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やめられへん、もどられへん[2024/5/1(水)〜5/7(火)]



2024/5/1(水) 5歳の知ってるいい加減

3時前に目が覚めた。部屋をそっと抜け出し、パソコンとノートを携えて、つま先で階段を昇る。義実家では、夫のお姉さんの部屋を仕事部屋にさせてもらっている。お姉さん、といえど私と同い年。私も子どもの頃使っていた懐かしい学習机のある部屋で、パソコンを開く。

順調に朝のルーティンと仕事をこなしていたら「ママー」と階下から声が聞こえた気がした。まだ寝るだろう、と待ってみることにする。

しばらくすると階下から「ママは?」「2階じゃない?」と夫と娘の声がはっきりと聞こえてきた。階段を降りる。トイレのドアが開いている。「ママァー!」と微笑む娘はトイレに座ったところだった。

「起きたらママが横にいなくてママって呼んだんだけど来なかった」。ごめんね、聞こえてたけど眠りに戻るかと思って待ってたのだ。

娘はすぐに着替え始めた。襟付きのブラウスに、青いチェックのワンピース。朝ご飯に今朝も幻のパン屋のパンをいただいた。

予定時刻通り家を出発。香川県へ。夫とじいじが順番に車を運転してくれた。娘と「瑠璃色の地球」を歌う。「あなたがそこにいたから 生きて来られた」という大人っぽい歌詞を娘が朗々と歌い上げているとニヤニヤしてしまう。娘が「もう一回!」を繰り返して、結局3回歌った。

お昼前に高松へ到着。老舗のうどん屋さんへ。お昼前だからか、平日だからか、そこまで並ばずに入ることができた。娘と並んで座り、うどんを食べる。半熟卵の天ぷらを食べる娘の口の周りが黄色くなる。うどんのおだしが、しみじみおいしい。

高松に行くなら、と行ってみたかった本屋さんへ。私と夫はたっぷり本を見て回る。娘はお店の人が「これで遊んだら」と手渡してくれたパズルを、ばあばとしている。

本屋さんの店内には、持っている大好きな本も読みたいと思っていた本も、新しく読みたいと思える本もたくさんあった。嬉しすぎて胸の横でこぶしを握り、ずっと「ワクワク」という体制で棚の間を見て回っていた。ジャンルも幅広く、とても充実している。

娘がパズルに行き詰まっている「こうやって端っこのから見つけたらいいんだよ」と角のピースをはめると「〇〇ちゃんは順番にとなりのを見つけたいの!」と怒ってピースを元の塊の中に戻した。

各々好きな巡り方で回遊していて、たまたま出会った夫に「ここ一生いられるわ」と言うと「いられるね」と返ってきた。

出会ったばかりの頃「野球少年」という印象が全てだった夫が、本が好きだと知ったのはしばらく後で、それは大変良い誤算だったと思う。

娘のパズルが完成したのを見計らって、本屋を後にすることにした。たんまり本を抱えてレジに向かう夫をよしよしと眺めながら、私も負けじとたんまり本をレジに積んだ。『これからの本屋読本』をレジ打ちしながら「これにうちも載ってますよ」と店主さんが教えてくれた。少しお話した。ここにこられて嬉しい、と伝える。

2件目のうどん屋さんに向かう。向かう道はアーケードになっていて、こんな雨の日もありがたい。肉うどんが有名なお店で、ボリュームがあり、ハーフサイズでも1玉程度あった。娘は私のうどんからほんの少し取り分けたもので十分だったようだ。

雨だから公園散策もいまいち。どうしようと思って調べたところで「おもちゃ美術館」なるものを見つけた。木がふんだんに使われた施設の中で、たくさんのおもちゃで遊ぶことができるらしい。アーケードの中を歩いて向かう。

