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観てきた!石岡瑛子 展 part1:東京都現代美術館 編

わたしはおそらく、ご存命だった頃の仕事を、リアルタイムで認識している最後の世代でしょう。亡くなってもう10年経ってしまうけれど、時が経てば経つほど、自分が年を重ねれば重ねるほど、”石岡瑛子という生き方”が、どれほどエキサイティングで、しなやかで、素直で、圧倒的だったか、を思い知ります。

いまの日本を、日本人を、瑛子さんはどう思うのかな。
そして、どんな表現をしていたのかな。ついつい考えてしまいました。

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いま、都内2箇所で、石岡瑛子さんの世界にどっぷりと浸れる展覧会が行われています。こんな大規模な回顧展はおそらく最初で最後でしょう。
本当に、とてもとても貴重な機会です。
できればぜひ、どちらにも足を運んでいただきたい!!!

ということで、2回にわたってご紹介させてください。
今回は東京都現代美術館での展覧会についてです。

場所:東京都現代美術館(東京・清澄白河)
会期:2020年11月14日(土)~ 2021年2月14日(日)
時間:10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日、年末年始(12/28~1/1)
料金:一般 1,800円 大学生・専門学校生・65歳以上 1,300円 中高生 700円 小学生以下無料
事前予約制:予約優先チケットあり


◎観に行こうと思ったきっかけ

いつだったでしょうか、強烈なビジュアルのフライヤーを手にして開催を知りました。思わず、わー!嬉しすぎる!!!と、心の中で叫んでしまったくらい。一度延期になってしまっていて、開催が待ち遠しかったです。

世界の状況が変わってしまって、会期のスタートに展示する予定の衣装が届かなかった、なんてこともあったそうで・・・
そんな中でも、なんとか開催にこぎつけてもらえて、本当に本当に、全ての関係者の方々には感謝しかありません!!!

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◎どんな展覧会?石岡瑛子さんってどんな人?

東京に生まれ、アートディレクター、デザイナーとして、多岐に渡る分野で新しい時代を切り開きつつ世界を舞台に活躍した、石岡瑛子(1938-2012)の世界初の大規模な回顧展

時代を画した初期の広告キャンペーンから、映画、オペラ、演劇、サーカス、ミュージック・ビデオ、オリンピックのプロジェクトなど、その唯一無二の個性と情熱が刻印された仕事を総覧します。
公式サイトより)

世界初・・・!!! 
確かに、これだけの資料を世界中から集めてきて展示するって、もう考えただけで、めまいがします・・・。もう存在しない組織とかもあるし。

そして瑛子さんは、日本国内以上に海外にファンが多かったと思います。企画段階では、この展覧会をめがけて海外から多くの方がいらっしゃることも想定されていたでしょう。残念でなりませんが。

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そもそも、瑛子さんが何をした方なのか、一言で言うには本当に難しい・・・だからこそこの展示は、瑛子さんの濃厚すぎるキャリアをくまなく追体験できる展示構成と演出になっています。

だから、瑛子さんのことを全く知らなくても大丈夫。むしろ何も知らない人ほど楽しめるのでは? わたしはほぼ何も知らずに観に行った2015年の『山口小夜子』展での衝撃を思い出しました。(写真残ってて良かった)

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今回の展示で初めて瑛子さんのことを知った!って方々に、ぜひ感想をインタビューしてみたいくらいです。

展示空間で特徴的だったのが、色と音。
瑛子さんを彷彿させる濃い赤と黒、白の世界。
そして肉声のインタビュー音源が前半の展示室内に鳴り響き、主に後半では携わった舞台や映画の映像がたっぷりと楽しめます。

わたしは入口から最初の展示室に進むだけでもすでに、うわっ!すごいっ!と驚きました。続くいくつもの展示室が、緩急ありながらも、どれもすごい。とにかくすごいです。
瑛子さんのとてつもない世界が、しっかりと各展示室内に充満していて、素晴らしかったです。きっと誰もが度肝を抜かれ、熱量に圧倒され続けること間違いなしでしょう。

