見出し画像

【芸術は産業となりうるか|沖縄タイムス唐獅子⑩ 2011年12月26日掲載】

*これまでに執筆した記事を振り返っています。 

英国から沖縄に拠点を移し、早くも1年がたとうとしている。これまでの芸術における現状調査をもとに、私が考えていたことをうまく代弁してくれた記述を2008年3月号の「美術手帖」にみつけた。当時のアートフェア東京のディレクターで、現在はギャラリーを経営している辛美沙さんのインタビュー記事である。それには、「芸術を産業として成り立たせていくために、行政ももっと力を入れるべきで、アートが持つ力や可能性をもっと利用するべきだ。人間の創造力は、最後に残された資源で、その創造力が生かされないとなると日本の良さや活力がなくなる」と記されていた。なぜ「アート」なのかという問いにうまく答えているように思う。

また「十分なお金がない産業には、よい人材が集まってこない。いつもボランティア頼み、安い報酬、過酷な労働条件という構造から抜けださなれば、いつまでたってもプロフェッショナルが育たない」とあった。沖縄においては、芸術の分野だけに限らず、県外や海外で実績を積んで活躍した人が多く、彼らが帰郷しても就職口が少ない。優秀な才能や人材を生かせる仕組みがほとんどないのが現状ではないだろうか。

そして「イベントでも展覧会でも、実現させるのは人間であって、人材など目に見えないものへの投資とそれを活用したシステムを作る必要がある」という記述もあった。

沖縄に特化した芸術の分野で、マネージメントという裏方の立場から海外展開を目指し、地元でその受け皿をつくり、ヨーロッパのものを紹介し、沖縄を刺激することが、私にとってライフワークとなるだろう。どのようにそれを実現するのかまだ手探りではあるが、理想と現実の着地点を見つけて、できる方法を探していきたい。これまでも高校、短大、英国留学と、奨学金を借り、自ら資金をため、どうにか方法を探して、やりたいことを実現してきた。それは今の仕事へとつながる大きな学びであり、自立への道となった。そして、それを見守る家族の支えは、非常に大きかったと思う。いろいろ心配はあったと思うが、私がやることに対して、決して「NO」と言わなかった母へ感謝を込めて。読者のみなさまも、半年間ありがとうございました。

追記:この記事を書いた時から10年以上も月日が経過していますが、試行錯誤は続いています。私が通ってきた道や見てきた景色、出会った人たちから学んだことを読んでくれた方たちと共有できたら嬉しいです。

(絵は、Yuhki Saiさんの作品です)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?