見出し画像

四葉のクローバーがみつからなくても[2024/3/27〜2024/4/2]

2024/3/27(水) やりたくなかったらやらなくてもいい

朝ご飯におばあちゃん(母)がパンを出す。「そのベーコンと目玉焼きパンに挟んでくださいね」とおばあちゃんがおじいちゃん(父)に言うと、娘が「おじいちゃんはやりたくなかったらやらなくてもいいんだよ。好きにしたらいいの」と言った。彼女は「これをこうしなさい」という指図するような温度の言葉に抵抗し、自由と権利を主張するところがある。

娘と母は、母が習っているバレエに一緒に行くことになっていた。のんびり朝ご飯を食べていたらあっという間に出かける時間で、バタバタと準備をした。

外に出ると青空が広がっていた。久しぶりの気持ち良い晴れの日だ。「走るよ」と母が言うと、娘が足と手をパタパタし、首を振りながら「パタパタパー パタパタパー」と言って走った。

レッスンの時間ギリギリ間に合ったようだ。私は入口で、母の先生に挨拶する。実は母の先生は、私が高校生の頃に通っていたバレエ教室で私と一緒にレッスンを受けていたことがあったらしい。「面影があるわぁ。お友達の子が“なおちゃん”て呼んでたのを覚えてるの」と先生に言われる。電車で1時間ちょっと乗り継いで行っていた、懐かしい東京の教室。友達の声。思いを馳せて頭の中が少しだけタイムスリップした。

そのまま私は駅に向かい、電車に乗って取材へ。

せっかくなら街を少し散歩してから帰ろうと、昔ながらの喫茶店へ入る。食券を買い席に着くと、おばちゃんが水を持ってきてくれた。一人で来ているお客さんがぽつりぽつり、あとは高校生の女の子たち。テレビからは高校野球が流れている。

やがてテーブルにクリームあんみつが運ばれてきた。緑とピンクの求肥が乗っている。私ははじめて求肥という食べ物に出会ったとき、こんなおいしいものがあるのか!と感動したのだった。久しぶりに出会えた好物の求肥はもちもち。寒天と一緒に入っている赤くて小さな丸い豆はほんのりしょっぱい。バニラアイスは甘く、隣のあんこと混ざり合う。バナナやうさぎ型に切ったリンゴが付いているのも嬉しい。それから赤いさくらんぼと缶詰のみかん。古き良きクリームあんみつを楽しんだ。

近くの古本屋さんを覗いて、電車に揺られて帰った。電車に乗ると、なんだかエネルギーを吸い取られるような気がする。揺れるからか、長距離を高速で移動するからか、それとも周りににいっぱい人がいるからだろうか。そっと感覚を閉じて本に目をやる。やがて本も閉じて、目も閉じて。ちょうど最寄り駅で気がついて降りた。

実家で遊んでいた娘が部屋の奥で遊んでいるのが見えた。段ボール箱をつなげてつくったらしい何かがある。「これはお店だよ」。お店屋さんごっこで使うお店なのだろう。

お風呂に入り、ご飯を食べる。この調子なら、来週の私の出張のときに、おばあちゃんちに泊まれるのではないだろうか。「おばあちゃんちに泊まるか、お父さんとおうちで二人でいるかどっちにする?」聞いてみると、迷うことなく「お父さんとおうち」と言う。日中全然私たちがいなくても大丈夫なのに、寝るときに両親どちらかがいないと不安だと思うらしい。

ストレッチをする。「丸くなるよ!」娘の呼びかけで、父も母も交えて円をつくる。「はい、手つなぐよ!」開脚をし、手をつなぎ、前に倒れる。おじいちゃんは「いたい〜しんじゃう〜」としんどそうだ。娘、母、私、父、と順番に10秒ずつ数えて次々と体勢を変えていった。