木でできたおもちゃを中心に、見たことのないおもちゃがたくさんあって、大人も楽しい。夫は一ヶ月に1人か2人しか成功しないという10連けん玉を成功させて、けん玉名人から認定証をもらっていた。

2時間近く遊んで、駐車場へ向かう。娘はアーケードを歩きながら「“〇〇ちゃんと天使が星空へ消えていった、銀の光”って歌を歌うね」と歌い始めた。なかなか長い歌だった。「〇〇ちゃんはいろんな言葉を知ってるんだね」「うっとりしちゃった」「おんなじ言葉ばかりにならないのがすごいね」「やさしい気持ちになるね」みな口々に感想を述べた。

車で旅館へ向かう。散々遊んだ娘は眠そうだ。一眠りしようと座席に座った娘に声を掛けると、私の腕に腕をからませたまま眠った。

旅館で温泉に入り、夕ご飯。もうこれ以上は食べられない、というぐらい、たらふく食べた。シメのうどんを食べきれず残してしまったのが心残りである。

夕ご飯から戻ってくるとお布団がひかれていた。「なんでー!」と娘が驚いている。私も久しぶりで、そうだった!とハッとする。カバンから洋服を出しっぱなしにしたまま出ちゃったな、となんとなく恥ずかしい気持ちになる。隣のじいじとばあばの部屋に行くと「お布団があってびっくりした」と娘は報告している。

ストレッチをする。みんなお腹がパンパンだ。娘は軽々とブリッジや倒立をしてみせる。「〇〇ちゃんはお腹パンパンじゃないの?」と聞くと、「〇〇ちゃんはいい加減にした」と言う。腹八分目ぐらいでやめておいたらしい。大人はつい、もったいないと思って詰め込んでしまうが、好きなものでも潔く残す、それができるのがすごい。そんな話をしていると娘が立って歩きながら「いい加減」についての講釈が始まった。

「他に何か質問はある?」と聞かれるので「ハイ」と手を上げ、「つい仕事を引き受けすぎて大変になっちゃうんですけど、どうしたらいいんでしょう」と質問する。「それは大変だって言えばいいんです」と言われる。その通りだなと思う。伝えなければ誰にもわからない。

「毎日続けたいことを続けるにはどうしたらいいんですか?」という夫の質問には「やるって決めることと、いつやるか決めることです」と答えていた。その通りすぎる。

的確でクリアな娘の回答にほろ酔いな大人たちは心から感心しながらいた。「もう寝ようか」というとあっさり「じゃあね」とじいじとばあばに挨拶して部屋に帰った。加減がわかっている。娘と明日朝早く起きて温泉に行く約束をして、寝た。


2024/5/2(木) UFOキャッチャーから白いトラ

旅先で目が覚める。間仕切りを閉めて、窓際でパソコンに向かっていると、6時にエーデルワイスが流れ始めた。全館のアラームだろうか。もっとゆっくり寝たい人もいるだろうに早すぎるのではないか。

エーデルワイスが流れていることも知らずによく寝ている夫を置いて、6時過ぎに起きてきた娘と温泉に行く。露天風呂がとてもよかった。青空で小鳥が鳴き、向こうには海が見え、甘いジャスミンのような芳香がした。

朝ご飯を食べて出掛ける準備をする。娘は昨日のみんなの前に立って講義をするのがよほど気持ちよかったのか、短い時間の合間を縫って講釈をたれていた。

車に乗って出発する。水族館へ。小さいながらも老舗の水族館のようだ。長い脚で歩き回るカニも、手足を使って泳ぐウーパールーパーも面白くて、ひとつひとつの水槽に見入ってしまう。

イルカショーでは、かわいいイルカたちのジャンプを楽しみに見ていたら、テンションの高い“世直し侍”となる人が出てきて驚く。イルカショーの案内をしていたスタッフをばっさり切ったかと思うと、観客にバケツの水を掛ける素振りを見せたり、ラップを歌ったり、かと思えばイルカに乗ったりする。あまりのキャラの濃さにイルカ以上に目が釘付けになってしまった。

