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ごうきゅうティッシュをあなたへ[2024/4/17(水)〜4/23(火)]



2024/04/17(水) いちごジュースが飲みたくて

深夜、雨がバタバタと窓を打つ音が聞こえた。
2時半過ぎに目が覚める。まだ早いだろうと布団の中で目を閉じるが、すっかり覚醒してしまった。布団から出て自室で机に向かう。

8時頃に起きてきた娘の熱は、37度台。今日もお休みしますよ、と伝える。

朝ご飯を食べて、寝室の娘の傍らで仕事する。しばらくすると、空気が温かくて眠くなる。朝早すぎたのだ。「お母さんも一緒に寝ようよー」娘に誘われて布団になだれ込む。寝室で仕事するの、本当におすすめしない。

昼寝して目覚めると、夫はすでにひとりでお昼ごはんを食べていた。私も軽くご飯を食べる。
娘は汗をかいて寝ていた。熱を測る、今度は38度台。あがっている。

自室で仕事。娘に呼ばれる。「あっついあっつい」と言っている。「よしよしいっぱい汗かいて寝てください」と言う。「あっついよー」窓を開ける。

「まだあっつい」「どうしたらいいかわかったら教えて」と言って自室に引っ込むと、「お母さんわかったからきてー!」と呼ばれる。「うちわでパタパタすればいいんだ」。汗かいて熱を下げてほしいのにそれはない。おでこの豆腐パスターを取り替えてやる。「冷たくてきもちー!」と落ち着いた。

夕方、「お腹空いた」と娘が起きる。今日もふわふわのあんかけうどんをつくる。いちごを使ったいちごジュースを飲みたい、と言われて買い物へ。

今日初めて外へ出た。暖かい。一年でもほんの少ししかない、過ごしやすい季節というやつだなと思う。近所の空き家のお庭に、矢車菊やラベンダーやつつじが咲いている。

八百屋さんのいちごコーナーが空っぽで、徒歩10秒ほどのところにある果物屋さんへ。安くなっているいちごのパックを2つ手に取り、どちらにしようかと迷う。「それやすくなってるの、いいと思うよ」お店のおじちゃんが言う。じゃあ、と思わず2つ買う。「おいしいよそれ、ありがとうね」。商売の常套句だとしても「おいしいよ」と言ってもらうと嬉しい。

家に帰る。娘はうどんを食べ終えていた。フードプロセッサーに切ったいちご1パック分を入れる。いちごって赤くて水玉模様で緑の帽子をかぶっててコロンとしてる。本当にかわいいな。牛乳を加え、いちごジュースを作る。

甘くないけど、いちごたっぷりで、おいしいおいしいと娘と飲んだ。

娘を再び布団に連れていく。暗闇の中で仕事をひとつ終わらせる。ずっとここにいて、という子に、夕飯を作るから、と告げてキッチンに向かう。

夫に「レトルトカレーにしよう」と言われたけど、冷蔵庫に食材はいっぱいあるし、何かつくったものを食べたい。

ベーコンとしめじを使って何か作ろう、と思う。グラタン?と思ったが時間がない。オムライスをつくることにした。

オムライスを作ると、イギリスの寮で暮らしていたときのことを思い出す。手軽に作れて、自分の好きなもの。授業の合間に寮に帰ってきては、よく作って食べていた。

夫と二人でオムライスを食べる。夫のご飯を盛りすぎたような気がしたけれど、圧倒的速さで気がついたらお皿は空になっていた。

私がお風呂に入る間、娘と夫は先に寝室へ。お風呂からあがって布団へ行くと、娘はまだ起きていた。

隣の布団に横になる。今日は昼寝したからなかなか眠れないかもしれない。そう思ったのに、いつの間にか寝ていた。


2024/04/18(木) どこにも行かないで、とワンピースの端っこをつかむ

なかなか熱が平熱に戻らない。今日もようちえんを休むことにする。

「お父さんは元気?熱はある?」と娘が聞く。夫は娘の不調をもらいやすい。「今測ったら35.5度!」と夫が手の甲を額に当てていう。「嘘ついたなー!」と娘が言う。体調の悪さをごまかしていることを指摘しているのだろうか。「熱測るなら、そうじゃなくて、こうでしょ!」。娘は手のひらでおでこを触った。測り方の問題だったらしい。思わぬツッコミに夫がよろける。