ストレッチが終わると、おやすみなさいを伝えて寝室に行った。「くっつこ」と言う娘の方をごろんと向いて、一緒に寝た。


2024/3/28(木) 判断を保留にするような間

実家にいる娘は、起きた瞬間からハイテンションだ。おじいちゃんとおばあちゃんがいると張り切るのか、元気いっぱいで声も大きく、動き回っている。

朝食にご飯、味噌汁、納豆、スクランブルエッグ、ほうれん草のおひたし、たくあんなどなどが並ぶ。昨日の残り物ぐらいしか出てこない我が家の朝食に比べた品数の多さに、娘も「おばあちゃんちのご飯は豪華だねぇ!」と喜ぶ。

朝ご飯を食べ終わると、娘が発泡スチロールを破壊し始めた。昨日届いた母のオーブンを梱包していたものだ。足で踏み、バラバラと破片がこぼれる。好きなだけやったらいいだろうと思って見ている。おばあちゃん(母)が「この中でバラバラにしたら」とゴミ袋を持ってきた。ゴミ袋に発泡スチロールを入れ、今度は足で蹴る。「あっ」と思ったときには、ゴミ袋が破れていた。はりきり娘は終始笑っている。

おばあちゃんが焼きたてのグラノーラをおやつに出してくれた。娘は食べていたが「お着替えするよ」と声をかけるとこちらにやってこようとした。「グラノーラもぶちまけたの?もうつくってあげないよ」と言うおばあちゃんの声が聞こえる。ポロポロとグラノーラがテーブルにこぼれていたようだ。

部屋に移動した私には見えていなかったが、娘はどんなにテンションが高くても食べ物をぶちまけるようなことはしないだろうなと思う。まずは話を聞いてみなければ。

部屋にやってきた娘に聞いてみると「お着替えしようと思って、テーブルの上に置いただけだよ。あと、サクサク過ぎてこぼれちゃった」と言う。おばあちゃんにそういうわけだと説明すると、「あらそうだったの、ごめんなさい」とおばあちゃんすぐに謝ってくれた。ときに大人は、目の前の事象と自分の推測で子どもを怒ってしまうことがある。自分の判断を保留にするような間が必要だなと思う。

午前中私は仕事をさせてもらう。

リビングで娘は最初おじいちゃんおばあちゃんとカルタをして遊んでいたようだが、やがてYouTubeで動画を見ている音が聞こえた。ちょっとのぞくと、子どもがアンパンマンのおもちゃで遊んでいる動画を見ている。こうしたタイプの動画があって、子どもに人気なことは知っていたが、見せたことはなかった。娘の相手をしてもらっていてありがたいのだが、あんまり長いので「もうやめて」と声を掛けた。

お昼ご飯に母と娘が近所のお店でサンドイッチを買ってきてくれた。余った分は、お土産にさせてもらった。

荷物を整理し、電車に乗って出かける。上野の東京都美術館の展覧会チケットがあったので、母と娘と観に行った。

桜はまだまだこれから、といった様子の上野。しかし春休みということもあって、展覧会の入口は行列だった。さすが私たちの大好きな印象派。

娘の目線は人々の足に阻まれて見えなそうだった。たまに抱っこしながら見た。私が首から下げている音声ガイドのボタンを押したがったから、「次は7ね」など伝えながらお願いした。

一度娘が「疲れた」と椅子を探しているときがあって、それならば、と私が自分でボタンを押すと「え、お母さん押しちゃったの...〇〇ちゃんが全部押そうと思ってたのに...」ととても悲しそうな顔をした。

展覧会グッズは買わないつもりだったのに、お土産コーナーの出口に作品が缶バッジになったガチャガチャがあって、思わず300円を投入してしまった。ひとつは娘がもらったから、ひとつは母にプレゼント。