そして、会場となっている現代美術館の重厚な石造り、天井が高くて大きな展示室が、瑛子さんの規格外でパワフルな作品をどっしりと受け止めている印象を持ちました。

ちなみに瑛子さんの肉声、時間が許す限り必死に聴きましたが、展示を観るのにも必死だから、なかなか内容が入ってこず(笑)
有料でもいいので、音声だけ配信してもらえたらなぁ。じっくり聴いてみたかったです。

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詳しい瑛子さんの経歴は、ぜひ展示や資料などでお読みいただきたいのですが、ざっくりご紹介します。

まず大前提として、瑛子さんはアーティスト・作家ではなく、あくまでもデザイナーであり、アートディレクターです。
オファーを受けて、さまざまな人達とチームで仕事をしてきた方。
お題や制約がある中で、最大限に自分が手がける意味のある仕事をしてきたプロフェッショナルです。


瑛子さんのキャリアのスタート地点は、1961年。
大学卒業後、資生堂の宣伝部に入社され、デザイナー、そしてアートディレクターとなります。
ちなみに当時の企業各社の広告って、資生堂はもちろんですが、いま観ても素敵なものばかりで大好きです。携わった人たちのこだわりとパワーが見えるし、芯があって強くて、美しいものが多いんですよ。なんで広告がこんなにカッコいいんだろう、と本当に思います。

1970年に独立された後は、PARCOのポスターやCM、書籍の装丁、雑誌のアートディレクションやパッケージデザイン、企業CIなど、本当にお仕事の幅が広がっていきます。

1983年に作品集『石岡瑛子風姿花伝  EIKO by EIKO』を日本とアメリカで同時出版。新たな場を求めて、活動拠点をニューヨークへ移すのです。

マイルス・デイヴィスのレコードジャケット、レニ・リーフェンシュタールとの展覧会企画、フランシス・フォード・コッポラとの映画の仕事、ビョークとのMVやCDジャケットの仕事、そしてターセム・シンとの映画の仕事、シルク・ドゥ・ソレイユのコスチュームデザイン、北京オリンピック開会式でのコスチュームディレクター、オランダ国立オペラの衣装デザインと、超一流クリエイターたちと出会い、ジャンルレスなお仕事へと繋がっていきました。

ざっくり書いただけでも、ものすごさが伝わってきますよね。
しかも、こんなにも多種多様なオファーに全力で応え、結果を残し続けたことに、ただただ、しびれてしまいます。

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◎事実は小説よりも奇なり。な評伝が出てます

ちなみに、瑛子さんへ最後にインタビューされた河尻亨一さんによるWeb連載が書籍にまとめられています。展示を観た後すぐ買って読みました。分厚いですが、何度でも読みたくなる一冊。とてもとてもお薦めです。


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◎映像もぜひ!!!

ちなみにその河尻さんと、展示企画を担当された学芸員の方が対談された映像が公開中です!!!ここでも、展覧会を開催できたことの奇跡がひしひしと伝わってきます。貴重な貴重なお話が盛りだくさんです。


また、NHKのアーカイブ映像が観られるページもありました。
瑛子さん、2011年に『プロフェッショナル 仕事の流儀』にも出演され、亡くなった後にはアンコール放送もされました。

現在、有料の「NHKオンデマンド」にも配信されてないようなのですが、この機会にぜひもう一度、放送してくれたら嬉しいですよね・・・
あと、年末の深夜に関東ローカルでテレビ放映された『落下の王国』も。


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◎余談:Naomi_Nと瑛子さんとの出会い

わたしがいちばーん最初に瑛子さんのことを認識したのは、約20年前。
雑誌『流行通信』の、衣装デザインを手掛けたターセム・シン監督の『ザ・セル』の特集だったはず。
強烈なビジュアルとストーリーに、ハリウッドにはこんな仕事をしている日本人女性がいるんだ!すごいな!!!と驚きました。

当時のわたしは、静岡県・伊豆地方の のどかな田舎に住む高校生。
学校の図書室で、『アイデア』や『STUDIOVOICE』、『TiTLE』、『ブレーン』、『広告批評』、そして『流行通信』などなど、近所の本屋さんには売ってないし、自分でも買えないような、あらゆる雑誌を読んでいました。
高校は進学校でしたが、図書室には幅広いジャンルの本や雑誌が置かれていて、いま思い出しても、とても豊かで貴重な時間だったと思います。わたしの目と感受性を養い、広い広い世界とつなげてくれた場でした。