朝ごはんに昨日つくったうどんを食べる。

「〇〇ちゃんはお母さんが世界で一番好き。世界で一番嫌いなのは悪者」「悪者ってなに?」「えー知らないの?泥棒とかオバケとか鬼とかだよ。お母さんは嫌いじゃないの?」「泥棒とかオバケとか鬼もそれぞれだから、それだけで嫌いとは決められないな」なんでもカテゴリーだけで嫌いと決めつけるのは尚早だと思う。

「それにね、泥棒って人だよ」。先日ようちえんの男の子のことを「悪者」と言っている子がいたときに「人だよ」と娘が言っていたのを思い出して言う。「えー人なの!?」。なるほど「悪者」というのは「人」と区別されるものだと思っていたようだ。

午前中にミーティングがあった。娘に呼ばれたら画面から消えざるを得ないかもしれない、と思っていたが、ありがたいことに寝てくれていた。

昼過ぎ、ミーティングが終わった頃、ちょうど娘が起きてくる。お腹空いた、というから、ココアをつくる。咳に効く「コーレン」が入ったコーレンココア。

近所のRちゃんのお店に野菜を買いに行こうと思っていた。行ってくるからちょっと待ってて、というと、「行かないで」と言う。すぐそこだから、すぐ帰ってくるから、と言うと「鍵閉めていってね」となんとか行かせてくれた。

Rちゃんのお店で思いがけず何人か知り合いに会った。ずっと家にこもっていたから、人と話せるのが嬉しい。展示をしていた作家さんの作品にも見入ってしまう。気がついたら時間が経っていた。いけないいけない。

家に戻って「ただいま」と鍵を開けると、ソファに座った娘が玄関の方を見て泣いていた。結構前から泣いていたのかもしれない。ほっぺに涙の筋ができている。「さみしかったあ」。ごめんね、とぎゅっとする。具合が悪い娘は、いつもに輪をかけて甘えん坊になる。

2人で一緒にお昼を食べる。「起きたらいちごに牛乳かけて食べようね」と約束して再び布団へ。私は娘の枕元に座ってパソコンを開く。娘は、「どこにもいかないように」と私のワンピースの端っこを握った。

なかなか眠れない娘を、それでも1時間は布団に横にならせて、起きる。牛乳にいちごをかけて食べた。寝室に戻る。なかなか寝ない。

娘は「〇〇ちゃんメーメーするね」とオンラインミーティングをする真似をする。メーメーとは「もしもし」のことを小さいとき「メーメー」と言っていたのが残っているもので、我が家では電話やオンラインミーティングに使う。

「今日は活動について話したいと思います」「なるべくぎゅっと、話したいと思います」「まずみんなでコーヒーを飲んでから話しましょう」と言って水筒の水を飲む。ぎゅっと話す。どこでそんな言葉を知ったのだ。

キッチンに行き、夕飯をつくる。娘もそばにいた。突然料理のやる気が降りてきて、焼き魚のほかに、グラタン、具だくさん味噌汁もつくる。

娘もそれぞれのものを皿によそって食べたが、まだ本調子ではないらしく、少しずつ残した。

夕飯を食べるあたりから、私はオンライン講座に耳だけ参加していた。寝てほしい娘は、私の講座が終わるまでずっと起きていた。

「まだ起きてるの?」とびっくりすると、「〇〇ちゃんはママとくっついて寝たいんだ」と言う。「寝る準備してくるからゴロンしててね」と言い残してキッチンや洗面所をはしごして戻ると、娘はもう寝ていた。


2024/04/19(金) 好きな方を選んでいいよ

朝熱を測ると平熱に戻っていた。

「ようちえんどうしよう?」相談してみると、「前に治ってすぐに行って具合悪くなっちゃったから休む」と言う。そんなことあったっけ。「海岸で集合だったときだよ」。娘は私よりよく覚えている。それならば、と大事をとって休むことにする。あとでお散歩にでもいってみようか、と話す。