水族館からまた車に乗り、途中でうどんを食べる。この旅行で3回目のうどん。カレーうどんを娘と分けようと大盛りにしたらあまりにも多かった。夫に助けてもらう。

うどん屋さんの駐車場にはくじゃくとにわとりが入った小屋があった。鑑賞用の鳥を飼うなんて、余裕のあるうどん屋に違いない、と夫と話す。娘はくじゃくに「羽をひらいてみせて!」とお願いしていたが、くじゃくはじっとしていた屋根の上からぴょんと地面に降りて歩いて見せたりしてくれたものの、羽を開くことはなかった。

再び移動し、動物園へ。車の中で娘は大阪弁のレッスン。夫が大げさな節回しをつけて娘の名前を言うのがおかしくて、みんなで笑った。

家族経営の動物園、と聞いていたが、思いの外広く、見どころも多い。名物はホワイトタイガー。餌をあげて触れ合える動物園で、バケツに入った餌を持って歩き回っている人も多かった。ヤギのエリアに近づくと、餌をくれると思ったのか、「メェエエエエェ〜」とヤギが合唱し始めた。子ヤギも老ヤギも、みながおのおのの声の高さでこちらを向いて鳴いている。「何も持ってないんだ、ごめんね」と言いながら立ち去る。

帰り際、娘が動物園備え付けのUFOキャッチャーで、ホワイトタイガーをとってほしい、とじいじにお願いする。じいじはUFOキャッチャー名人らしい。じいじと夫が協力して操作する。500円で6回プレイできるコースを選択すると、少しずつぬいぐるみを持ち上げて動かし、最後の1回でコロンとホワイトタイガーは転がり出てきた。私はUFOキャッチャーで何かが取れるところを人生ではじめて見て、「うわー」とか「へー!」とか言いながら娘と喜びを分かち合った。

娘は早速ホワイトタイガーに名前を付け、持ってきたライオンのぬいぐるみと一緒にかわいがっていた。

水族館と動物園、どちらも手作り感のある施設だった。大きな整備されたテーマパークも楽しいけれど、地域の手作りの施設を訪ねるのも楽しい。夕日が海に沈んでいき、空の色が刻々と変わっていくのを車の中から眺めて帰った。


2024/5/3(金) 眠気の隠し場所

朝早く、夫が起きて出かける準備をしている。高校時代の友達とゴルフに行くらしい。娘も起きてきた。「お父さんまだいるよ」と言うと「会いたい」と言う。出かける前に夫が顔を見せにきて、娘も布団から出ると玄関まで見送りにいった。

朝ご飯を食べると、ばあばに娘をお願いして仕事させてもらう。
光のごとく時間が過ぎ、あっという間にお昼になった。

階段を降りると、娘が「ママ〜抱っこ」と甘えてくる。「ママに会いたくなっちゃったんだ」という娘を抱っこする。

お昼ご飯はワッフルを焼きながら食べた。液をワッフル型に流し込んで、蓋を閉じ、ダイヤルで時間を合わせるとピピッという音とともに焼き上がる電動の機械。一度に2枚焼けるから、最初は私と娘は、次はじいじとばあばが、と交互に焼き上がったものをいただいた。

ジャムとチョコレートとシロップと、6種類ぐらいのものがある。チョコレートをかけて、「次はこれ塗って」と言われたらりんごジャムを塗り、娘は1枚に3種類を乗せて食べた。

2巡目を焼き始めると「まだあるの?やったー!」と娘は両手を広げて喜んだ。人は嬉しいとき本当にバンザイをするんだなと思う。

ワッフルは最初は上側と下側が分離してしまったりしていたが、だんだん機械も慣れたのか後半はうまく焼けるようになってきた。

食後、早起きした娘は眠たそうである。「ゆらゆらしてあげようか?」というと「えぇ?うん!」とうっとりした顔で答えた。抱っこしてゆらゆらする。娘は笑っている。「そんなんじゃ眠れないから目を瞑って寝る気を出してください」と言う。

