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連載小説「憂鬱」-6 ユリアをいじめから救えるのは玲実?

ユリアはバルセロナで生まれ、父親の仕事の関係で幼少期をそこで過ごした。その環境から、彼女は幼い頃から複数の言語を自然に習得し、バイリンガルとしての才能を発揮していた。

父の仕事の都合で、ユリアの家族は日本に移ることになり、彼女はその後日本の私立高校に入学した。

しかし、新しい学校での生活は思ったよりも複雑だった。

日本人とアメリカ人のミックスであり、バイリンガルであることが、彼女の違和感や疎外感を引き起こす一因となったのだ。彼女は日本語と英語の両方を自在に操るが、そのアイデンティティは、周囲から受け入れられることなく、時にはいじめの対象にされることもあった。

中でも沙知絵は、ユリアのことを目の敵にしていた。

彼女は、ユリアがミックスであるがゆえに、肌が透き通るように白く、目鼻立ちがくっきりしていて、少し巻き毛で茶色い髪の色で美しいことを妬んでるのだろうか。

それまでは、自分がほかの女子より少しばかりカワイイということで、注目されていたのだが、ユリアが転入してからは、男女問わず、生徒たちの注目はユリアへと傾いたのだった。

次第に、ユリアをいじめることに喜びを感じていた。彼女の攻撃は、些細なものから始まり、次第にエスカレートしていった。

最初は、沙知絵はユリアの上履きを隠すような、子供っぽいいたずらを行った。ユリアが学校へ行くと、彼女の上履きはどこにも見当たらない。ユリアは、しかたなく職員室へ行って、ゲスト用のスリッパを借りてクラスへ向かった。

教室へ入ると、クラスメイトがゲスト用の茶色いスリッパをはいてるユリアを指さして、笑い声をあげた。ユリアは立ち尽くし、呆然とした表情を浮かべるしかなかった。

しかし、それだけでは沙知絵の執拗な攻撃は終わらなかった。

次は、ユリアの教科書やノートに落書きをするという手口だった。ユリアが机を開けば、ページの端に油性ペンで「バカ外国人」と書かれていることがしばしばだった。その文字が彼女の目に入るたび、心が傷つき、悲しみに包まれた。

ユリアは何度も教師や学校のカウンセラーに相談したが、問題が解決されることはなかった。彼女は一人ぼっちで、沙知絵の攻撃に対処しなければならなかった。しかし、その過程で彼女は自分の内なる強さを見出すことになる。

友達から外され、理解されないことで、彼女の明るさは徐々に薄れ、引きこもりの傾向が強まっていった。

学校では辛い毎日だったが、放課後にはこれまでと同じようにバレエのレッスンへ通った。日本移住後に通い始めてから、すぐに仲良くなった友人の玲実(レミ)も変わらず通っていた。

玲実とはバレエのクラスで会うだけなので、バレエのこと以外には、あまり話をするチャンスがなかった。

なので、学校でいじめられていることを、相談することができなかった。そんなある日、玲実が珍しく、次の週末、一緒にバレエを観にいかないかと誘ってくれたのだった。

「とっても急なんだけど、金曜日にロミオとジュリエットのバレエを一緒に観に行かない?母と行くはずだったのだけど、急に母は祖母のお世話をしなければならなくなって行けなくなったの。」

「えっ?うれしい。その舞台、私も観たかったの。ありがとう。ぜひ一緒に行きたい。」

その日から、ユリアは週末が待ち遠しくなるのだった。

学校では、相変わらず、沙知絵のグループから、些細なことでからかわれたり、無視されたりしていたが、バレエを観に行くことを考えて、どんないじめもスルーしようと心がけたのだった。

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