公園の出口にあるカフェでお茶をして、母と別れて電車に乗る。「小さい音でYouTube観たい」という娘に、スマホは私が使うから、と紙とペンを渡した。ハートのかたちを折り、「これは〇〇ちゃんが踊る発表会のチケットってことね」と娘が言う。「はいこれ、お母さんの」と渡されたハート型のチケットには、表に赤いペンでハートやリボンが描かれ、内側には「〇〇がでます」と書かれている。私に文字をひとつひとつ聞かなくてもするする書けるようになっている。

「いっぱいつくらなきゃ!」と張り切り、たくさんハートを折ってはペンで書き込んでいた。私は仕事の返信メールを打っていた。

「パンフレットもつくらなきゃ」今度は折らずに四角のままの紙を使い、自分の名前やお友達の名前などを書き込んでいた。演目は「ばらのはなにちょうちょがとまあた」というらしい。「とまった」じゃなくて、「とまあた」なのがいい。

「お父さんのパンフレットも書く!」と始めようとしたところで、次が私たちの最寄り駅だと気づいた。お昼寝する間もなく着いてしまった。

自宅に帰ると、やがて夫が帰ってきた。パンフレットづくりに集中していた娘は「おかえり」や「ただいま」より先に「お父さん今パンフレットつくってるの!もうすぐ始まるから!」と踊るスペースへ案内して、舞台が始まった。

「まもなく、始まります。お席についてお待ちください ブー」っというと、娘が歌い踊り始める。他のお友達が出てくる第二部や第三部では、娘は舞台袖で歌っている。歌っている娘を見ると、手の動きで空白の舞台を見るよう何度も促されて、笑った。


2024/3/29(金) からあげ定食を食べたら、ちゃんと歩いていける感じがした

今日も小鳥のさえずりで起床時間を知らせる目覚まし時計で目を覚ました。目覚ましを止めたが、「ピピ」と鳥のさえずりのような音がする。娘の寝息だった。

窓の外では雨粒がバタバタバタと窓に打ち付けている音がする。予報通り、昨晩から天気は荒れているようだ。

部屋で仕事していると娘が膝にやってきた。「お母さんと天使になってお空に飛んでいきたいぐらい大好き」と言ってくっつく。ふんわりとした気持ちになる良い表現だなぁと思う。一緒に寝よう、と誘われて布団に入ると、私だけ寝ていた。娘に起こされて、ぼんやりした頭で起き上がる。

しばらくすると、雨と風が窓に打ち付ける音も弱まった。外を見ると、空も明るくなってきた。お昼ご飯を食べに出かけようか、と思うが、娘と相談して家で食べることにする。

駅前のお店で買ってきた中華麺があったから、ラーメンをつくる。実家でラーメンを食べるとき、いつもたっぷりの野菜炒めが乗せてあって、だから今でもラーメンは野菜を炒めたものを乗せる。お腹があたたまった。

お昼ご飯を食べると娘が膝の上にやってくる。「お母さん目瞑って」と言われて目を瞑ると、娘が私の顔の前で手を動かす。「何してるかわかった?」と聞かれる。今度は娘が目を瞑って私が手を動かす。途中でうふふふと笑い出す。「薄目開けてた!」。なんだ見えていたのか!しばらく交互に「なにをやっているでしょうか」ゲームをしていた。

ちょっと休憩、とスマホに目をやると「ダメこっちむいて」と言われる。そろそろ食器を洗いたい。立ち上がりたい。私がムズムズしだすと娘が口を開けて涙を流し始めた。「どうして、さっきまで楽しかったのに」。娘はもっとずっとこのゲームをして笑い合っていたかったらしい。

一緒に動画を見ることにする。すぐに泣いちゃう娘は眠いのだろう、と思ったが、動画を見て寝てしまったのは私だった。なんだか今日は眠い。

出かける時間が近づいて、準備をして車に乗る。外はすっかり温かい。

Oちゃん親子とスーパーのたいやき売り場で待ち合わせて、たいやきを食べた。子どもたちは期間限定の桜あん入りを食べている。白玉団子の入っている部分をかじらせてもらった。

