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ハゲとヘビメタと私#3

 公園の噴水広場のベンチ。
桜の花びらとチャミスルの瓶、倒れたハイボール缶2つ。
ヘビメタは歌い終わった。
曲は昭和歌謡だった。

マーティンのoo-17マホガニー
絶対プロかそこそこのミュージシャンだ。
ギターケースに終いながら会話を続けた。

「お疲れ様です」
「ありがとう」
「うるさかったでしょう」笑
「よかったですよ」
「聴き入りました!ギターも唄も」
「遠方の方ですか?ライブか何かで来てるとか」
「いえ、近くですよ」

ヘビメタがギターをケースに入れると眼があった。
眼は酷く充血していた。
かなり飲酒していたのでそれでそうなったのか桜の樹の下での花粉によるアレルギー反応か。
或いは歌唱中に感情が湧き上がり自ら涙した直後だからなのか。
その三つが重なっての身体的反応なのは明らかだった。

ヘビメタはもライブを終え帰るのかなと思っていたらベンチに坐り直しカバンからビーフジャーキーを取り出してまたハイボール缶を飲み始めた。

私の顔をチラ見した後。

「兄さん聴いてくれるぅ」
かなり酔ってはいるがシッカリはしていた。
眼の充血さえなけれは酔っているとは断定しにくい。
優しい感じのクリスタルvoiceで続ける。

「彼女と別れちゃってさあ、ホントに好きになって
大阪まで追って一緒に住んでたんだけど・・・」

「あーそうなんだぁ。人生色々ありますよ」
「兄さんまだ若いし男前やし
オンナなんてなんとでもなりますよ。」

私は高田純次風的にテキトーな事を言った。
ヘビメタが独白する。
「凄い好きだったのに
何もかも放り投げて大阪まで来たのに」

「そのオンナの為に何もかも捨ててきたの!」
「そういう事」
「逃げられたんだよね、もうそばにいない、
なんだよぉ、俺はひとりぃ〜」
そういふとヘビメタはほんとに泣き出した。
こういふ早朝野外で長髪の派手なカッコをした男
が初対面の人間に己れの心情を晒けだすといったシーンは想定外だった。

微かな羞恥心と憐れみの心でヘビメタを慰め、大丈夫ですよ、世の中には沢山素敵な女性がいますから
なんとでもなります。上手く成就して結婚したとしてもそれからまた大変な事もいっぱいあります。
今、私も失業して借金し病気になりやっと定職に就く事ができましたが誰にも理解されず別居する事にして来月離婚するんです。
子ども2人が心配です。
そんな「女」くらいで落ち込まないでください兄さん。
ヘビメタの「感情」「心情」に突き動かされ
言わなくていい事まで早朝ヘビメタに話した。

うつむくヘビメタの肩を摩っていると蹴りの練習を終えたハゲハンサム空手はママチャリに乗って帰りの挨拶に来た。
「どうしたの?」
「兄さん。女の子に振られたんだって」
「・・・・」
ハゲハンサム空手は優しい眼差しでヘビメタに言った。
「にいちゃん、人生色々あるさ。
頑張れよ」
そういうと空手着のままママチャリで帰って行った。

ヘビメタの涙、嗚咽が収まった。
ヘビメタは私に礼と謝罪をし私とヘビメタも無事帰る事になった。
ヘビメタはまだ少しベンチに坐って呑んでいくという。
「じゃあ」
といい私は森之宮、玉造方面へと歩き出した。

公園を歩きながら頭の中を整理する事にした。
花見のシーズンとはいい
花冷えの朝にヘビメタの熱唱を聴き
その生活、心情の告白に感情が揺れ
空手着を来たハゲの小さいオッチャンが立ち会い
それぞれの方向へ歩いて行った。
ただそれだけの出来事だった。

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