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Appleのメジャーリーグサッカー長期契約、3つの注目点

Appleが米国サッカーリーグMLSと10年の長期契約を締結しました。さらに米国だけでなくグローバルでの権利獲得となり、大きなニュースになりました。今回気になった3点について、お話していこうと思います。

契約内容まとめ

まずは今回の契約内容のまとめです。

  • Apple TVアプリ内でMLS公式戦全試合などを全世界で視聴できる独自ストリーミングサービスを来年より開始。詳細は今後発表。

  • SVODサービスのApple TV+でもいくつかの試合を視聴可能。無料配信も予定。

  • 公式戦及びLeagues Cupには英語とスペイン語のコメンタリーがつく。カナダのチームが関わる時にはフランス語コメンタリーも。

  • iPhoneやiPad等のApple製品だけでなく、Amazon Fire TVやPlayStationなどApple TVアプリケーションを利用できるすべてのデバイスで視聴できる。

SportsProによると試合開催日を水曜と土曜に固定し、各試合でまちまちだったキックオフ時間も調整されるとのこと。これにより実施中の試合をザッピングしていくNFL RedZoneのような番組も想定されているようです。


以下、今回の契約で注目したポイントを3点ご紹介します。

①「全試合」を「全世界」で「多言語」中継

世界的に見ても、メジャースポーツでは初めての試みとなります。グローバル一括でメジャースポーツの放映権を獲得したのは、最近ではインドクリケットIPLの2018-2022シーズンにおける、Star India(現在はディズニー傘下)の25.5億ドルでの獲得というのがありました。ただしこの時はサブライセンスを全世界で行い、例えば米国はWillow、イギリスはSky Sports、日本などはYuppTV等と各国で視聴先は異なっていました。

今回もサブライセンスの可能性はあるようですが、Apple TVにおいてグローバルで全試合視聴できるのは確実です。

また注目しているのは多言語での中継です。全試合を英語に加えてスペイン語で中継をするというのは、当然米国内のスペイン語圏へのアピールはありますが、スペインやアルゼンチンなどの各国へのアプローチをより積極的に行いたいというMLSとApple双方の思惑があったのだと思います。恐らくプレゲーム/ポストゲームも展開するでしょう。さらに2025年からポルトガル語にも対応する予定というのも当然海外を見据えてのことです。


② 米国ローカル局での中継がなくなる 

これまでMLSは米国内では大きく分けて3つの中継がありました。

  1. ESPNやFOXの全国中継

  2. 放送エリア外の試合パッケージ

  3. ローカル局による各地域での中継

今回は3のローカル局での中継がなくなるというのが大きな注目点です。順に説明します。

まず全国中継は長い間ESPNを中心に行われてきました。昔のイントロはこちら。

SBJによるとESPNやFOXとの全国放送に関する交渉は続いているようですが、これまでのような独占ではなく、Apple TVでも中継されます。この場合、制作はESPNが行い、そのフィードをApple TVで流すとのこと(基本はMLSが制作し、報道では費用は年間5,000万ドルとの報道も)。

MLSにとっては認知度を高めるには全国放送は死活問題と言えます。しかし独占ではなくなることでESPN等にとっては魅力が薄まるので、契約されるか気になります。


続いての「放送エリア外の中継パッケージ」というのは英語でOut-of-Market Packageと呼ばれており、 NFL Sunday Ticketのように居住エリアの地上波や有料チャンネルで中継していない試合のみを中継するパッケージとなります。MLSはその昔MLS Direct KickやMLS Liveという独自パッケージがありましたが、最近はストリーミングサービスのESPN+やDAZNで展開されていました。

今回はApple TVで展開されるということで、ESPN+などでの中継は終了となります。


そして3つ目の各地域の中継です。これまではRSN(地域スポーツネットワーク)を中心に、地上波ローカル局でも中継されていました。下記は過去の主なイントロ。

今後はこのようなローカル局での中継が一切なくなってしまいます。ただ、一部のファンにとっては実は朗報なのです。MLSの試合を中継していたRSNが、多くの有料放送プラットフォームと契約で揉めたため放映されなくなっており、見る手段が限られていたのです。詳しい歴史は下記をご覧下さい。

