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大阪とんかつ〜卒業。天空の女神と男。

この世は不思議に満ちている・・・
偶然が起きた時、そんなふうに思います。
大阪とんかつのバイトと学校の最終です。

日曜は唯一の楽しみがある日。
午前からバイトに行き 午後3時頃休憩。
バイト先の高層ビル最上階でパンを5分で食べ
急いで 癒しの異空間へ走る。

それは全面ガラス張りの音楽視聴ルーム。
30名ほど座れるテーブル付椅子が並び
前に美しいお姉さんが座っている。

モデルのようなお姉さんが
天空のガラス部屋にあるステレオで
LPや出始めたCDをかけ
視聴中のジャケットを無言で見せ
あとは何やら書き物。

ここを見つけた私は 最初
ガラス外の柱にもたれ 
本を読みつつ チラ見でした。

夏休み、バイトで毎日外からチラ見してると
お姉さんがスーっと中から顔を出し

「ここは無料だから よかったらどうぞ」

と言ってくれた。
背広を着たサラリーマン Gパンの若者
色々な人が音楽が流れる中で
本を読んだり居眠りしたり。

とんかつ屋の緑の制服で
ショルダー引っ下げて通う私を
お姉さんは 優しく迎えてくれました。

秋を過ぎた頃でした。
白いコック服を着た男性が入ってきました。
制服の人が私の他にもいる・・・。

コック服の男性は それから
よく会いました。

胸の刺繍が 
階下のスペイン料理の店名でした。

私より年上、26、7才だろうか。
その人はノートを書いて勉強してる。
私は彼の存在が気になりました。

秋、冬、そして卒業が決まり
大阪も残り日数を数える頃
ガラスの向こうにいた私に
声をかけてくれたお姉さんに
私は最後にお礼を言いました。

お姉さんに これからの事を聞かれ
異国で勉強すると言うと
とても喜んでくれて
ご飯をご馳走したいと言ってくれました。

名前も知らず
言葉を交わしたのも これが2回目。
こんな優しい人が都会にいるんだ
と驚きました。

お姉さんが連れていってくれたお店は
私が初めて入った
立派なレストランでした。

お姉さんは 私にあれこれ たずねた後

自分は会社勤めをして
普通に結婚すると思う、と
飛び出し者の私の話に
興味津々で 屈託のない笑顔で

笑うと、キャンディーズの蘭ちゃんを
思わせる人でした。

ひと月後 私は
フランス南方の田舎にある
全寮制の学校に入りました。

フランス料理レストランで働くため
現役のプロも入る訓練校でしたが

驚いたのは、
あのスペイン料理のレストランの
コック服を着た男性が居たのです。

そこは厨房を動き回る生活でしたから
彼と話したのは、半月以上も経ってから。

学校と寮のある広い敷地内で
大股で 大手をふって歩く彼を見かけ
私はレコードルームの事を話しました。

「あそこに、よく聞きに来てましたよね」
「なんで知ってんの」
「私もよく行ってたんです。制服着て」
「・・あ!・・・とんかつ屋やろ!」
「そうです」
「うっそやん!あれ、君か!」
「はい」
「ええーー!」

それから彼と気さくに話す親密な関係
という風に現実は行きません。
それはそれ。
それぞれに目的をもった渡仏です。
顔を見かければ話をする程度。

それでも休みの日に大きな声で
仲間と笑いながら話しをしている
人気のある豪快な人だったのは
よく覚えていました。

私はフランスでお姉さんから
手紙を3回受けとりました。

その中に
あの彼のことが書かれていました。
もしかしたら 同じ場所で
顔を合わせていないか と。

お会いしました と
私はお返事に書きました。

よろしく伝えてほしい と
次に来た返信に添えてありました。

時は過ぎ 数年前
私は横浜のIKEAに家具を見に行き
そこのレストランで食事をしようと
スウエーデン料理を見ていました。

ふと顔をあげると あの彼が女性と一緒に
ワゴンを押して料理を選んでいる。

驚きました。

彼が東京生まれなのは知っていましたが
三十年近く経っているのに
私はすぐにわかりました。

その横にいる女性が 
あのお姉さんではないかと
思ったのですが 

蘭ちゃんのような笑顔はなく
髪を後ろでギュッと束ねて
バリバリ風な別の女性でした。

そして ワゴンを押す彼の顔に
フランスで大笑いしていた笑顔は
かすりほども 浮かばなかった。
私は声をかけませんでした。

あれから私もさまざまを経て
今を生きています。
彼もきっとそうなのでしょう。
あたり前です。でも

久しぶりの思いがげない再会で
人の選択というものを想像しました。

かつて共に過ごした学び仲間は
出世した人が数々おり
別の道で活躍する人も半数ほど。

私も別の道組みの人間ですが
好きなことに向かう芯は自分の中で
つながっている。
そんなことを思った再会でした。

大阪とんかつシリーズもこれで一旦、卒業です。
今まで長いシリーズをお読み頂いた方々、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。



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おりーぶ
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