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まだ僕が幼かった頃、自宅の庭に大きな桜の樹があった。その樹は、僕が物心つく前からあったような気がするけれど、いつごろからそこにあったのかはわからない。僕がまだ幼稚園に入ったばかりのころ、家族で移り住んできたと記憶しているので、樹の大きさからするとだいぶ前からそこに根を張って生きてきたんだろうと思う。

僕がその大きな桜の樹を強く意識するようになったのは、中学校に入るころだったと記憶している。毎年春になると、枝いっぱいにきれいな花を咲かせ、日の光を浴びると部屋の窓一面が桜色に染まった。天気のいい日は窓を全開にして匂いを楽しみ、風が吹いて部屋の中に舞い込む花びらを集めた。そして春が終わりを告げる頃、庭一面が風で舞い散った花びらに覆われた。僕は、自分の成長とともに花を咲かせ続けるその桜の樹が大好きだった。

でも、僕が家を出ると桜の樹は切り倒され、僕の心の奥にしまっておいた存在も永遠に失われてしまった。

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