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<<創作大賞 恋愛小説部門>>連載小説「憂鬱」-12 ユリアの母親がいじめに反逆!

敦子はユリアとともに学校に乗り込んできた。彼女の顔には、憤怒の色が強く滲み出ていた。彼女の手は拳になり、目は炎を吹き出すようだった。彼女は沙知絵を訴えるために、猛烈な怒りを胸に秘めてやってきたのだ。

校内では、放課後の静けさが漂っていた。教室や廊下は空っぽで、残るのは猫の毛がザワザワしただけでも音が聞こえそうな静かな雰囲気だけだった。しかし、その静寂はユリアの母親の怒りによって一変した。

「ユリアの母親が来たぞ!」という囁きが広がる中、体育教師である早瀬は窓の向こうにそれを確認した。沙知絵はまだダラダラと美術室に仲間とたむろしていたのだが、職員室へ向かう敦子とユリアの姿を偶然にも美術室の窓から見てしまった。

敦子は、まるで地球に落ちてくる隕石のように、前触れもなく落ちてくるようなパワーで、職員室をすり抜け、校長室へと突進していった。

沙知絵の表情は、二人の姿を見たことで、驚きが恐れに変わっていった。
「そういえば、ユリアの母親って弁護士だったわよね?」

彼女は自分のしたことが大きな波紋を呼び起こしたことを悟り、恐れに打ち震えるようになった。

学校へ残っていた、校長の坂本、体育教師の早瀬、そして国語の教師である山本が、事を察していたのか、神妙な面持ちで敦子を迎えたのだった。

彼らは怒りに満ちた敦子を静かに校長室のドアを開けてソファへ座るのを凝視していた。何を語ることもなく、お茶を入れてみたり、そこいらにあったお菓子を並べたりして、落ち着かせるための努力をした。

「事情をお聞きしたいと思いますので、お話しいただけますか?」と校長の坂本が丁寧に問いかけた。

ユリアの母親はまだ怒りに満ちた表情ではあったが、弁護士としての冷静さを忘れなかった。坂本の穏やかな声に少しずつ心が落ち着いていくのを感じた。彼女は深呼吸をし、なんとか自分の感情を抑えようと努めた。事を荒立てるつもりはなかった。

自も弁護士の仕事で忙しい上、娘の揉め事に時間を割いてる暇は正直なところなかった。

だが気持ちとは裏腹に、母親として娘を守るための憎悪なのだろうか、教師たちのもてなしを遮るように、お茶や菓子にはいっさい手をつけないままポケットからスマートフォンを取り出した。

ユリアが録音していた会話を再生したのだった。静かな学校に、沙知絵たちのいじめの音声が響き渡った。

「ユリアが脅威を感じていたため、当人たちの許可なく、音声を録音していました。

この録音機は、私が仕事に使っていたものです。最近は、携帯で録音できてしまうので使ってなかったのですが。ユリアが私の部屋に入って、勝手にデスクから持ち出していたんです。きっとこういう状況が来ることを察して、準備していたのかもしれません。

録音機を勝手に娘が使ったことはさておき、こういう状況であれば、仕方ありません。

ユリアに対する彼らの行動は、法的にも問題です。私は弁護士です。この録音は私の娘が岩木沙知絵さんから受けたいじめの証拠です。」とユリアの母親が冷静に状況を伝えた。

校長と教師たちは驚きの表情を浮かべ、その場に固まってしまった。彼らはこの予期せぬ展開に戸惑いながらも、深刻な表情でユリアの母親の話を聞いたのだった。

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