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音楽書紹介「天国からの演奏家たち」(池田卓夫著 青林堂)

※インターネットラジオOTTAVAで10/27(金)にご紹介した本の覚書です。

著者の池田卓夫さん(1958年生まれ)は、元日本経済新聞文化部の音楽担当編集委員で、クラシック音楽業界で知らぬ人はいないほどの存在。私も特にフリーランスになったばかりの頃、随分と助けていただいた。
本書は、アイザック・スターン、ヘルベルト・フォン・カラヤン、中村紘子にはじまり、大町陽一郎、テレサ・ベルガンサ、ジュゼッペ・シノーポリにいたるまで、物故者となった名演奏家たち30人のキャラクターを紹介する内容で、「モーストリー・クラシック」誌への連載からまとめたものである。

インターネットがあるおかげで、クラシック音楽に関しても、ちょっと検索すれば誰でもあっという間に専門家並みの物言いができるようになった。昔だったら何年もかかってようやく手に入れた音源や情報も、コツさえつかめば楽々と手に入る。
しかし本書を読むと、そういった即席の知識など到底及ばない領域があると思い知ることになる。ここに書かれているのは、ドイツ語も堪能で行動力ある池田さんだからこそ得られたアーティストへの貴重な取材経験に基づく情報やエピソードにあふれているからだ。読み進めるうちに、おそらくどんなツワモノのオタクでも嫉妬心に身を焦がす羽目になる(笑)。
やはり大切なのは、いかに良いものをたくさん聴いてきたかということだ。そういう意味でも、これはクラシック音楽愛好家にとって、貴重な演奏家ガイドともなっている。たとえばピアニストのクラウディオ・アラウ(1903-91)についての愛着に満ちた一章を読むと、ジュリーニ指揮フィルハーモニア管との録音によるブラームスの2曲のピアノ協奏曲を聴かずにはいられなくなるだろう。

本書を通読して改めて思ったのは、音楽について何かを書くということは、対象について客観的に述べているようであっても、結局のところ自分自身について書くことにつながってくる。書き手その人がどうしても反映されてしまうのだ。そういう意味で、これは池田さんについての本でもある。
https://www.garo.co.jp/archives/2127

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