今回Apple TVのパッケージではブラックアウト(地元局等が中継していることによる放送停止)がないので、このような心配はなくなります。

コロラド州の新聞、The Greeley Tribuneでも指摘がされていました。

Altitude SportsとComcastやDISH Networkとの長年の争いの膠着状態から抜け出す機会をRapidsサポーターに与えることになる。

Altitudeはコロラド州やユタ州など山岳部で展開するRSN。ラピッズはコロラド州のMLSチーム。中継のイントロはこちら。


ただ一方で、地元チームにフィーチャーした中継がなくなる可能性もあります。これまでは例えばサンノゼ対ポートランドの場合、下記のようにサンノゼはNBC Sports Bay Area、ポートランドはRoot Sports Northwestでそれぞれのチームをメインに中継されています。

それが今後はこのような放送形態ではなくなり、1試合1番組の中継になりそうです。これについて新サービスでの対応策としては、現地ラジオ局に音声を変更できるよう準備しているという報道もあります。

 

③ シーズンチケット保持者には無料で提供

クラブとの連携で言えば日本ではDAZNがJリーグ各クラブのショップで使えるクーポン等をつけた、クラブ独自の年間視聴プランのカードを販売しています。一方で今回の契約ではシーズンチケットを保有しているサポーターに対して無料で提供するという思い切った策を打ってきました。

ホームはスタジアムで応援し、アウェイはApple TVで楽しむというスタイルが浸透すれば、相乗効果は出るのではないでしょうか。しかしこうなると尚更ローカル局の音声は欲しいですね…。

イギリスではプレミアリーグなどのサッカーの試合において、土曜午後3時キックオフの試合は中継できないという古いルールが未だにありますが(放送によって観客が減る等が理由)、大西洋を挟んでスタジアム来場者に対する対応が大きく異なるのは興味深いです。


ついに始まったGAFAのスポーツ獲得

今回このニュースを聞いてまず感じたのは、GAFAがライブスポーツに参入という、"この時がついに来た"ということでした。これまではAmazonが米国でNFL、イギリスでEPL、さらにフランスでリーグアンと各国で権利を獲得してきましたが、グローバルで獲得したことに驚異を感じました。

そして今回の一連の報道でもう一つ驚いたのは、2019年の時点で、リーグはクラブに2022年以降のローカル契約を結ばないよう指示していたというのです。これまでの慣習を覆したこの決断には驚かされました。

ただ考えてみれば、2026年に米国を中心にFIFAワールドカップが開催されますので、MLSとしては一気に勝負をかける時と判断してもおかしくありません。10年という長期契約は相当な覚悟が必要です。


米国ではNHLを抜いて第4のメジャースポーツになったと最近言われるMLSですが、まだまだ上との差は大きいです。フォーブスによると、ESPNでの2022年シーズンのMLSの試合は14試合を通じて平均29万2500人の視聴者を獲得しており、昨シーズンのMLSの33試合の平均視聴者数の約273,000人からは増加しています。しかしメジャースポーツと呼ぶには寂しい数字です。

それは放映料にも表れています。NFLは年間約100億ドル、NHLでも約6億ドルという放映料の一方今回のMLSはグローバルで2.5億でした(現地報道では放映料というより"最低金額"という表現がされていますが)。これが高いか安いか判断は分かれそうですが、今後のGAFAによる全世界一括のスポーツ放映権獲得に向けた試金石になることは確実です。

これから数ヶ月のうちに詳しいプランが発表されますが、日本を含めどのくらい加入者を獲得できるか、そしてGAFA各社の今後の動きがどうなるか、とても興味深いです。

(Image courtesy: Apple/MLS)

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