そのままスーパーの向かいにあるバレエ教室へ。今日は先週お休みだった子たちも元気になって参加して、とてもにぎやかだった。

帰り際、寄らなくてもいいのに習慣で100均に寄ってしまい、うっかり娘に「のびーるのびーる粘土」を買うことになった。どうして必ずしも買わなくていいのに買ってしまったのだろう...と悔しい気持ちを抱えながら「大切にしてね」と店を去る。車が家に到着すると娘が「お母さん、大切に持ってたからね」と言う。言われた通りに大切にしている、とアピールする娘の言葉に、「う、うん」となった。

夫が外食でいない今日、娘と近所のY食堂さんへ行く約束をしていた。夕方になっても外は温かく、娘は上着を置いてでかけた。

Y食堂さんの引き戸を開けると、親子が座っているのが見えた。と思ったらYさんとMちゃん親子だった。そもそも私がY食堂に行き始めたのは、Yさんが「親子で行ってきた」とインスタで投稿していたのがきっかけだったのだ。思いがけず会えて嬉しくなる。

久しぶりの再会が嬉しく、Yさんとおしゃべりする。娘が手で私の口をつまんだ。「しゃべらないで」。自分と話してほしいらしい。やがて先に来ていたYさん親子を見送り、私たちも鳥のからあげ定食をいただいた。

「おいしいね」と娘と顔を見合わせながら食べる。娘は味噌汁をすすり、おかずに手をのばし、唐揚げをときに箸と左手で支えて口に運びながら、なにもかも、きれいに全部食べた。

最後はごはんの器を「全部さらって」と渡してくる。最後の一粒まで残さずに食べたいらしい。食堂のおばちゃんにそれを伝えると「子どもにならなんでもおまけしちゃうから言ってね!」と言ってくれた。今日も「子どもの分はとりわけ」と二人で1人分の値段。ありがたすぎて頭が下がる。

おばちゃんの笑顔に見送られて店を後にする。心のこもった、お味噌汁とごはんとおかずと小鉢のついた、栄養たっぷりのおいしい食事をいただいて、ほっとして心が整う。春の嵐のせいかざわざわしていた心も落ち着いた。ちゃんと歩いていける感じがする。あぁまた来よう。

娘と手をつないで帰る。「おいしかったね」「また来ようね」。

帰り道、池のある空き家の前を通ったらゲッゲッとカエルの鳴く声がした。


2024/3/30(土) 四葉のクローバーがみつからなくても

少し前まで、朝は足元にストーブがないと居られなかったのに、今朝はすっかり部屋全体が温かい。

夫と娘は近所のA山に登りに行った。私は洗濯物などを済ませる。

近所のUハウスで中央アジア雑貨の販売イベントをしていたから、A山帰りの夫と娘と待ち合わせをした。オープンしたばかりの時間に到着したはずが、すでにたくさんの人で賑わっている。お友達とおしゃべりして、カラフルな色や柄であふれたブースを覗いた。おやつとハチミツを買った。

そのまま私は駅前のお店へ。お友達がフリーマーケットをしていた。いちご柄や赤いチェック柄などのかわいい端切れセットを譲ってもらう。「わからないにまるなげ。」と手書き文字がプリントされた小さな小箱も買った。領収書を入れておこう、と思うのだが、箱に「まるなげ」したら永遠に開かないでおきそうだ。

家に帰ってお昼ご飯をつくる。娘と夫はお店屋さんごっこをしていた。お客さんとして加わろうとしたら、行列に並ばされた上に、「変な人」としてあしらわれた。

「かなしい」と言っていると娘がやってきて。「お母さんいやだったね?大丈夫だよ。お父さんもこう言ったらお母さんが笑うかなと思って言っちゃっただけだからね」とよしよししてくれた。本気で悲しかったわけではないのに、娘の優しさに甘えていたら、少し涙が出てきた。