ソファに座って、横抱きの体制にする。にやにやと笑っている。「〇〇ちゃん寝るつもりある?」と聞くと「えっとーー」と笑っている。嘘がつけないようだ。「寝る気がないのでおしまいでーす」と体を起こした。

「トイレ行きたいとか眠たいときは来ていいよ」と娘に告げて、再び仕事部屋へこもる。途中娘がおやつを渡しに来てくれた。早速袋を開けてレーズンサンドを食べていると、「お父さん帰ってきたよ」と声が聞こえた。夫が友達の車で帰ってきたようだ。

「お茶してく?」ばあばが旧知の仲の夫の友達に声をかけて、友達は家にやってきた。じいじとばあばとも話が弾んでいる。これからゴルフに参加した仲間で飲み会があるらしい。夫も当然行ってくるだろうと思ったら、断っていたそうだ。「行くのかなと思ってた」と私やばあばが口々に言う。「〇〇ちゃん、行ってきてもいい?」夫が娘に聞くと娘が頷いた。「じゃあ...」と夫は準備をして友達の車に乗り、再び出かけて行った。

私はもう一度仕事に取り掛かるが、パソコンがフリーズした。働かせすぎたかもしれない。諦めて階下に降りる。

娘が大変ハイテンションで大きな声を出している。「〇〇ちゃん、眠たいでしょ!」と言うと「バレちゃった〜!」と大きな声で笑う。「ここにもここにもここにも“眠たいって書いてあります!」と娘の頭や肩や背中をペタペタと触りながら言う。「眠たいの、お尻の穴の奥に隠してたのにバレちゃった〜!」とお尻を押さえた。すごいところに隠してたんだな。

眠たそうな娘とお風呂に入る。湯船で寝てしまうかと思いきや、きちんと自分で体を洗い、湯船に浸かってあがることができた。

夕飯、白米が出てきて娘が「お米が光を浴びてキラキラ輝いてる〜!」と喜ぶ。我が家は胚芽精米なるちょっと茶色いお米を毎日食べているものだから、娘は真っ白なお米が出てくると喜び、大変良く食べる。もう眠かろう、と少なめに盛っていたのだが、「もっと食べる!」と2回おかわりした。

歯を磨いて布団に入る。娘はあっという間に寝た。私は布団を這い出して、強制終了したパソコンのスイッチをオンしてもうひと仕事。


2024/5/4(土) やめられへん、もどられへん

義理の実家をぐるりと囲む庭には、今が盛りと紫や白の花を開いたツツジ、緑色の葉が風に揺れるイロハモミジ、天使が踊っているような花が咲いたエンジェルスイヤリングなどがある。その他にも孫が生まれるたびに植えられた、ハナミズキやブラシの木、モッコウバラなど、どれも、じいじがこまめに手入れしているものだ。

庭に出て、植物たちを愛でる。じいじが外へ回って、道路に落ちたツツジの花を拾って立ち上がる。娘が柵越しにその姿を見ながら「じいじが育ってる」と言う。たしかに少し低いところから立ち上がったじいじは土から生えてきたようにも見えて、ばあばと笑った。

お昼ご飯を食べて、車に乗って20分ほどのところにある植物園へ。薄ピンク色のシャクナゲが満開だった。バラも咲き始めていた。庭園を散歩する。池にはおたまじゃくしが泳いでいた。ピンポン玉ぐらいの大きさで、色はグレーだ。ウシガエルだろうか。すっと飛び出していくのを見守るが、苔の下にもぐるとしばらく動かないでじっとしている。

