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女形好きが「本朝廿四孝」と菊之助&玉三郎トークショーで女形について考える


私は女形(女方)が好きである。
まあこの一個前のnote


が立役ふたりの舞台にクレイジークレイジーなのでなんともあれだが、本当である。

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歌舞伎を好きになったのは、初めてまともに観た2017年博多座。中村芝翫親子襲名のときのこと。菊之助丈の「藤娘」に感動し、時蔵丈の「毛谷村」にきゅ~んとして、鴈治郎丈の「幸助餅」にときめいたからだった。「車引」などはさっぱりわからなかったが、歌舞伎だ!!と感動したのを覚えている。今ならわかりやすい演目なのにねえ、と思う。松王がひっかけたこの車……
「河内山」も、後に何度も観ることになる。

女形同士のオンライントークイベント開催!メモを取る手が止まらない


先日、坂東玉三郎丈と尾上菊之助丈の女方オンライン・トークイベントがあった。(※WEB的には「女形」のほうが検索結果が多かったので、こちらを主に使う)

言わずとしれた名女形と名門のナウシカ(?)とのコラボ!シネマ歌舞伎の「阿古屋」の上映を記念したもので、これがとても面白かった。

お二人は「京鹿子娘二人道成寺」(きょうかのこむすめににんどうみょうじ)を踊られている。菊之助さんももうベテランの領域だと思うが、何しろ相手は玉様である。のびのびとお話になる玉様に比べ、緊張されていた。

私は歌舞伎のこの、「年齢バグ」がたまらなく好きだ。

菊之助さんは下町ロケットだしグランメゾン東京である。れっきとしたお子さんのいらっしゃるパパさんで、なんならおじさんの年齢であらせられる。なのに、まるで演劇部の新入部員のような初々しさ。微笑ましい、可愛らしい。

どういう感情なのかは未だによくわからないが、歌舞伎好きならわかってくれると思う。

経験に裏打ちされた、女形同士しかわかり得ない内容が、外野としては大変興味深かった。

女形とは、出雲阿国から始まった女性による歌舞伎が禁止され、男のみで演じられるようになってからずっとある役割である。改めて考えるとまこと不思議なものだ。
「男が女を演じる文化」はシェイクスピアの時代、エリザベス朝のイギリスにあった。というか女性が舞台に立てなかったのだが……(エリザベス朝の終焉と阿国が歌舞伎おどりを始めたとされるのがどちらも1603年なのだそう!)

それが日本では400年以上連綿と続いているわけで、なんなら国を代表する文化となっている。
ジェンダーどころか倫理的に、人道的にどうよ!?という作品もあるが、女形という存在と、様式美を突き詰めた世界がその枠を飛び越え、唯一無二の世界を作り上げている……歌舞伎を観るとそんな風に考えてしまう。

有料のトークショーなので内容に触れるのは最低限に留めるが、「飲み方を教えたとしても量は自由」という、玉様の例えが非常に的確で面白かった。

玉様という方はとかくゴーイング・マイ・プレシャス・女形ウェイという孤高の存在と思われがちだが、その実、玉様の薫陶を受けた若手はかなり多い。

中村梅枝丈・中村児太郎丈の「阿古屋」の例は言うまでもなく、中村壱太郎丈も「於染久松色読売」(おそめひさまつうきなのよみうり、通称お染の七役)や「滝の白糸」で指導を受けているし、少し戻れば中村七之助丈が「助六」で揚巻を演じたときは着物を貸してすらいたはず。幸運にも全部観たので覚えている。

「京鹿子娘二人道成寺」は玉様演出なので、菊之助丈も本当にお世話になった、とトークイベントで仰っていた。

もしかしたらジュディ・オングなのかもしれない。私の中でお眠りなさい。

それは冗談としても、包容力がスゴイというか、本当にとんでもない存在であり、それゆえに面倒見も良いのだろう。
女形の心得として「筋肉をつけすぎない」と言い切っていたのも印象的だったが、それで30キロの着物を着て芝居して楽器を三種類演奏する、そして重さを実際に測ってみるまで重みのことは意識していなかったというんだから恐れ入る。妖怪か妖精か……いい加減怒られそう。

(30キロの着物を着ているのがコレ)

シネマ歌舞伎はダイナミックなカメラワークと、映画ならではのアップの使い方、劇場の臨場感を損なわない音響など、こだわり強く作られているのでぜひ一度観に行ってみてほしい。

シネマ歌舞伎4作品が Amazon Prime Video にて配信決定! | ニュース | シネマ歌舞伎 | 松竹 https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/sp/news/2020/12/new_1_7.html

