「玩具 太宰治」【5/30執筆】

↑青空文庫なので0円で読めます、オススメ


これまた不思議な短編小説である。

「私は書きたくないのである。書こうか。私の赤児のときの思い出だけでもよいのなら、一日にたった五六行ずつ書いていってもよいのなら、君だけでも丁寧に丁寧に読んで呉れるというのなら。」

太宰治と物語としての小説を切り離そうと悪戦苦闘しながら読み進めている私にとって、これほどの邪魔があろうか。もはや著者の太宰治自身が小説の中に入り込み、そっと私に語りかけてくるのだから。

太宰治自身が「書きたくない」と明言しながらも書き連ねた「玩具」という作品は、1〜3歳の時の記憶をもとにしており、しかも未完で終わる。

本当に謎多き作品だと思う。私自身、1〜3歳の記憶は定かではないし、記憶を辿ってもそれが嘘か真か判別つかないのである。

それは後から取って付けた記憶なのか、それとも本当に1〜3歳の頃の記憶なのか、私には分からない。

きっと主人公も同じ感覚に陥っているのだろう。

1〜3歳の頃、特に祖母との記憶は、嘘か真か分からないが、私の心の奥底にも強く眠っているような感じがする。

そんなことを思い出させてくれる、夢物語の中のような、忘却の記憶の彼方にいるような、不思議な心地である。


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