ハーブコーナーにはレモンバームが咲いていた。葉に顔を近づけても匂わないが、葉を指でこすって鼻に近づけると、レモンに似た芳香がする。

「レモンの匂いするよ!」と娘に言うと、葉をこすり「ほんとだ!」と言う。「いいにおい〜」と何度も嗅いでいる。様子を伺うと、葉をこすった指で、鼻をつまんでいる。「〇〇ちゃん、鼻をつまむんじゃなくて、鼻に指近づけるんだよ」とやってみせると、「ほんとだ!こっちのがにおいする」と娘もおかしさに気づいて笑っていた。

大きな池の近くでみんなでベンチに座り、カントリーマアムをおやつにする。気持ちのいい場所だった。亀がスイスイとこちらへ泳いでくる。

袋を開けて出てきたカントリーマアムは私が知っているより2周りぐらい小さくなったように感じる。そう思っていたら、夫も同じことを言っていた。

家に帰り、夕方。部屋にいると娘が「鼻の穴大きくなってないよね?」と半べそをかきながらやってきた。鼻の穴をいじっていたところ夫に見つかって、「鼻の穴、大きくなってるよ」と言われたらしい。「〇〇ちゃんは変わってないと思うんだけど」洗面所で確認してきたらしい。「どう?」と顔を近づけてくる。

「うーん、大きくなってるかも?」。あまりにかわいくて面白いのでそう言ってしまうと、「なってないー!」と本格的に泣き始めた。「ごめんね、冗談だよ。お母さんはなってないと思うよ!お父さんにも聞いてみよう」と涙のあとが残った顔のまま夫のところに行くと「ごめんごめん冗談だよ」と夫が娘を抱っこした。

夕飯はお好み焼きをお腹いっぱい食べた。チーズ入りと、そば入りと、どちらかを選ばなければいけない最終回。どちらも選べず、結局両方をちょっとずつ食べた。

関西弁の歌の話題になったときに思い出した関ジャニ∞(今は違うか)の大阪レイニーブルース。「かえられへん、戻られへん」というサビ部分を振り付き(歌詞に合わせて頭の前で手をパタパタと振る動きが印象的)で娘に教えた。「やーめられへん、もどられへん」と片足ずつ足を前に出す動きととも手を振る振りに変化して、娘の中で流行中だ。


2024/5/5(日) あかしはすてきなまちだよ

ゆっくり寝ている夫を起こして、朝ご飯を揃っていただき、みんなで車に乗る。今日は明石市へ。高松で訪れた本屋さんで「エルマー展」が明石でやっていることを知り、訪れるのを楽しみにしていた。

娘に途中まで読んでいたが、話が長く、少しむずかしそうで、2章ぐらい読んだところで止まっていた。行きの車の中でひとり、シリーズ1作目の「エルマーのぼうけん」を読み終える。子どもの頃読んだ覚えはあるのに内容はまったく覚えていなくて、また新しくワクワクした。

エルマー展へ。娘のことをたまに抱っこしながら、原画を見せた。フォトスポットやワニの背中を渡っている気分を味わえる仕掛けなど、ところどころ子どもが楽しめるところもあった。

私はエルマーの作者が3歳から通っていたという、物語づくりと積み木を主に学ぶ学校に興味津々だった。22歳という若さで「エルマーのぼうけん」を書いたそうだけれど、3歳から物語をつくることが推奨されていたなら、さもありなんだ。また、作者が7人の娘を決して叱らなかった、というエピソードなども心に残った。

エルマーはイラストも良いから、グッズコーナーが楽しい。クリアファイルに加えて、リュウのぬいぐるみや、ポスターまで買ってしまった。ライオンがクシでたてがみをとかすイラストが描かれたTシャツもとてもよかったけれど、私はほとんどTシャツを着る機会がないから諦めた。ペロペロキャンディーを買いたいという娘を「まあまあ」と押さえて、リュウのぬいぐるみを手渡した。