朝ご飯を食べる。「お母さんも熱測ってみて」と言われて測る。小学校のときプールカードの「平熱」欄に書いていたのとぴったり同じ温度。嘘偽りのない平熱だった。

「〇〇ちゃんももう一回測ってみる〜」。自分で測って、ピピッと鳴った体温計を見せてくれた。37.8度。もはや平熱ではない。

「お散歩行きたかったのに」娘が泣く。仕方ない。今日も家でゆっくり、だ。

布団に連れていく。「お母さんも一緒に寝て」と言われて布団に入る。気がついたら1時間ほど寝ていた。

ぼんやりした頭で起きて、洗ったまま放置していた洗濯物を干し、仕事する。

娘はよく寝た。起きてきたときには午後2時近かった。お腹空いた、というからご飯にしらすを乗せて出すが、何か違うものを食べたいと言う。いちごを出す。

近所のRちゃんのお店におやつを買いに行ってくるね、と言って出掛ける。「遠くに行かないで」「早く帰ってきて」私に唯一許されたお出かけ。おやつを手に入れたら、もっと遠くまでフラフラしたくなったけれど、まっすぐ家に帰る。

ドアを開けると「早かったぁ」と娘がにっこりする。良かった。今日は泣いていない。

お茶の時間にしよう、とお湯を沸かす。いただきものの、フルーツとお花のハーブティーを淹れた。華やかな香りに娘と二人でうっとりする。

娘がパウンドケーキをお皿の上で半分にしてくれた。「お母さん好きな方選んでいいよ」「え、じゃあ大きい方!」遠慮なく大きい方をいただく。むしゃむしゃと食べた。

一緒に買ってきたスコーンの袋を開ける。今度は私が半分にした。「好きな方選んでいいよ」また言ってくれる。「え、〇〇ちゃんが選んでいいよ」「いいよいいよ」娘に譲られたので、今度も「じゃあ」と遠慮なく大きい方を選んだ。私が子どもの頃はいつも母が大きい方を譲ってくれていたような気がするが、まあいい。娘は本調子じゃないし、小さい方ぐらいでちょうどいいだろう、と自分を納得させる。

そのまましばらく遊んでいた。今日も娘は「ミサさん」なる人とオンラインミーティングをしている。「私はこういうことだと思うんですけど」「うんうんそうですよね〜」ちゃんと話を聞いているパートもあって、リアリティがある。そんな娘の声を聞きながら仕事する。

夕方再び布団へ。すぐそばで仕事してて、と言われて、暗い中でパソコンを開く。とても目によくないような気がする。「自分の部屋に行かせて」と言うと、渋っていたものの許しをもらえて、自室でパソコンを開いた。

パソコンを開いて2分ぐらいして、夫が帰ってきた。娘は眠りにつけず、起き上がってきた。久しぶりにシャワーを浴びさせようと、浴室に連れていく。ひとりでシャワーを浴びて出てきた。身体を拭いてやる。あばら骨が少し浮いていて、この数日で少し痩せたようだ。

夕飯を食べる。娘は全部のおかずを皿に乗せながら、少しずつ残した。

熱が出ても1日ぐらいで快復する子もいるが、娘は熱が出ると長い。体質なのかなと思う。私が十分に気を向けてあげられてないからかなと思ったりもする。とはいえ仕事する手を完全に止めるわけにもいかないしなぁ。

明日は元気になるといいな、と思いながら今日も眠る。


2024/04/20(土) 細やかな血管とアシカショー

そっと起き出して出掛ける準備をする。今日は朝から健康診断を予約していた。
まだ寝ている娘のおでこを触ってみる。ついに熱が下がったかもしれない。
ちょうど出掛ける頃、娘が「元気になった」と起きてきた。顔色が戻っている。