昼ご飯を食べると、夫は庭に置いていた木材を片付け始めた。DIYに使っていた木材の切れ端を、ずっと段ボールに入れたまま置いていたのだ。「温かくなったら片付ける」と言っていた、その温かい日が今日やってきた。

夫が木材を電動のこぎりで小さく切り分ける。切られた木片は、娘がビニール袋に詰める。2人で手分けして進めていた。私は部屋を掃除する。

片付けを続ける夫を残して、娘と二人、はらっぱのイベントへ向かった。あまりにも日差しが強かった。娘とトイレに行って、それぞれ下着やブラウスを脱いで身軽になる。

はらっぱの芝生。娘がぺんぺん草に囲まれた、良いスポットを見つけてそこに二人で座る。娘がクローバーを見つけた。「クローバーには四葉があってね。四葉のクローバー見つけたら幸せになれるんだってよ」。娘に言うと「よっつ、よっつ...」と探し始める。すぐに手を止めると「でももう私たちは毎日幸せだよね」と娘が言った。その通りだなと思う。

夕方になると、日差しもなくなり、過ごしやすくなった。向こうの空の建物の間に、おひさまがオレンジ色ににじみ始めた頃、はらっぱをあとにする。

家に帰って、夫も一緒に隣町へ。今日は花火があるらしい。会場付近は混み合っていた。駐車場はいっぱいだった。娘と私は会場でおろしてもらって、夫は離れた駐車場へ停めに向かう。キッチンカーのたこ焼きに並んでいるうちに、花火が上がり始めた。

光の粒が空に放たれ、ひゅるひゅると昇ると、ドンと大きな音がして、ぱっと開く。

「きれいだね」「おっきい音したね」「今のはカラフルだったね」「ハートだ!」娘と顔を見合わせながら見た。

スマホを向けて写真を撮ると、「〇〇ちゃんも撮るね」と娘も木でできた「ケータイ」を構えた。

花火は連続の打ち上げで大楕円を迎える。ちょうどその頃、たこ焼きの番が回ってきた。2パック買って、大通りまで歩き、夫と合流して帰る。

たこ焼きをおかずに、ご飯を食べる。たこ焼きだけじゃお腹がいっぱいにならない夫はレトルトカレーを温め始めた。ろくに料理が作れなかった。こんな日は申し訳ない気持ちになってしまう。

でも娘が「私たちって幸せだね」と言いながらたこ焼きを頬張っている。四葉のクローバーがなくたって幸せな私たちだ。手料理のない日があったって、まあいいじゃないか。


2024/3/31(日) 体力より気持ちがいつも先

朝からたっぷりふわふわのスクランブルエッグをつくった。朝ごはんは前日の残りもので済ませることが多くてろくにつくらないのだが、昨日ご飯をつくれなかったのが心残りで、罪滅ぼしのように、贅沢なスクランブルエッグをつくった。ついでにナゲットとミニトマトまで皿に載っている。夫と娘が目を輝かせる。

東京からやってきた中高時代の友達と、その子どもたちがわが町までやってきてくれた。

東京から引っ越してもうすぐ6年。コロナなども落ち着き、ようやく遊びにきてもらうことができた。

駅で待ち合わせ。Mさんのお店でビリヤニを買い、Yさんのパン屋さんでパンを買う。「いらっしゃい」「いってらっしゃい」「またね」そんな風にお店の人に声をかけてもらえるこの町で暮らしてることを豊かだなと思う。

そこからA山の登山口へ向かった。春を通り越して初夏のような気候で、歩いていたら汗が吹き出してくる。

友達の子どもの男の子2人は「つかれた」「お腹空いた」などと言いながらだらだらと歩く。でも「上にアスレチックあるよ」と言うと今度は「わぁー」と駆け上っていく。後ろの子が遅れていると気づくと「迎えにいってくるー!」とせっかく登った道を駆け下りて行く。体力より、気持ちが先なのだなぁと思う。

