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第2話 フェイクニュースを裁判にかけるPutting fake news on trial

(“The Daily” by The New York Times. 2018年5月24日より)

こんにちは。なおきです。

なおきnoteでPodcastを主なネタ元にすることにしたのには、僕なりの理由があります。

一つは、Podcastの番組の豊富さです。時事ネタ、政治(前回のアメリカ大統領選のときは、アメリカ政治通になるぐらい聴いてました)、ライフスタイルなど、大体30分ぐらいで、満足する内容が聴けるので、Podcastは通勤の行き帰りに最適です。

そういうわけで、Podcastを聴き続けて早5年。ストックも相当溜まってきました。

ブログを始めた原点

今日は軽いトピックスを・・・と思ったのですが、ウクライナの戦争のニュースを見ながら、そういう気分にもなれず、少し真面目なことを投稿します。(もともとこの文章は社内ブログで記載しました)

今まで一番考えさせられ、また感動したPodcastが、このニューヨークタイムズのエリザベス・ウィリアムソン記者によるPutting fake news on trial の回でした。ブログを始めようと思った僕の原点かな。

 ※注


アメリカでは、残念なことに、頻繁に銃の乱射事件が起こります。その中でも最も悲惨と言われている銃の乱射事件が、サンディフック小学校の銃乱射事件です。この事件は、2012年に起き、同校の5歳から12歳の生徒20名を含む26名が射殺されるという極めて悲惨な事件でした。

この銃乱射事件で使用された銃の製造元であるレミントン・アームズ社と遺族との裁判は、事件から10年も経った先月(2022年2月)に多額の賠償金を支払うことで和解になりました。


なんで、誰でも知っている悲惨な事件がフェイクニュースになるのか?

この疑問について、ホストのマイケル・バルバロ(ジャーナリスト)のインタビューに対し、事件を取材したウイリアムソン記者が答えていきます。

フェイクニュースって日本にいると、そんなに意識しないのですが、それは、既存メディアの力が強い(信頼性も高いと思います)のと、インターネットでも、Yahooのような情報の信頼度が高いプラットフォームが圧倒的多数の人に使用されているため、フェイクニュースが生まれにくい土壌があるのかもしれないですね。

一方、アメリカは、トランプが大統領になってから、フェイクニュースがエスカレートしているような気がします。僕は専門家ではないから詳しくは言えませんが、FOX NEWSとかMSNBCの番組とかを見ていても、事実確認とか以前に、キャスターが自分の意見を「事実前提」で主張している番組が多くて、日本のメディアのありかたと違うことに違和感を抱きます。そういった意見を全面的に出すメディアが多い中、Webでのプラットフォームは、フェイクニュースをますます生みやすくしているのだと思います。

 ※注

サンディフック小学校の銃乱射事件がフェイクニュースになったきっかけ

この事件がフェイクニュースになったきっかけは、一部の人たちがサンディフック小学校の乱射事件はなかったと言い始めたところからです。彼らの主張によれば、「サンディフックの事件は、銃規制を望む政府の一部の関係者が、事件が起きたかのように世論に訴え、銃規制を進めるためのものだ」と。

サンディフック事件で亡くなったとされる子供たちは役者(child actors)で、実際には殺されてはおらず、それは演技に過ぎないのだということです。

このブログでも将来触れるQアノンにも通じるような陰謀論です。インターネット以前の世界では、このような陰謀論は、社会の片隅に潜んでいるだけでした。しかし、今日、そのようなある種「無邪気」な陰謀論は、インターネットの遥かに大きなネットワークの中で肥大化していきます。また、そういう「トンデモネタ」で広告収入等が大きく得られるのも、この種の陰謀論が大きくなる背景です。

