかずに何度も通り過ぎてしまい、ゆっくり歩いてようやく存在に気づきました。
#15 のズーム。茂みをもう少し整えるなりして彫刻をもっと見えるようにしてほしいけど、おそらく放置されている。でも、歩いてて初めて人型に気づいたら怖いかもしれない。

柱の底面と頂上のゴームリー

彫像#00 海に体の大部分を沈めて立つ。柱の最低部、基礎となる存在。スタバンゲルの街は海と共に生活し、繁栄してきた。この場所はボートでしか行けないため、写真は解説サイトから拝借。(出典: https://www.brokencolumn.no/page/00-natvig-minde)
彫像#22 スタバンゲル美術館のアートギャラリーに立つ。柱の最上部でもあり、Broken Column プロジェクトで最初 (1999年)に設置された彫像でもある。

ゴームリー彫像づくしの探索を終えて

地図を見ながらゴームリーを探して歩くのは、まるでポケモンGoをしているような、宝探し的なわくわく感がありました。

観光客が集まるメジャーな場所から、住人しか通らないマイナーな場所まで、様々な街の姿を発見しながら歩けるので、スタバンゲルの町散策としてかなりおすすめです。

そして、ゴームリー彫刻群が、町の空間の中で、歴史・人々・自然と相互作用する様子を鑑賞するアートとしての面白さも。

静かに佇む錆びた人型と街空間との関係は、人によって、またその時々の自分や社会の環境によって感じ方は違うだろうし、時と共に変わっていくものだろうとも思います。インスタレーションとしての面白さがたくさん詰まったアートプロジェクトだと思いました。

余談ですが、ゴームリーは彼の代表的プロジェクト、「Another Place」を1998年にスタバンゲルのSola Beach で行いました。彼の人型彫刻が100体も海に佇むインスタレーションは大成功を納めたようです。その成功が、街がスポンサーとなった Broken Column プロジェクトに繋がりました。

出典: Antony Gormley, Another Place, Stavanger, Norway7 June–7 September 1998 (https://www.antonygormley.com/works/exhibitions/another-place-stavanger)

さらに余談ですが、ゴームリーの彫刻は、私の出身県、大分県国東半島の山頂にも佇んでいます。遠く離れた日本の故郷とスタバンゲルがゴームリー像で繋がり、個人的に嬉しさを感じています。

出典: 「ゴームリーから島袋道浩まで、国東半島でアートを巡る」、美術手帖、2021.4.27 (https://bijutsutecho.com/magazine/insight/23846)

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