娘はそんな彼らを気にせず、淡々と先を進んでいく。ようちえんの活動や日頃の散歩で歩き慣れたものだ。

去年はこの時期満開だった桜も、今年はまだちらちらと咲いている程度だった。だけど、夫が昨日散歩して「全然咲いてないよ」と言っていたほどではない。昨日今日の温かさで一気に開花が進んだのかもしれない。

「あの階段を登ったほうが近いからね」娘が指差す階段を登ると、いよいよ頂上は目の前だ。疲れた様子を見せていた男の子たちも、かけ登っていく。

木々の向こうに海が見える。海の手前は薄いエメラルドグリーンのような色で、向こうは濃い青の2色に分かれている。A山の頂上の景色を、私はいつも天国のようだなと思う。

頂上に着くと、まずは木陰をみつけてピクニックシートを広げた。ビリヤニやハンバーガーやパンを、思い思いに取り出す。娘と同い年のTくんは、ママお手製のお弁当を開いて歓声をあげる。おにぎりを4つ食べ終わる頃には、すっかり元気を取り戻し、習っている空手の型をみんなに披露してくれた。

「展望台に行ってみよう」と声をかけて、ピクニックシートを畳む。展望台に登ると、子どもたちは望遠鏡を取り合いながらきゃっきゃとしていた。

ローラー滑り台に乗って、アスレチックがあるところまで降りる。子どもたちはそのままアスレチックをするかと思いきや、ローラー滑り台を何度も繰り返した。娘は「いかない」という。いつも滑っているからいいのだろう。「〇〇ちゃんはみんなと話したい」。自分は子どもチーム、というより女子チーム、という認識のようだ。

7,8度目の滑り台を終えて、アスレチックに向かって走り出したボーイズを、大人たちと娘で追いかける。誰かがトイレに行きたい、水を給水したい、と言うと、娘が「教えてあげる」と、「カモンカモン」という様子でひじを曲げ、手をパタパタと内側に折り曲げて案内していた。

おやつを食べて、山を下る。娘も男の子たちも下り道では一体となって走っていく。「遅いよー大人たち!」と言いながらこちらを見上げている。

山を下ると足がプルプルした。日頃の運動不足のせいだ。「海が見てみたい!」との友達のリクエストで、疲れた足にもう一度気合いを入れて、今度は海岸を目指す。

風が強く、波の大きい日だった。白い波が何かをつかむように手を伸ばし、水面に打ち付けると、無数のヘビのような白い頭がわーっとこちらに伸びてくる。生き物のような動きが面白くてじーっと見入ってしまう。

男の子たちは、石を拾っては、波に向かって投げ込む。何かと戦っているかのようだ。

娘は海岸の石を積み上げて部屋をつくり、Mちゃんに遊んでもらっていた。

駅にみんなを送る。「また来週もピクニックしたい!」Sくんが言う。「また遊びにきてね」そう言って手を振り別れた。

帰宅すると娘は夫とお店屋さんごっこを始めた。娘が料理を作り、夫がお客様対応をするお店屋さんごっこが、最近の娘の一番好きな遊びだ。

ちょっとすると夫が散歩に行くと言う。娘にも一緒に行くか聞いてみたが、今日はすでにたくさん歩いて疲れている。夫にしがみついてなかなか離れない。引き離すと、夫はドアを開けて出ていった。「お父さんに会いたいーやっと会えたのにー」と玄関でしばらくわんわん泣いていた。

しばらく「会いたいー会いたいー」と泣いていたが、やがて落ち着きを取り戻し「ひとりでお店屋さんする!」とお店屋さんごっこを始めた。

私は夕飯づくりに取り掛かる。ちゃんと料理をするのは久しぶりだ。今日の一日とは関係なく、ちょっと心がソワソワするできごとがあったのだが、玉ねぎを刻むと無心になれる。手を動かすのはいい。しかもつくったものはちゃんと食べられる。自分のケアとして料理に向き合う時間が必要だなと思う。

