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バナナから産業、そして遺伝資源

 バナナはお好きでしょうか。私は大好きです。そうと決まれば遠足に行きましょう。。バナナはおやつに含まれません。そうですね、先生!?

 本日の日経新聞において、興味深いニュースが書いてあったので、これについて言及したい思います。なんとある病気の流行によってバナナが絶滅の危機に瀕しているようなのです。その名も『パナマ病』。この病気はたびたびバナナの生産地に甚大な影響をもたらしています。

パナマ病とは

 ところで我々が現在甚大な影響を受けているウイルスがありますね。そう、コロナウイルスと痘ウイルスです。では、このパナマ病もまたウイルスによるものでしょうか??答えはNoです。パナマ病はフザリウム属の『菌類』によって引き起こされます。この菌が根から導管を伝って広がると維管束を破壊し、植物体を枯死させるのです。


パナマ病の歴史

 パナマ病はその名の通り、1950年代にパナマで発見されました。瞬く間に世界中に広まってしまい、その当時生産されていたグロスミッチェル種は壊滅的な被害を受けました。その結果パナマ病に対して耐性のあるキャベンディッシュ種が食用バナナ首位の座をとることになりました。しかし、今回流行になりつつあるのはそのキャベンディッシュ種に感染して発症させる『新パナマ病』なのです。新パナマ病は1990年代に台湾で発見された後、各地に広がっており、とうとう今回、ベトナムの植物遺伝資源センターが論文を発表するに至ったのです。

バナナという植物の問題

 そもそも食用バナナは病気の流行を考えたときに、大きな課題を抱えています。それは種子をもたないため、品種改良が困難ということです。基本的に私たちが食べている作物は畑に種子を植え、適期に収穫するというプロセスを踏むはずです。しかし、食用バナナは3倍体という染色体を3組持つもののため、受精卵を経た遺伝子の変更・改良を人為的に行うことができません。遺伝子が一緒ということは、病害に対する抵抗性が一緒ということであり、1つの病害が品種を壊滅させることも容易に起こりうるのです。種子を経ない特徴を持つ食用植物として、サトウキビがありますが、こちらもインドの研究所を中心として膨大なコストと労力をかけて保存されているのです。一般的にライフサイクルの短い生物たちは、私たちより遺伝的な変化が速く起こりやすいのです。例えば、ハエは殺虫剤をばらまかれるとほとんどが死滅しますが、生き残った殺虫剤抵抗性をもつハエが生き残り、その抵抗性が子孫に伝播することでハエ集団に殺虫剤が通用しなくなることは有名です。ところが、食用バナナやサトウキビのライフサイクルはほぼ無限といっていい状態です。なんせもともとは同じ株なのですから。

ゲノム編集にかかる期待



 種子を持たない食用作物を遺伝子改良するにはゲノム編集しか残されていないのでしょう。昨今東南アジアやインドをはじめとして、熱帯性の非種子性の作物をゲノム編集で改良しようという動きは活発です。一般的にゲノム編集というのは交配・系統選抜・後代検定と膨大な時間がかかる従来の改良よりも時間がかからないとされています。しかしながら、当然切り取るべき遺伝子の領域を正確に切り取るためには技術とデータの蓄積が急務でしょう。個人的にはバナナが大好きで、これからもたくさん食べたいので東南アジアのゲノム編集技術の改良を切に祈って終わりといたします。


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