ジョージ・セルのピアノを聴く - モーツァルトのピアノ四重奏曲など

ジョージ・セルという指揮者がしました。1970年に亡くなったので、もうずいぶん昔の人です。
自分はCDでしか彼の残した演奏を知りませんが、すばらしいです。
手兵クリーブランド・オーケストラと、そして彼の故郷ヨーロッパの名門オーケストラとも多くの録音を残しました。
今でもファンが多い「大指揮者」なのです。

その彼が実は、名ピアニストでもありました。
自分が持っているのは2つのアルバム。

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いずれもモーツァルトで、上がヴァイオリン・ソナタ集。
下がピアノ四重奏曲。いずれもすばらしい演奏となっています。

指揮者ジョージ・セル、と言えば、"厳格で正確無比な演奏"を思い起こすのですが、管弦楽を指揮しても、いつもそうではなくて、例えばドヴォルジャークでは正確に、かつのびやかに歌っています。
本来はリリカルな"音楽"をいっぱい持っているのですが、演出過剰にしない。
丁寧に、正確に歌う。
こんな言葉を残しています。

「大騒ぎ、不規則、だらしなさを好むのは、完全に合法です。しかし、私の考えでは、偉大な芸術家の手腕というものは、無秩序なものではありません」

そして、彼のピアノ!
なんて美しい、リリカルな演奏なんでしょうか。
特にブタペスト四重奏団とのアルバムは、モノラル録音にもかかわらずほんとうにすばらしい。
戦前の古き良きヨーロッパの音楽の伝統が感じられます。
ああ、本場の音楽って、こうだったんだ、と。

そして、セルのピアニスト論。

「多くの若手ピアニスト、特にアメリカの若いピアニストはもはや鍵盤でどうやってメロディーを歌えばいいかということを知りません。本当の"レガート"の指づかいを持っていないので、ピアノで節を歌うことができないのです。あまりにも打楽器的過ぎます。美ということに関すれば、彼らの音の感覚はあまりに不十分です」

しかし技術的には、ほとんどのピアニストは以前より良いのではと反論され、こう答えています。

「彼ら(技術的はすばらしいピアニスト)はピアノを弾き過ぎる。それなのに、音楽を十分にはつくりだしていない」

そうなんです。
ピアノのテクニックを聴きたいんじゃないんです。
聴きたいのは、"音楽"なんです。

セルのピアノが紡ぐ、メロディー。
まさにレガートです。
音の連なり。
ピアノには確かに打楽器的な要素はありますが(打鍵というくらいです)、セルのレガートを聞くと、うっとりとなってしまう。
特に、ピアノ四重奏曲2番の第2楽章、展開部の終わりのところなど。

ドルイアンとのヴァイオリン・ソナタでは、セルのピアノはもう少しクールかもしれない。
でも、美しい。
曲の性質上ヴァイオリンが主で、ピアノが脇、という場面が多い気もするけど、セルは、やはりうまい。

こういう名手たちの録音が残っているのは、ありがたいことです。
ピアニスト、ジョージ・セルとブタペスト四重奏団との録音は、他にもまだあるようですが、未聴。
楽しみが残っていて、うれしいですね。
聴いたらまた、感想を書こうと思います。


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