ハンバーグができた。ポテトサラダには、昨日友達にもらったフェンネルを入れる。味も見た目もちょっとおめかししたポテトサラダになって、娘が「おしゃれ!」と言ってくれた。


2024/4/1(月) 春雷とチューリップ

1年の中で、冬から春になる季節が一番好き!少なくとも7年前まではそう思っていた。だから3月に結婚式をあげたのだ。何もかもが新しくなっていく感じにワクワクしていた。だけど、今はこの季節は、ソワソワざわざわと心が揺れる。無邪気に好き!と言えなくなってしまった。

新年度。なんとなくカーテンの向こうの光も新しい。

朝ご飯に昨日の晩作ったハンバーグを温めて出す。娘と夫が「おいしいなぁ」と食べる。「ハンバーグっておいしいよね」と言うと「ハンバーグだからおいしいんじゃないよ、お母さんが作ったハンバーグだからおいしいんだよ!」と娘が力説してくれて私は照れた。

今日はいつ起きたの?という話をする。娘は夫より先に起きて、私の部屋に来ていた。しばらくするとまた寝室に戻って、やがて夫と一緒に起きてきた。「〇〇ちゃんは明るくなるとパッと目が覚めて、ママに会いたいって思うんだ。それでママの部屋に行くの」。

洋服を着替える。着替えながら、「〇〇ちゃんはみんなの絵を虹にできるんだよ」と娘が話している。魔法が使えるらしい。「でもそれはお母さんとお父さんにだけのヒミツ。他の人にはお・しぇ・え・な・い!」「おしぇえない、んだ〜」。もうだいぶ少なくなってきてしまった言い間違い。「おしぇえない」という言葉の響きを味わう。

部屋でパソコンを開いていたら、いつの間にか私の足元に毛布が広がっていた。階下から持ってきたらしいぬいぐるみや、宝箱もある。「ここ〇〇ちゃんのお部屋ってことね」。宝箱を開くと、おばあちゃんに買ってもらったネイルを塗り、これまたおばあちゃんにガチャガチャで買ってもらった子ども用アイシャドウを目の周りに塗り始めた。「どう?かわいい」と聞くのでうんうん頷く。

やることはいくらでもあるけど、どこかのタイミングで散歩にも行きたいなと思う。すると雷がゴロゴロとなる音が聞こえた。カーテンを持ち上げて窓の外をのぞくと、雨も降っている。洗濯物を取り込む。

しばらくすると「下の階で仕事して」と言われ、パソコンを携えてリビングに移動した。
「〇〇ちゃんはワークショップするね。雨の形をつくるワークショップ」。画用紙を雨粒のような形に切り、ノリで重ねるようにくっつけたものができていた。

「ワークショップ来て」と娘に言われるが、取り掛かっていることが終わらない。「ちょっと待って」「なおこちゃんにメールしよう。ワークショップ来てください、ピッ」と娘が言う。「ちょっと待って、送信」。「来てきてきて、ピッ」「まだ行けません、ピッ」。そんなやり取りを何回かしたが、最後には私が折れて、娘のワークショップ会場に赴いた。

「こちらのペンで紙に書いてくださいね」とペンと紙を渡されて、ドロップ型を描く。ハサミで切る。「色塗りたいんですけど」と言うとペンを出してくれた。「クレヨンがいいです」と言うと「あークレヨンはないんですよね」と断られた。ペンで塗る。ノリで重ねるように貼ると紙のオブジェができた。「いいですね」と褒めてもらう。

私がワークショップを退室すると娘は「〇〇ちゃんもやろう!」と、紙を切ったり色を塗ったりしていた。「見て!」と持ってきた紙のオブジェは、さっきよりたくさんの紙が重なって花のようになっていた。