さて。このプロットの中心になった人物は、アレックス・ジョーンズという人物です。ラジオ、インターネットの番組を通じ、このサンディフック陰謀論を声高に叫んだのです。

※注


もちろん、これがフェイクニュースであることは明らかなのですが、時間から日が経つにつれて、なぜか事件そのものがなかったというフェイクニュースの方が力を持ち始めるのです。 テレビや新聞の報道するニュースは、日数の経過とともに露出が減ってきます。ただ、アレックス・ジョーンズのような人たちは、残念ながら、毎日毎日、その意見に賛同する仲間を募ります。すると、どんどんフェイクニュースが広がり、徐々に「本当はサンディフック小学校乱射事件ってなかったのかも」などと思う人が増えてくるのです。

このフェイクニュースの先鋭化により、犠牲者の家族は、大きな苦しみを受けることになります。息子や娘が亡くなった悲しみから癒えない状況のまま、今度は、多くの誹謗中傷や脅迫、そして亡くなった子どもたちは役者だったのだというフェイクニュースで、嘘つき呼ばわりをされることになったのです。フェイクニュースとは、このような形で、暴走していく恐れがあるということですね。

エリザベス・ウィリアムソン記者は、「ジャーナリズムは取材をし、事実、真実を積み上げていくとことだ」言い、その対極にあるのがフェイクニュースで、それは、「自分達のみで、情報を確認し合い、事件の対象を取材しないことの積み重ねによって作られていく巨大なディストピア(暗黒世界)である」と論じます。

その上で、彼女はサンディフック乱射事件の遺族を取材したときのことを語ります。ウィリアムソン記者は6歳の息子ジェシーを亡くした父親のインタビュー行います。

「あの日の朝、ジェシーは、背が伸びたせいで少し短くなったズボンと、マリオのバックパックを背負っていました。ジェシーと私(父親)は、家を出て学校に向かう途中、朝食をとりました。

ジェシーは、ソーセージのサンドイッチを食べました。なぜなら、ジェシーは、ベーコンを食べて咽せたことがあったので、ベーコンを避け、ソーセージにしたのです。ジェシーは道すがら、私に『午後2時にジンジャーブレッドハウスを作るんだけど、お母さんも学校に来てくれる。それがとてもスペシャルなんだ』と、話しました。

学校の前で、ジェシーは私に大きなハグをして、 私はI love youとジェシーに言って、それが、親子の最期の時間になってしまったのです。」

父親は、「このような(フェイクニュース事件)ことがなければ、この日のジェシーとのやり取り、特に最後になってしまったジェシーとの時間について他の人に語ることなく、自分の胸の内にとどめておきたかった」と語ります。

ただ、フェイクニュースが間違っていることを証明するには、ジェシーが子役でないこと、自分の本当の息子であること、彼はすでに亡くなっていること、家族は酷く悲しんでいること、そして彼と過ごした最後の時間も含めて事実を証明しなければならないのです。

悲劇を証明しなければならないことは、正しいことではない

このPodcastの最後に、タイムズのウィリアムソン記者は、言葉を震わせながら、ある遺族の言葉を引用し、結びの言葉としました。 “It‘s not right that we should have to prove that the tragedy took our children happened.” (自分たちの子供を奪われた悲劇を、我々(遺族)が証明しなければならないことは正しいことではない)遺族の行き場のない苦しみを語るウイリアムソン記者の話に目頭が熱くなりました。

このPodcastを聴いて、フェイクニュースのもつダークな意味合い、なぜ、フェイクニュースを我々は止めなければならないか、について初めて理解できました。フェイクニュースという言葉のサウンドのもつ、軽さ(もしくは軽薄な)と、フェイクニュースのもたらす重さ(ダメージ)とのギャップに驚かされます。

フェイクニュースは、決して面白いものでもなんでもない

情報が溢れる今の世界において、フェイクニュースの恐ろしさを認識し、且つ、正しい情報において判断することを、僕たちはもっと認識しなければならないのだと思います。ウクライナでの戦争も、ロシアによる情報操作(≒フェイクニュース)があったと言われています。大きな紛争事態を前に、考えさせられました。


※注:リンク先は英文となります。PCでしたら、Googleクロームで開くと右上のPOPアップから日本語訳が選択できます!が、コンテンツは有料なものも含まれますので、ご自身で判断してご利用ください

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