同時に夫が目をうるませて起きてきた。発熱したようだ。彼はいつも娘の熱をもらう。

ちょっと心配な二人組を残して、私は電車に揺られ、健康診断をするクリニックへ。移動中は読書が捗った。

とてもきれいなクリニックに足を踏み入れ、検査着に着替えて、順に部屋を訪ねる。いつも地域のホールに移動検診が来たときに参加していたから、クリニックでの検査が予想以上にシステム化されていてスムーズでほぉ!と思う。

血液検査に呼ばれる。左腕を出すと、ピリッと小さな痛みが走る。看護師さんが「うーん?」といった様子でいる。「背筋伸ばしてください」と言われて、腰を一段引き上げる。嫌な予感。針先の方向を変えているようだ。「いたいっ」思わず声が出る。「ごめんなさい、こっち取れないみたいなので反対の腕、見せてください」。

ああやっぱり。私は血管が細い(らしい)。血管の太さなんて普段意識することがないからわからないけど、その事実を血液検査のときに実感させられる。一発で血液を採ってもらえるときもあるけれど、両腕刺されることもよくある。どれだけ肥えても血管はずっと細いワタクシ。

今度は右腕がチクンとする。「あ、今度は取れました」。「水分とりましたか?血管の細い人は水分とってきてくださいね」。「2時間前までにコップ一杯」という規定量はちゃんと飲んできたのだけれど、失敗してしまった看護師さんに「飲んできたんですけど」と追い打ちをかけるようなことを言えず、「はい」と応えた。かくして両腕に止血バンドを巻きながら移動することになった。

身長と体重を測る機械に乗ったり、手元のレバーを右左に動かしながら視力検査をしたり。ほお今はこんな風に機械でできるようになったのか!と技術の進歩にいちいち感心する。

最後はバリウム検査だった。その昔会社員をしていたとき、同じチームのお姉さん方が「今日はバリウムがある」と憂いていたのを思い出す。私にとってはまだ遠い先の憂鬱な未来、と思っていたけれど、私も堂々とバリウムを飲む年頃になった。

バリウムが入った紙コップを手渡してくれた検査技師のおじさんは、いつの間にかガラス窓の向こうにいる。「はい、それでは始めましょう」とマイクを通してこちらに話しかけてくる。「右に2回転してみましょう」「はい、そこで止まって」。

バリウムを飲んで膨らむお腹と格闘しながら、ぐるぐる回転したり、斜め向きで止まったり、また回転したり、板の上で忙しく動き回る。さながらアシカショーのアシカだ。「いいですよー!」。乗せ上手な検査技師さんだったので、張り切って回転した。無事に検査は終わって、ごぼうびの魚、の代わりに下剤をもらって部屋を後にした。

帰り道、デパートで本と昼食のパンを買って帰る。久しぶりに本屋を回遊して楽しんでいたらお昼の時間を大幅に過ぎていた。急いで電車に乗って帰り、遅くなってごめん!と家のドアを開けると、しんとしている。二人は寝室で並んで寝ていた。

買ってきたパンをひとりで食べていると、夫が階段を降りてきた。夫にパンを切り分けていると、娘も降りてきた。3人でパンを食べる。

再び私は集まりがあり、出かける。今度も電車で。駅から会場までは徒歩15分ぐらいあるが、娘の熱で数日家にこもっていたから、外を歩くのが気持ちいい。八重桜の並木を歩きながら、一年でそうそうないこの良い季節の日差しを浴びた。

家に帰る。娘が「おかえり」と降りてくる。「〇〇ちゃんお皿洗ったんだ」。たしかにシンクの中に置いてきたはずの、お昼ご飯のパンのお皿や、まな板や包丁が片付いている。「すごい!」。お皿はシンクの上の乾かす場所にきれいに並んでいる。少し高いところだが、どうやって置いたのだろう。丸椅子を指して「これに危なくないように登ってやった」と教えてくれた。私が思っているよりもいろいろなことができて感心する。

「お父さんの面倒見てたんだけど、つまらないから降りてきて洗ったの」と言う。洗い物をしてくれた娘を労い、「お父さんの面倒見るって何したの?」と聞くと「隣にいてあげたり、飴の袋開けてあげたりした」と言った。夫の枕元に座って、空き箱で作った「パソコン」を開き、オンラインミーティングをしていたらしい。私が娘のそばでしていたこと、そっくりそのままでおかしかった。


