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「列車 太宰治」【5/27執筆】

↑青空文庫なので0円で読めます、オススメ


この作品もまた太宰治と切り離して考えることは、とても難しい作業になるだろう。

短編小説なので気軽に読むことができるのだが、一貫して重苦しい雰囲気のまま物語は進んでいく。

主な登場人物は、主人公とその妻、汐田とテツさんの四名であり、タイトルにある通り「列車」を中心に据えた物語であるように感じた。

冒頭部分「列車番号は一〇三。番号からして気持が悪い。」に対する私の疑問は、解決されぬまま物語が終わってしまった。なぜ気持が悪いのか。未だに喉に魚の小骨が突き刺さっているような心持ちである。

また、上野から青森へ向けて走る一〇三の列車について、「この列車は幾万人の愛情を引き裂いたことか。」との描写があり、主人公だけでなく多くの人々がこの列車に対して良からぬ感情を抱いていることが明らかにされている。

戦時中という背景と主人公の厭な思い出が相まって暗い表現になっているのだろうが、別に列車自身は何も悪くなく、喜怒哀楽それぞれの物語があるだろうに、と思ってしまうが、浅はかだろうか。

「列車」を媒介とした、人々の暗い気持ちが丹念に描出されており、読後の感想としては、短編小説であるが、非常に読み応えのある作品であると感じている。


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