文章が苦手な人でも「つかみ」が書けるようになる「要素出し」のコツとは?


こんにちは、ライターの杉山です。

先日出版した『文章はつかみで9割決まる』では、

文章のつかみを考える時の基本的なステップとして、次の5つを挙げました。

  1. 目的をはっきりさせる

  2. 要素を出して、何を書くか・書かないかを決める

  3. プロットをつくり、「つかみ」を考える

  4. 文章を書きながら、「つかみ」を考える

  5. 推敲して、「つかみ」を磨く

このうち、意外と行き詰まるのは、2の「要素出し」かもしれません。

本では、「まだどの要素が『つかみ』になるかはわからないので、ひとまず要素を出せるだけ出してみましょう」と書きましたが、
文章に苦手意識を持っている人は
「どうすれば、出せるだけ出せるのか分からない」と思ってしまうかも…?

そんな人は、次の2ステップでおこなうと良いですよ、というお話です。
1.5W1Hを書き出す
2.それぞれの要素を思いつくだけ深掘りする

「5W1H」を思いつくだけ深掘りする

1の「5W1H」は、文章を構成する基本的な要素。「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰が(Who)」「何を(What)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」でおなじみですよね。

たとえば、本でも題材に使った「函館でやきとり弁当を食べた」経験を、5W1Hで表現すると次のようになります。

・夏休みに(When)
・函館旅行で行ったローカルコンビニ「ハセガワストア」で(Where)
・私と家族が(Who)
・「やきとり弁当」という名物を(What)
・買って食べた(How)

これだけの情報だと、面白いつかみは作りづらいですよね。
そこで一歩進んで、2の「それぞれの要素を思いつくだけ深掘りする」をしてみましょう。

たとえば、「やきとり弁当という食べ物を(What)」を深掘りしてみます。

・一言でいうと→「やきとり」だけど、豚串が乗ったのり弁当。函館では「やきとり」というと豚串のことを言う
・見た目(視覚)
→プラスチック容器に入ったのり弁に、焼き立ての豚串が4~5本乗っているだけのシンプルさ。四角くカットされた豚肉と長ネギがジューシーに焼き上がっている。旨辛味はコチュジャンがたっぷりついていて、見るからに辛そう
・味(味覚)
→タレ、塩、塩ダレ、旨辛、みそダレの5種類がある。塩味は塩・コショウの他、にんにくが少し効いていて、しつこくないがパンチがある。旨辛味はコチュジャンの辛さが舌にピリピリ来るが、ほんのり甘みもあり、あとを引く
・食感や触った感じ(触覚)
→かぶりつくと豚の脂がほどよく口の中に広がる。焦げ目がほどよくついている
・香り(嗅覚)
→フタを開けると、豚肉の香ばしさがぶわっと鼻に入ってくる。
・値段
→500円程度とリーズナブル
・その他の特徴→函館出身のロックバンドGLAYが絶賛
・その他の特徴
→函館を舞台にした映画「居酒屋兆治」で高倉健さんが焼いていた

また「買って食べた(How)」も深掘りしてみましょう。「What」とカブるものはのぞいています。

・見た目(視覚)→店はオープンキッチンになっていて、スタッフが豚串を焼く一部始終が見られる
香り(嗅覚)→店内は豚串の焼いた香りが漂っていて、食欲をそそる
音(聴覚)→煙を上げてジュージューと焼く音がはっきり聞こえてきて、耳からも食欲をそそる。
・買ったときの気持ち→焼き上がりまで10-20分待たされて、最初は長いと思ったが、食べてからは「これぐらい待っても良い」と思えるようになった
・食べたときの気持ち→焼き立ての豚串をかぶりつくと、ほどよい脂と旨味が口の中に広がる。シンプルだけど飽きが来ない。味付けがしつこくないが濃い目ので、ご飯にもよく合う。コストパフォーマンスの高さに感激。
・気持ちを表す行動→旅行中、毎日通ってしまった

これだけ出すと、だいぶ「つかみ」を考えやすくなりますよね。

ポイントは「五感」で感じたことを書き出すこと。すると、臨場感や手触り感のあるつかみが書きやすくなります。

また、「自分の気持ち」と「気持ちを表す行動」も書き出しましょう。すると、感情がこもったつかみを書きやすくなります。

「五感」「気持ち」「気持ちを表す行動」がポイント

実際、つかまれるつかみを分解してみると、
「五感」「自分の気持ち」「気持ちを表す行動」が入っています。

たとえば、本でもご紹介した、小説家・くどうれいんさんのエッセイ「冬の夜のタクシー」の「つかみ」をご覧ください。

 ふられた。とても悔しい、大学四年の冬の夜だった。ともだちが飲みに誘い出してくれて、普段そんなに飲まないふたりでワインを一本空けた。家の近くまで帰れる最終バスの時間はとっくに過ぎていた。雪と雨が交互に降って外はぐちゃぐちゃだ。仙台は除雪がへったくそだな。悪口ばかりが浮かんだ。靴は既に濡れていて、濡れたところから靴ごと凍りそうなほど寒かった。歩いて四十分の道はどう見ても除雪が最悪だったのに、お金がなかったのでタクシーにも乗れなかった。金なし、才なし、恋、ちぇ、最低。自分のことがみじめで仕方がなかった。寒くて足の指先が固まったような感覚がした。なんどかんでも鼻水が止まらず、冷えた耳ももげそうだった。それでもむきになって歩いた。歩かないと帰れないし、みじめな自分にこの帰宅はお似合いだと思った。

「冬の夜のタクシー」(『うたうおばけ』収録)くどうれいん/書肆侃侃房

とてもひきつけられる「つかみ」ですよね。

この「ふられて飲みに行った」つかみを分解していくと、

(気持ち)ふられた。とても悔しい、大学四年の冬の夜だった。
(行動)ともだちが飲みに誘い出してくれて、普段そんなに飲まないふたりでワインを一本空けた。家の近くまで帰れる最終バスの時間はとっくに過ぎていた。
(五感)雪と雨が交互に降って外はぐちゃぐちゃだ。
(気持ち)仙台は除雪がへったくそだな。悪口ばかりが浮かんだ。
(五感)靴は既に濡れていて、濡れたところから靴ごと凍りそうなほど寒かった。
歩いて四十分の道はどう見ても除雪が最悪だったのに、お金がなかったのでタクシーにも乗れなかった。
(気持ち)金なし、才なし、恋、ちぇ、最低。自分のことがみじめで仕方がなかった。
(五感)寒くて足の指先が固まったような感覚がした。なんどかんでも鼻水が止まらず、冷えた耳ももげそうだった。
(行動)それでもむきになって歩いた。歩かないと帰れないし、みじめな自分にこの帰宅はお似合いだと思った。

「五感」「気持ち」「気持ちを表す行動」の3つで主に構成されていることがわかりますよね。

もちろん、凝った言葉をほとんど使わずに、ここまで心情や情景をありありと表現する文章力はさすがの手腕で、これはなかなかマネできません。

しかし、「5W1H」から掘り下げていき、「五感」「気持ち」「気持ちを表す行動」を見つけていく。
そのネタを使ってつかみを考えれば、文章が苦手な人でも「読ませるつかみ」が書けるようになるはずです。よかったら試してみてください。

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