エルマー展をあとにして、明石の「魚の棚」へ。特産の魚介類を扱う商店街のことで「うおんたな」と発音する。「ウォンタナ行かない?」と義理の両親が言ったときには、どんな外国かと思ったが、築地のような、日本らしい商店街だった。名物のタコを煮たものや揚げたもの、その他にもたくさんの魚介が店の前にならんでいる。商店街の中は大混雑で、じいじが行きつけという明石焼きのお店はすでに行列ができていた。

たこめしがある明石焼きのお店に、順番待ちをして入る。「卵焼き(明石焼き)」と店の看板に書いてあるお店もあったが、たしかに明石焼きは卵たっぷりで、たこ焼きよりもふわふわだった。だし汁の中に浸かってふにゃふにゃになったそれは、かき玉汁のようになった。

ふわふわでいくつ食べてもお腹いっぱいにならないだろう、と思ったが、不思議なことに10個ちょっと食べたらもう十分お腹いっぱいになった。

娘は板の上に乗った明石焼き、ひとつを残して「ごちそうさま」と言った。あとひとつだったら食べちゃいそうなところを、ひとつ残せるのが「自分の加減を知っている」ということなのだろうと感心する。

展覧会会場で、明石駅前にある3つのショッピングセンターを回って、各階に掲示されている文字を集めると、ステッカーをもらえる、というキャンペーンが開催されていることを知った。私と夫が2つのショッピングセンターにそれぞれ行き、駐車場から一番近いショッピングセンターにじいじとばあばと娘が行った。

文字はひとつのメッセージになるらしく、「みにきてくれてありがとう」だとか「ぼくのなかまをみつけてくれてありがとう」(ショッピングセンターでバラバラになった仲間を見つけてね、という企画だったから)だとかになるかと思ったら「あかしはすてきなまちだよ!」で拍子抜けした。

帰り道は渋滞していた。娘は出発から到着まで2時間熟睡し、私はおかげさまでシリーズ2作目の「エルマーとりゅう」を読み終え、3作目の「エルマーと16ぴきのりゅう」を読み始めたところで家に着いた。


2024/5/6(月) 膨れたお腹にたこ焼きを3つ追加する

雨の音を聴きながら目が覚める。午前中にグループホームに入居している夫の祖母を訪ねた。

こんな雨の日は、と、家に帰ってたこ焼きパーティをした。じいじと夫が最初焼き役を務めていたが、私にも番が回ってきた。固まり始めたたこ焼きの穴にピックを刺し、くるっと回してひっくり返す。うまく行くと気持ちがいい。

娘もやりたがって、2回、3回と夫と一緒に焼いた。できあがったたこ焼きは、娘がピックに刺して取り分けてくれた。まず、私のを入れる。「自分のも取りなよ」というじいじの言葉に「最後でいいから」と言うと、本当に最後に残ったたこ焼きを自分のお皿に取り分けた。

一番にお腹いっぱいになった娘は、食べ終わるとリビングで歌って踊り始めた。私はチューハイを飲みながら、たこ焼き機の煙越しに、ごきげんで歌う娘を見ていた。やがて私とばあばはたこ焼きをリタイアし、3人ですごろくをした。

リタイアした私とばあばもたこ焼きの最終回には復活し、パンパンに膨れたお腹に3つたこ焼きを追加した。

たこ焼きパーティが終わる頃にはもう3時を過ぎていた。お酒も飲んだしお腹もいっぱいだけど、仕事をしようとパソコンに向かう。思いのほか集中できてはかどった。

娘はどうしているだろうと下の階に降りると、夫がソファで寝ていた。娘はばあばとお店屋さんごっこをしている途中だったようで「お母さんはお仕事してて!」と両手でズズイと私の腰のあたりを押して、文字通り部屋から追い出された。

では仕事の続きをしようとパソコンに向かうが、パソコンが光りすぎてよく見えない。明るさを変えても変化がない。目を細め、顔をあちらこちらに動かしながら頑張るが、こういうときはやめたほうがよいはずだ。