お昼ご飯を食べる。昨日のお昼に買ったパンの残り。それからキャベツとツナでスープを作った。「パンだけでいい」と言っていた娘も、キャベツが甘くておいしかったからかスープをぺろりと平らげた。

食後に娘と一緒に動画を見ていたら、眠くなる。「もうおしまい!」と閉じて階段を昇り、寝室で布団に入った。眠すぎる。暁を覚えない、春眠、というやつだろう。「〇〇ちゃんも一緒に寝る!」と置いていかれたことにちょっと泣きながら娘がやってきて、隣の布団に入った。

目が覚めた。1時間ぐらい寝ただろうか。隣の娘は額に汗をかいて目を閉じている。私が動くと目を覚ました。

夕方17時になったところで、ようやく散歩に出かけた。駅と銀行で用をこなし、公園へ。ご近所の線路沿いの道にチューリップが並んでいて、思わずにっこりしてしまう。チューリップが並んださまってなんてかわいいんだろう。

公園では中学生の二人組がおやつを食べながらしゃべっていた。娘はブランコを目指して走っていく。「隣座って」と言われて、隣のブランコに腰掛け、昨日友達にもらったおまんじゅうと最中を半分こにして食べた。

ブランコを押す。足を使ったら自分でこげるようになるよ、と教えると、「えいっえいっ」と足を前に後ろに動かしチャレンジしていた。すべり台をすべったり、鉄棒につかまったり、行ったり来たりする。

オレンジ色に染まってきた向こうの空に、飛行機雲が見える。テグスのようにキラキラした白い線が下に落ちていく。その模様は羽のようにも見えた。

「どうしてそんなかなしい顔しているの?」娘に言われる。ぼーっとしていた。「にこっとして」と言われて、目を見開いて口の端をあげた顔にすると「こわいー」と言われる。素直ににこっとできずに、いつもちょっとこわい顔をしてしまう。「にこっとして」もう一度リクエストされて「にこっ」とすると「かわいい〜!」と娘が言った。

「手つないで帰ろ、〇〇ちゃんは本当はこの道ちょっとこわいんだ」と言われて、手をつないで帰る。帰りにまたチューリップの並ぶ道を通ったら、自然に頬がゆるんだ。


2024/4/2(火) おにぎりを握って電車に飛び乗る

絶対早く起きなきゃ、と思って寝た日は、必ず目覚ましより前に覚醒する。一度目に時計を確認すると1時半、そして二度目は2時半だった。目を閉じて、3時の目覚ましで起き上がる。

リュックに、1日分の着替え、化粧品、パソコン、充電機器類、などを詰める。今日から久しぶりの出張取材だ。

朝ご飯は途中で食べようと思う。炊飯器に余っていたご飯をボールに取り出し、わかめふりかけをかけて混ぜ、ラップに乗せて包み、ぎゅぎゅっと握った。

ちょうど出掛ける時間の頃、夫が起きてきた。「おはよう!よろしくお願いします」と階段を駆け下りながら挨拶して、リュックを背負い、握ったおにぎりと水筒を掴んで家を出る。

娘が生まれてから泊まりの取材ははじめてだ。嬉しい。わくわくしながら電車に乗り込んだ。

電車と新幹線に揺られて到着した場所で、とても心動く良い取材の一日を過ごすことができた。

宿泊場所のロビーに、映画『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』のポスターがあった。赤い襟付きのワンピースを着て、ぬいぐるみを持ってこちらを見ているロッタちゃん。うちの娘と同じ歳の頃だな、と思う。かわいいのかたまりだな。

以前夫と娘が2人で義実家に泊まりに行ったときにテレビ電話をしたら「お母さんのお顔見たら会いたくなっちゃった」と言っていた。だから連絡はしない。彼女は大丈夫。


この記事が参加している募集

育児日記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?