2024/04/21(日) 視野の広さと優しさがすごい

8時頃まで寝てしまった。昨日久しぶりに出かけたり、アシカショーをしたりして、疲れていたのかもしれない。

すぐに娘も起きてきた。朝のルーティンを始めたばかりだった。

私は毎朝、モーニングページ、という、頭の中にあることをバーっとノートに書き出す作業をしている。その続きをしよう、とダイニングテーブルでノートを開いて書き始めたら、娘もノートを持ってきた。

「〇〇ちゃんは絵本のお話書くね」と言うと、赤いペンで「ちいさなおんなのこが」と書き始めた。たまにわからない文字を聞かれて、「ぽ」とか「べ」とかを私のノートの端っこに書く。

「できた!」と読ませてくれたお話は「小さな女の子が庭に出ると、目の前にお城が現れる」というお話だった。続きが気になるが、そこでおしまいらしい。

私も子どもの頃、文字が書けるようになってすぐ、物語を書き始めたらしい。母が言っていた。娘が同じことをするのは不思議だなと思う。もしかして人間はみな、文字が書けるようになると物語を書くようになるのだろうか。そんなことはないか。

朝ご飯を食べ、着替えて、娘の髪を編む。ずっと寝ていたから髪を編むのも久しぶりだった。娘の髪を2つの、私の髪を1つの、編み込みにした。

娘と二人で電車に乗る。陶芸作家さんの展示がされているギャラリーへ。私の母とそのお友達と待ち合わせをしていた。

ギャラリーを一通り見て、お昼ご飯を食べに行った。

私が貸した漫画5冊を、母がテーブル越しに渡してくる。ずっしりと重みのある5冊の漫画を手にしながら、母にありがとう、と言いつつ、でも今日じゃなくても良かった、と伝える。今日はこの後予定があってたくさん歩く。直接我が家に来る日、車でこちらに来る日、何か荷物を送るとき、何か別のタイミングがあったはずだ。

そう言うと「えーじゃあ持って帰るよ」と言われたがそれはいいです、と断って、漫画5冊をリュックに詰めた。

母は「おばあちゃんたちと一緒にいようよ」と娘を誘い続けたが娘は耳をふさぎ「ママと!」と粘って、やっぱり私と行動することになった。

母たちと別れて、娘と電車に乗り、隣町へ。本屋さんで開催されているトークイベントに、少し遅れて駆けつける。

「あなたにはとても退屈だと思うから、おばあちゃんたちと行ったら」とあんなに言ったのに、それでもお母さんと行きたいと言ったから仕方なく連れてきたのに、やっぱり娘は30分もすると退屈し始めた。狭い空間にぎゅっと人がいて、逃げ場もないから、無理もない。

紙とペンを与えてお絵かきしていたのもつかの間、「帰りたい」と声に出し始める。寝かせればいいのだ、と抱っこしてみるが、赤ちゃんの頃のようには行かない。

はて、と思っていると、前の席のお姉さんが振り返って、「これ見る?」と「アナと雪の女王」の最初のシーンが映ったiPadとワイヤレスイヤホンを手渡してくださった。娘は大人しくワイヤレスイヤホンを装着すると、静かに画面に見入り始めた。大変ありがたい。お姉さんの神々しい背中に胸の中で手を合わせる。

私は子育てを5年間してきたはずなのに、こういうピンチを乗り越える術をなにも持ち合わせていない、と気付かされる。娘を信頼もしている面もあるのだが、トークイベントに暇つぶしを何もなしで連れていくのは、さすがに丸腰で挑み過ぎだろう。

そんなことを考えていたら、斜め後ろの席の方が、私の前の席のお姉さんにティッシュを手渡していた。お姉さんが会釈して床を拭き始める。足元に飲み物がこぼれていたようだ。こちらを振り返ったときだったのかもしれない。私の右隣に座っていた人が、「今スタッフさんを呼びましたよ」と合図する。拭き取る紙とゴミ箱がスタッフさんから手渡された。みんな視野が広すぎる。そして優しい人たちばかりですごい。空間の温度が増した感じがした。

