オランダの「セミ介護付きアパート」で考えた、豊かな老後と住宅市場のあり方

どんなに元気な人にも老いや死は訪れる。親にも、私にも、メッシにも。それは考えたくないけれども、着実にやってくる。それでも、老後も自立や自由を謳歌しながら、安心感のある生活を送れるなら楽しい。今回はオランダの介護付きアパートを見て、日蘭の住宅事情や「老いに備える」ことについて考えた。

ホテルのような介護付きアパート

先日は、オランダ人の義父母が老人用のアパートに引っ越した。アパートは全室バリアフリーで、介護が必要な人には介護サービスもオプションでつけられる。彼らはともに80歳以上。幸いどちらも元気なのだが、どちらかが動けなくなった時に備えて、まだ元気なうちに引っ越しを済ませたのだ。

アパートにはレストランや美容院、小さなスーパーマーケット、ジム、レクリエーション用の部屋、ネイルサロンなどがあり、外に出なくとも屋内の通路を使ってこうした施設にアクセスできるようになっている。アパートの部屋はいろいろなサイズがあるらしいが、義父母の部屋は100㎡ほど。もちろんキッチン、シャワーなどのある独立した世帯で、普通のアパートの世帯と何ら変わりはない。ただ、介護が必要になれば、そういうサービスが付くというだけだ。

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敷地内は広々としていて、窓からは庭の池や緑が見渡せる。ロビーや共有スペースには生花が飾られているほか、グランドピアノが置いてあったりして、まるでホテルのよう。これで家賃は月々17万円ほど。オランダのスタンダードからすると、アッパーミドルクラスといったところだろう。

終の棲家として、こんなところで生活できたら素敵だなあ……と、羨ましくなる環境だった。こんな環境を求めたら、日本では月々40~50万円かかるとのこと。でも、それは完全介護付きのアパートで、そもそもこういう「オプション介護」やさまざまな施設が併設されたところを私は知らない(知っている方いたらしたら、ご教示願いします!)。

病気で倒れたり、認知症が進んだりして、介護が必要になってから入居できる介護付き施設ではなく、こんな風にまだ元気なうちから自分の老後を用意できるアパートが日本にもあればいいな、と思う。

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ライフステージに応じて、家を住み替える

年を取っても自宅で1人暮らしする人、介護サービスのない普通のアパートに住んでいる人、子供のところに同居する人、何組かの老人と家をシェアする人……オランダ人の老後の過ごし方もさまざまだが、義父母のケースは結構贅沢な選択肢かもしれない。

ただ、大抵のケースで共通するのは、オランダ人がライフステージに応じて家を住み替えて、最後は割と小さめの家やアパートに移るということだ。

オランダでは日本のように住宅市場が新築中心ではなく、中古が中心で、1軒の家は何世代もリノベーションしながら使われる。中古住宅市場が厚いので、流動性も高く、きちんと手入れされた家は買った値段よりも高値で売れることが多い。

だから、30歳ぐらいでまず1~2人暮らし用のアパートを賃貸または購入した後、家族が増えたら庭付の一軒家を購入し、子供が巣立ってしばらくしたら、老人用アパートや小さめの家にスケールダウンする……というような住み替えの中で、最後に売却益を得ることが多く、それが老後のいい資金になっている。私の義父母もこのようなプロセスを経て、現在の「セミ介護付き」アパートに行きついた。

17世紀からの富の蓄積

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こんな風に既存の住宅を修復・維持しながら何世代も使えば、次の世代に資産が残っていく。資金的にも、資源的にも。戦時中ドイツに占領されたり、紆余曲折は経ているものの、何百年も前の建物をリノベーションしながらずっと使っていることを思えば、その富は17世紀の黄金時代ぐらいからずっと蓄積されていることになる。この富の蓄積は、オランダ人の生活にゆとりを生む大きな要因だ。

翻って、日本の住宅市場は新築中心。中古住宅市場が小さいと中古住宅は売れず、せっかく30年ローンを組んで建てた家は、ローンを払い終わった頃には減価償却されて資産価値ゼロになってしまう。「スクラップ&ビルド」を繰り返す中では、なかなか富の蓄積もできず、何世代経っても日本人が住宅ローンで消耗する構図は変わらない。

日本は戦争で焼け野原となったところから復興したし、高度成長期の中ではどんどん新築住宅を建てる必要もあった。さらに地震などの災害があるのが建物の修復・維持を難しくしている面もあるだろうが、これから人口が減少する中では「新築至上主義」はもう立ち行かなくなってくる。日本人が豊かな老後を送り、資産を次の世代に残すためにも、住宅市場を新築中心から中古中心に移行させる必要がある。すでに政府はその辺の対策を練り始めているらしいが、日本人全体が中古住宅に対する意識を変える必要もあると思う。

老いに備える

義父母の引っ越し作業はほとんどを業者に頼んだとはいえ、不用品の選別や荷造り、紐解きに加え、各種手続きなどで相当のエネルギーを要する。80台の高齢にはこたえたようで、義母はしきりに「引っ越しはこりごり……」と言っていた。

それでも老人アパートには大満足で、窓から庭の噴水を眺めながら、静かな日々を送っている。共同レクリエーションスペースで毎週開かれる「ブリッジ」大会に、時には夫婦で参加。まだ周りの住民たちとはあまり交流がないが、あと半年もすればご近所付き合いも出てきて、生活がさらに楽しくなることだろう。

義父母は子供たちに相談しながらも、自分たちで老後を考え、アパートを選択し、着々と準備をして引っ越しを済ませた。私はそれを立派だと思う。オランダ人は最後まで自分の生き方を自分で決めて生きている。私もそんな風に自分の老後を準備したいものだと思う。









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