見つかった。何が? 蝋梅が。
冬の寒さの底にあって、真っ先に春の予兆を知らせてくれるもの、それが蝋梅である。
今日、淡く透き通った黄色のつぼみがほころびかけているのを見つけたときは、飛びあがるほどうれしかった。
気に入った花に出会うと、そっと顔を近づけて、香りをかぐ。
そのときの期待にわくわくするようなときめいた気持ちは何とも言えない。
どんな匂いがするんだろう?
もちろん記憶で知ってはいても、私は”その花”の香りをかぎたい。
おお! 清涼感のある、甘くて、力強くて、爽やかな匂い。
胸の奥まで花の香りを吸い込むと、その香りの分子は、鼻腔や肺胞の粘膜を通して、こちらの身体の内部へと染み込んでくる。
そういえば、ある女性が言っていた。香水ほどエロティックなものはないと。
私の身体から発された香りの分子が、宙を漂って、彼の身体の内部に入り込んでいくのだからと。こんなにすごいことってある? 暴力的かもしれない。彼が望むか望まないかに関わらず彼の中へと浸透していくのだから。でも、想像するとどきどきするわ、と。
自然の花には、そこまでの企図はない。ずっとナチュラルだ。
こちらから積極的に近づいて行って、花の奥に秘められた仄かな匂いを、積極的に、顔全体で嗅ぎとりに行く。その、謎をときあかすような瞬間。
(少し音楽に似ているかもしれない)
あらゆる花たちの中でも、梅は本当に特別だ。
梅は「咲く」とは言わず「ほころぶ」というのだそうだが、そうやってポツリポツリと、点々とほころぶ花から漂ってくるのは、万葉集の恋の歌のように、実に濃厚で妖艶な香りなのだ。
蝋梅の場合は、そこに不思議な清涼感が加わる。
こうした香りを楽しむことは、生きていてよかったと思えることの一つだ。
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