もちろんトークもとても面白かった。最後まで聞けてありがたい。終わった後、お姉さんにもお礼をする。

今日も本を3冊購入して帰る。昨日と今日でたくさん本を入手できて嬉しい。新しい本を持って帰るときのホクホクとした気持ちは何にも代えがたい。

本屋さんを出て、友達がおいしいと言っていた和菓子屋さんが近くにあるかもしれない、と思い出す。少し歩いたところだった。「おだんご食べて帰ろう」娘と手を繋いで歩き、和菓子屋さんを目指す。豆大福と苺大福、そして娘が「これ!」と指さした桃色のすあまを買った。

行きに足早に駆け抜けてきた、藤棚を目指す。紫色の薄靄のような花が垂れ下がっていた。娘と藤棚の下のベンチに座った。大福たちにかぶりつく。「一緒に来てくれてありがとう」「アナと雪の女王観られてよかったね」。そんな話をしながら食べた。お城のふもとの藤棚で食べる和菓子は大変良い。

駅に向かいながら、「今ポツッてきた!」と娘が言う。雨が降ってきた。急ぎ足で駅へ向かう。電車で最寄駅に着き、外へ出ると雨足は強まっていた。

前を歩く娘の後頭部は、おくれ毛がたくさんで出ている。ぴょんぴょん飛び出た髪に、透明な雨粒がたくさんついていた。あああっという間に大きくなってしまうんだなあと思う。この日このときの娘を雨粒ごとぎゅっと残しておきたくて、日記を書いているのかもしれない。


2024/04/22(月) ごうきゅうティッシュをあなたへ

8時過ぎに娘を起こす。とても深く、よく寝ていた。今日は久しぶりのようちえんだ。

オムライス弁当を作る。この前オムライスを作ったのが娘が熱を出して寝ているときだったから、風邪が治ったら食べたいと言っていた。

お気に入りの黄色いワンピースを着て、髪を三つ編みにして、集合場所へ。パラパラと雨が降っていた。これぐらいの雨ならきっと散歩に出掛けるに違いない。

私は家に帰って仕事へ。集中して原稿を書いた。書き上げてお昼ご飯。娘のお弁当につくったケチャップライスの残りに卵を焼いて乗せる。

原稿を見直してたらあっという間にお迎え。急いで出掛ける。

わらべうたを歌う輪に駆けつける。解散すると「抱っこ」という娘。抱っこしながらお母さんたちとしゃべる。

ミーティングをするために、Eコーヒーへ。娘は、「川の鯉にエサをやりにいく」というEちゃんとSくんと一緒に遊びに行った。落ち着いてミーティングに参加できてホッとする。

途中で娘はこちらにやってきた。「遊んでたんじゃないの?」と聞くと「もうおしまい」と言う。子どもたちの遊びには夢中になるときと離れるときと、波がある。突然冷めて、いや覚めてこちらに戻ってきてしまった。

膝の上にパソコンを乗せて開いている私は自分の安定した体勢で進めたいのだが、娘が膝の上に座ったり、パソコンに手を出したりするから「あー」とか「やめて」とかなった。

日が長くなったから、すっかりゆっくり話し込んでしまった。Eコーヒーをあとにして、家に帰る。

お腹を空かせた夫が待っていた。熱も下がっているようだ。こんな日はレトルトカレーさんにお世話になることにした。

娘とお風呂に入り、歯を磨く。娘が「お母さんにプレゼント作るね」と何やら手を動かし始める。

「はい」と渡されたのは、ティッシュに包まれ、赤いリボンがかけられたプレゼントだった。たんぽぽの花が貼られ、赤い字で名前が書いてある。「ありがとう、かわいいから写真撮らせて」とスマホでカシャリとする。

包みを開くと、中には庭で摘んだハルジオンと白い綿が入っていた。

これは「ふわふわティッシュなの」と娘的には肌触りの良いティッシュで包んだところがポイントらしい。

ティッシュの話をしていると「〇〇ちゃん、ごうきゅうティッシュ持ってるんだよ、お母さんにもひとつあげる」と、フルーツの香りが付いたポケットティッシュを取り出してきて渡してくれた。「ごうきゅうティッシュなの?」「ごうきゅうティッシュだよ」。高級、のことだろうか。でなければ声をあげて滂沱の涙を流すティッシュになってしまう。