ちなみに、今はアマゾンプライムビデオでも「ワンピース」や「女殺油地獄」(おんなごろしあぶらじごく)がレンタルできる。良い時代だ……。

「本朝廿四孝」で噛み締める時間旅行

さて、「本朝廿四孝」の話だ。二月大歌舞伎、私は「泥棒と若殿」の話ばかりしていたが、第一部の演目は「本朝廿四孝」との2本立て。

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初回はとにかく伝九と信のことで号泣していたが、橋本支配人から「お香の薫りがするから、ぜひ聞いてみてね」(※香は「聞く」と表現する)と言われていたので、一等席を取った千穐楽、こちらも楽しみにしていた。

客席について、ふわっと薫る十種香……。幕の裏側では人の気配がする。かすかに声と、大道具を動かすような音。

配信ではない、自分は今舞台に来ているのだなあ、と思った。

定式幕があがると、歌舞伎特有の色鮮やかな舞台がいちめんに広がり、義太夫がゆっくりと語り始める。

絵巻物のような美しさの、歌舞伎役者、改めて観ると本当に面白い演目だと思った。


キレイで、きちんとすべてが整えられた夢見心地で、生身の人間が演じているなんて信じられないほどだ。

250年ほど前に作られた作品(人形浄瑠璃が1766(明和3)年1月、歌舞伎が同年5月、どちらも大坂で上演)なので、時空も超えている訳で……

十種香は「八重垣姫」と「濡衣」という女形の存在なければ成り立たない。どちらの女性も愛する人を亡くし(仮)回向、つまり弔いをしているのだけれども、まあ~美しい。すごい、ちゃんと姫。お掻取の仕草に、はにかむ仕草、姫の持つちょっとした図々しさ、健気さ、踊りの振りの若々しさ……。
八重垣姫の中村魁春丈、1948年元日のお生まれ、御年74歳。
片岡孝太郎丈(53歳)が若々しいし、役柄としては年上設定。どういうこっちゃ。

それを違和感なく見せてしまうのが歌舞伎マジック。
世話物大好きな私だが、古典の魅力にも強く惹かれたし、自分が「古典を楽しめるフェーズ」に入ったのかな?とちょっと嬉しくなった。

まあ、古典を楽しむとか言いながら舞台でおじいちゃんおじさんが恋仲を演じてるのにキャーキャー言ってるだけでもあるが。人生が数倍ウキウキワクワクするので歌舞伎はオススメだ。

頭を突っ込んでみて初めて知るが、演目にも色々な種類があり、入り方も人それぞれ。
女形から入ってみるの歌舞伎体験、悪くないと思うのだが、いかがだろうか。

三月の演目も素敵なんですのよ

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三月大歌舞伎の女形を羅列すると
第一部に中村七之助丈(出雲阿国)、中村莟玉丈(禿たより)。第二部が孝太郎丈(相模)、中村時蔵丈(三千歳)。第三部は玉様のAプロBプロである!!豪華!!
私は時蔵さんがだ~いすき……。

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ちなみに南座では若手による花ざかりの君たちへ、もとい、義経千本桜が見れるのでこちらもおすすめ……というか観に行きたい……。
AプロBプロで配役シャッフルがあり、中村壱太郎丈と中村米吉丈の静御前が楽しめるので行ける人は感想を教えてください。緊急事態宣言が憎い。私を京都に連れてって。上演期間が歌舞伎座に比べて短いので注意ですよ!!!

松竹は本気なので初心者こそ今観に行ったほうが良い

お前は松竹のナンナンダヨ、と思われそうなんだが、私はただの、お金のない紫のバラの人……(つまりは「あなたのファンより」)

最近の歌舞伎の演目は本当に練りに練ってスタンバイされているので、初心者の人は今こそ行ってほしい。

今では信じられないが、歌舞伎には昼の部と夜の部しかなく、11時開演で15時半くらいまで上演されていた。めちゃくちゃ疲れる。オタクなので通っていたが。

今、各席を3千円くらいずつ安くして、演目を減らして三部制にしているので二時間ちょいで観られるようになった。そして(お客さんを呼べて)感染症対策が講じられる演目を歌舞伎に関わってウン十年という方々が知恵を絞って厳選されている。

今は逆にチャンスなのだ!特注のフワフワ座席(一等席のみ)も体験しやすいぞ!



感染対策も徹底しているので、みなさんレッツゴーである。レット・イット・ゴー。

歌舞伎座は広い。それでも舞台稽古すら最低人数、閉め切って行っていると聞いた。それくらい本気なのだ。「○○屋!」の大向うも歌舞伎の要素なのに、それを削って上演している。

だから「桜姫東文章」を仁左玉コンビでやるなんてことを……してしまうわけだが……。これはもうスゴイものが来たことだけ伝われば良い。チケットますます取れなくなるからこれは皆見に来なくていい!!(強欲オタク)

明日朝から取材なのに延々と書いてしまった。少しでも魅力が伝わったら嬉しい。そして歌舞伎を観に行って。

ちなみにこちらは、私が書いた記事一覧。歌舞伎のことや土方歳三や炭焼きまで書いております!!!



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