階下に行くと今度は娘が「ママァ、会いたかった!」とやってきた。さっきは追い出された娘に甘えられて、一緒にお風呂に入った。


2024/5/7(火) 5→2もわるくない

夜中2度ほど娘のトイレに付き合う。2度目のトイレで起きた娘は布団に戻るとすぐ寝たようで、私は起きて仕事する。そして、荷造り。

娘はいつもより遅い時間まで寝ていた。眠りは深そうだったが、出発の時間があるから起こす。「〇〇ちゃーん」と何度か声をかけ、体を揺すると、「まだ眠たい」と目をこすりながら布団の上に起き上がった。

朝ご飯を食べる。食卓に出してもらった梅干しが、はちみつ梅だった。私はこのやわらかくて甘い梅干しが好きで、中高時代、お弁当に入れてもらっていたのを思い出す。ちなみに弟はカリカリの小梅が好きだそうで、いつもお弁当に違う梅干しを入れてもらっていた。

毎日「気持ちよくご飯を食べる」と褒められていた娘は、寝起きのせいかほとんど食べなかった。ごはんの上に乗せたまま「すっぱい」と言って残したはちみつ梅を、私が食べる。

すぐに身支度を整え、駅まで送ってもらい、じいじばあばにお礼を言って電車に乗った。

2回乗り換えて新幹線の駅へ。仕事で更に西へ向かう夫とはここでお別れだ。娘は「どうして3人で帰れないの?」「お父さん行かないで」と夫の腕にしがみついて離れようとしない。

私たちが新幹線に乗り込むのを見送って、夫は別のホームへ走っていった。

座席に乗り込むと娘は「さびしいーお父さんに会いたいー」と涙をポロポロ流す。「あ、お父さん!」。夫が向こうのホームから手を降っているのが見えた。娘は手を振り返す。すぐに出発するから、自分の車両へ走って行く夫を見送りながら「さびしいー」と口を開けて泣く。腕で自分の涙をぬぐっていた。

新幹線が出発しても、なかなか泣き止まない。「お水飲む?ドーナツ食べる?」最初は首を振っていたが「ドーナツ食べる」と返ってきた。ばあばにもらったドーナツを二人で食べた。いくらか気持ちが落ち着いたようだ。

私はパソコンを開いて仕事する。娘は「外見てていい?」と言うと、窓枠にかじりついていた。「見て!」と私の腕を掴むと「山が雲運んでる!」と言った。向こうの山の上に雲が低く垂れ込めていて、新幹線のスピードで通り過ぎるこちらから見ると、たしかに山が雲を運んで動いているように見える。

しばらくすると調子が出てきたのか、「とんとんとんとんひげじいさん」や「こぶたたぬききつねねこ」などの手遊び歌を歌いながらいた。「それじゃちょっと早くなるよー!」。YouTubeで見る歌のお姉さんになりきっているようだ。あんまり元気な声なので「ちょっとだけ声小さくできる?」と聞くと「あ!」としまった、という顔をして、それから少し小声になった。

結局少しも昼寝せずに、自宅まで4時間の道のりを帰った。

夕飯はピザを作った。ばあばにもらったピザミックスを混ぜて、家にあった野菜とソーセージを乗せて、フライパンで焼くだけの簡単ピザ。5人だったのに、急に2人になってしまって、なんだか静かだなと思う。「きっとばあばとじいじも同じように思ってるね」と娘と話す。

夕飯後、本を読んでいると、娘が「おしゃべりしましょ」と隣にやってきた。「〇〇ちゃんはおしゃべりが好きなの?」と聞くと「〇〇ちゃんはおしゃべりと、本と、書くことと、考えることが好き!」と娘が言う。「それ、私も全部好きなことだ!」「なんだか気が合うね、私たち」うふふ、おほほと盛り上がった。2人も悪くない。



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