「あ、そうだ、ちょっと見ないで」。私は体育座りになって頭を伏せる。「オッケー、これはあとで2階に行ったらみてね」と言うと、娘は「ごうきゅうティッシュ」を私のパジャマの胸ポケットへ入れてくれた。

あとで胸ポケットから取り出したティッシュの口を開けてみると、キラキラの、プレゼントの箱の形をしたシールが一枚目のティッシュに貼られていた。


2024/04/23(火) たけのこと春の贈り物

娘をようちえんの集合場所に送る。
今日はたけのこを掘りに行くらしい。「たけのこ食べたいから掘ってきてね!」と送り出す。

私は一旦家に帰り、Rちゃんと展示を観に茅ヶ崎へ。とてもとても良かった。カフェでゆっくりしていたら、お迎えギリギリの時間になりRちゃんの車でそのままお迎え場所へ。

私のところへやってきた娘は「たけのことってきた!」とリュックを開ける。新聞紙に包まれた片手で持ち運べるサイズのたけのこが出てきた。「ありがとう!」。

娘は何かを収穫したりということに、いつも熱心なタイプというわけではない。「他の遊びしてたからやらなかった」「重たいから持ってこなかった」などと言って収穫物を持ってこないこともよくある。今日は私がたけのこがほしい、と伝えたからきっと掘ってきてくれたのだろう。

「あとこれも、これも」と、リュックのポケットに入っていた、つつじの花やハルジオンやたんぽぽをたくさん手渡してくれた。

家に帰り、車に乗り換えて、シェアキッチンIへ。パティシエのケーキが食べられる特別な日だった。モンブランと子ども用のいちごケーキを頼んで、娘とちょっとずつ食べる。モンブランを切り分けて「これぐらいいる?」と娘のお皿に取り分けていたら「お母さんのいいぐらいでいいよ」と言ってくれた。私より娘のほうが余裕のあるときがある。

産直で野菜を買って帰る。夕飯に鶏肉のトマト煮込みを作る。

キッチンにいると、娘が「こんにちはー展示みにきました」とやってきた。ライオンの赤ちゃんを連れて展示を観に来たママ、になりきっているらしい。「どうぞ、『私の暮らし』って展示なのでみてってください」と、私はキッチンをぐるっと見渡す。「わからないことあったら聞いてくださいね」と言うと「はい、ありがとうございます」と娘は会釈した。

「お母さんプレゼント!」。今度は白い包みをピンクのリボンで結んだものを持ってきてくれた。白い包みはティッシュで、中にはピンクと紫のつつじのつぼみが入っていた。春は贈り物がいっぱいだ。

やがて打ち合わせを終えた夫が降りてきて、荷物を宅急便で送ると言って、娘と出かけていった。その間に春キャベツでコールスローを作る。

帰ってきた二人と夕飯。食べ終わった頃、夫に電話がかかってきた。夫は立ち上がって自室へ。娘は「お父さんよんでくる」と夫を追いかけていく。仕事の電話のようだから「行かなくていいよ」と声をかけるが「おとうさーん」と部屋に入っていく。まったく言うこと聞かない。こういうときは、眠いときだ。

娘とお風呂に入る。なかなか支度をしないから先に入ったら「どうして置いてくのー」と泣き始めた。眠いときは、ご機嫌ハイテンションか泣くか、2択の間を行ったり来たりする。夕飯が遅くなりすぎてしまったかなと反省する。

なんとか機嫌を保ちながら歯磨きをしてストレッチをして、布団へ。

娘の隣の布団に入ると「こっち向いてくっつこ」と娘が言う。娘の方を向く。「どこにも行かないで」と私の首に腕を回した。「行かないよ」と言うと、すぐに寝息を立て始めた。重くなった腕をそっと外して娘の顔の横に置き、私はごろんと天井を向いて寝た。



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