瑛子さんの仕事をより深く知ることになったのは、それから数年後。20代半ばです。
2006年の映画『落下の王国』、2008年の北京オリンピック開会式。そして汐留のアドミュージアムで、でした。仕事柄、広告やデザイン全般を深堀りしていくようになり、有名すぎる資生堂のあのポスターも、渋谷PARCOとの仕事も、瑛子さんが手掛けていたと再認識しました。

2016年8月、旧渋谷PARCOが取り壊される直前に、館内の階段で行われたポスター展を観に行ったことも、今でもはっきり覚えています。

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でも、残念ながら、2012年のはじめに亡くなって以降は、海外でのご活躍が長かったからなのか、知っている人は知っている、というような存在になってしまっていたように思っていました。
同世代でも、映画や舞台好きが知っている、くらい? あとは、広告好きな人たちにとっての伝説の人、みたいな。手掛けたお仕事の割には、埋もれてしまっているような・・・。
2005年に出た著書『私デザイン』もすでに絶版になっちゃってますしね。

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◎心に残った展示は?

全部!!!と言いたいのはやまやまですが、その中でも、がつん!と心に響いたものをいくつか。

●ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『イノセント』のポスター
ただただ、美しくてとても好きでした。あの大判ポスターを部屋に貼って眺めたいです。映画も観ようと思います。

●「AID AND COMFORT Ⅱ」のポスター
こだわって印刷されたことが伝わってきた和紙のポスター。実物を近くでみないと、この素材感はわからないですね。デザインも優しくて好きでした。

●『ミシマ ー ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』
まず展示室そのものに圧倒されました。しかもわたしはこの映画の存在を知らなかったので、さらに衝撃。日本未公開なのが惜しすぎます。フランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカスが総指揮、ポール・シュレイダー監督作品。

●『ドラキュラ』
大きなサイズの紙に描かれた衣装のデザイン画、そして実物の衣装たち。美しいことこの上なかったです。こんな衣装を着られるなんてうらやましい!

●シルク・ドゥ・ソレイユ:ヴァレカイ
展示室で映像と作品に囲まれてながら、もうこの素晴らしい世界を観られないのか、と思ったら泣きそうでした。わたしはラスベガスで「O」と「KA」を観ることが夢なのです。いつの日か・・・!

●えこの一代記
10代の瑛子さんの作品。はじまりの記録資料です。
最後にこの展示。素敵でした。本当に。

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◎まとめ &  part2 は?

改めて、世界中が混乱を極めた年に、準備を進め、開催してくださって、本当に本当に感謝しかありません。
そして、生まれた時代が違っても、展覧会を通して瑛子さんがサバイブしていった時間を追体験でき、本当に幸せだと思いました。展覧会の良さ、回顧展の良さってこういう事ですよね。

しかもわたしは幸運なことに、短期間で2回も会場を訪れる事ができました。自分でチケットを予約して観に行き、その翌週に大学の学芸員課程の実習でも訪れました。2回観たけど、もう一回観たい。そしてまもなく発売になる図録も絶対に買います。

大事なことなのでもう一度言いますが、こんな大規模な回顧展はおそらく最初で最後でしょう。本当に、とてもとても貴重な機会です。
会場ごと真空パックして保存しておきたいくらい素晴らしかった。心震えた空間でした。


会場内は万全の対策がとられていました。ご都合つく方は、ぜひとも会場で。熱量がとにかくものすごいので、体調を万全にしてお出かけください。

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石岡瑛子 展 part2 では、もう一つの会場、ギンザ・グラフィック・ギャラリーの展示についてご紹介予定です。こちらはなんと太っ腹!無料ですよ。

広告・キャンペーン中心の前期が今週末まで、グラフィック・アート中心の後期が3月まで控えています。後期を観に行った後、記事にまとめてご紹介しますので、しばしお待ちを!!!

こちらで行われた河尻さんと、gggの展示企画を担当されたキュレーター・北沢さんのトークセッションの動画も配信中ですよ。
15年近く通っているのに、中の人・北沢さんのことを初めて存じ上げましたが、北沢さんがお話しになることも相当レアだそう。どちらかと言うと美術よりも広告周りの人に有名なギャラリーではありますが、この機会にぜひ!


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